灰色の空

失恋した彼女が、涙を流す物語。

 冬が好きだった、だけど今は嫌いになりたかった。

 夕闇に照らされた商店街を一人で歩く。
12月中旬というこの時期になれば、街が綺麗なイルミネーションで彩られているなんて当たり前で、夜とも夕方ともいえないこの微妙な時間帯は特に見渡す限りカップルばかりだった。
 もうすぐクリスマス。多教徒な日本人からすれば、恋人同士にとって年に一度のビッグイベントの日だ。デートをしたり一緒に食事をしたり、もしかしたらその日に告白するなんてこともあるかもしれない。
 とにかく、とても嬉しい日なのだ。私以外の人にとっては。

 今にも泣き出してしまいそうなのを懸命にこらえて、履きなれないピンヒールで足早に帰宅を急ぐ。
何故こんなにも気分が沈んでいるのかと聞かれれば、答えはいたって単純明快。
フラれたのだ、しかもつい数十分程前に。思い返せば思い返すほど、彼の言葉が脳裏で再生されていく。

『ごめん、好きな人が出来たんだ。』

 なんとなく分かってはいた。
二人で会う時間が格段に減っていたのだから。私は寂しかったけど、それでも今まで彼は私と彼女の間で揺れてくれていた。まだ、考えていた分だけ、私の事を好きでいてくれた。少し虚しいけど、その事実だけで私はまだ救われるから。

『だからさ。俺達…別れよう。』

 言われなくてもそのつもりだよ。
私は貴方が好きだから、貴方の幸せの邪魔になるような事はしたくないんだ。だからサヨウナラ。
 
一つ返事で彼と別れ、張り付けていた笑みを崩す。その反動で思わず涙が出そうになったが、なんとか堪え彼と真逆の方向へ向かってひたすら歩きだした。

 ふと空を見上げると、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした厚い灰色の雲で覆われている。それはまるで、今の私の心を映しているようだった。

灰色の空

閲覧ありがとうございました。

灰色の空

好きだったから、分かっていた。 愛していたから、知っていた。 だから、サヨウナラ。

  • 小説
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更新日
登録日
2013-03-01

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