俺は窓際後ろから二番
窓際の一番後ろから二番目の席に座る、彼の物語。
果たして、俺が最後に彼女を見たのはいつだったのだろうか。
昼休憩が終わった後の授業。
窓から差し込む暖かい陽気とお腹を満たす満腹感から、いいようのない眠気が襲ってくる。普段授業中はノートにラクガキをしているか、窓の外を見ているかの俺もさすがに人間の三大欲求には勝てず、教科書を開いたまま机に突っ伏した。
開いた窓から吹く風で、カーテンがなびく。
普段はうっとうしいと感じていたそれは、こういう時に限って教師の目から隠してくれる便利アイテムへと変貌した。
ふと窓の外を見ると、どこかのクラスの女子がテニスをしている。女子しか見当たらないことを考えると、男子はきっと体育館にでもいるのだろう。
「女子」という単語を想像して、意識を俺の後ろ・・・窓際の一番後ろの席に集中させた。
新しい学年が始まってからわずか一か月で無人になった俺の後ろの席。担任の話によれば、いわゆる「家庭の事情」というやつで、退学はしていないらしい。
俺の後ろに座っているはずだった、女生徒。記憶が正しければ、黒髪の着物が似合いそうな女の子だったはずだ。話したこともなければ相手の名前も知らないその子は、儚げで今にも消えてしまいそうだと思った印象通り、気が付けば居なくなっていた。
ここまで考えて思考を現実へ戻す。
俺が一方的に見ただけで、視線すらも交わったことのないクラスメイトの事をよく記憶していた自分に驚き、その驚きはすぐさまどこか納得した結果に変わった。
俺はきっと、彼女に一目惚れをしていたのだ。
席替えをしても、何としてでもこの席から動かなかった俺。一日に一回は無意識に後ろを振り向いてしまう習慣。
つまりは、そういうことだ。
その時、唐突に教室の後ろのドアが開かれた。
『・・・遅くなってすみません。』
聞き覚えのない、女性特有の高い声。
今日はクラス全員出席しているので、このクラスに遅刻して入る生徒などいないはずなのだ。・・・・後ろの席の彼女を除いて。
『えっと・・・私の席は・・・。』
「こっち。」
入り口付近でオロオロしている彼女に、すかさず声をかける。
俺の声に反応してまっすぐ向かってきた彼女と、初めて真正面から対峙した。
『今、なんの授業やってるの?』
「古典。教科書の38ページ。」
『そっか、ありがとう。』
微笑みながら一言礼を言い、席に着く彼女。
一方、完全に覚醒した俺は寝るのを止め、またペンを握った。そうして開いていたノートの端に今後の予定を書き殴る。
「・・・当分の目標は、彼女に名前を憶えてもらうことかな。」
もちろん、最終的には仲良くなれたらとは思うけど。
俺の席は、窓際の後ろから2番目。
そして、俺の好きな人の席は、窓際の一番後ろ。
俺は窓際後ろから二番
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