お祭りの中
助けた彼女と、助けられた彼の物語。
人ごみに酔いそうになり、気晴らしも兼ねて少しだけ人の流れから逸れてみた。
よく柄の悪い兄ちゃん達が固まっていると聞くけど、こんな現場に立ち会うとは思ってもみなかったのだ。
「ちょ、いい加減にしてください!」
『そんなに堅い事言わずにさ、ちょっとだけ付き合えよ。』
「だから僕は…。」
「てめぇら、全員地に伏しやがれっ!」
今回ばかりは、昔から習っていた藍綺堂に感謝しようと思った。
その日、私は友人たちと地元の祭りに来ていた。
友人たちはそれぞれ可愛らしい浴衣を着ていたが、私は一人私服だった。なんでもその友人たち曰く、私の今日の役目は「男避け」とのことだ。
確かに私は男っぽいと自覚している。しかし男兄弟4人に挟まれて育ったこの口の悪さと、女にしては驚くほどの高身長と自分で言うのも虚しくなる程のまな板な所を除けば、私だって立派な女だ。恋もしてみたいと思うし彼氏だって欲しい。ただ、どうしても私の方が男らしい性格だということだけであって、中身は普通の女子高生だ。
そんな私にあろうことか友人たちは「男変わりになって」とのご所望なのだ。冗談じゃない。来て早々にボイコット宣言をし、ある程度楽しんだ後人に酔ったと言って祭りの喧騒から一旦遠のいた。
そしてつい先程、持ち前の性格故にお兄さん達を撃退してしまった。
一体こんなバイオレンスな女子高生が何処にいるというのだろうか?…ここに居るが。
それにしても、と先程助けた少女を見る。160前半くらいだろう、高くも低くもない身長に、色白のスラッとした手足。ハーフアップで纏め上げられている艶やかな黒髪にパッチリとした瞳。雰囲気は、守ってあげたくなるご令嬢と言った所だろうか。
「あ、あの…!」
今まで黙りっぱなしだった目の前の少女が、唐突に口を開く。
身長のせいか、若干上目づかいになってしまっていて流石の私も少しときめいてしまった。
「助けていただいてありがとうございました。」
「別にこれくらい……あぁ言う事はよくあるのか?」
「えっと、お恥ずかしながら…。」
若干好奇心も入り混じっていたが、こういうことが良くあるのか聞いてみるとやっぱり何回か経験はあるようだ。見たところ今は一人だし普段は彼氏にでも守ってもらっているのか?
「それにしても、最近はしつこいって聞くからな。ちゃんとハッキリ断われよ?」
「はい! 僕だってちゃんと男としてもプライドは守り抜きます!」
「…は?」
今この子は何と言った? 私の聞き間違いか? というか聞き間違いであって欲しい。切実に。こんなに可愛い子が男だなんて…。
「僕も貴方みたいに強くなりたいです…。」
「残念ながら私は女だぞ?」
「え?」
お互い数秒の沈黙の後、示し合わせたかのように笑い合った。案外気が合うのかもしれない。その後は何故かお互いに連絡先の交換をして、ほんの少し談笑した後に別れた。
それからはメル友の如くメールのやりとりをし、たまに護身術を教えてたまにファッションについて質問するなんていう変な関係が出来上がった。
一つ違うとすれば、気がつけば何故か恋人になっていたことくらいだ。告白は流石に向こうからだったけれど、後にそのメール文を友人に見せたら「面白いくらいに立場が逆転している」とのこと。…ま、今更な気もするけど。
そして今日も………
「ちょっ!! 人と来てるんですってば!! 離してください!!」
『別にいいじゃねぇか。こんなとこで一人で待たせるヤツなんかより俺らの方がいいって。』
「というかそれ以前に僕は…!!」
「ねぇそこのお兄さん、私の彼氏になにしちゃってんの…?」
『は?』
「用がないならさっさと散りな。」
『ひぃ!! すみません!!』
女の子は可愛くて守ってもらう、男の子は強くてカッコいい。そんな世の中だけど…たまにはこんな形もあっていいと思わない?
お祭りの中
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