死んでもいいわ

動き出した彼に答えた、彼女の物語。

 毎週月曜日。
私の一番の至福の時間。

 放課後。グダグダとした部活を早々に終わらせ、学校近くの図書館へ向かう。そして、昨日の時点で読みかけだった本を片手にいつもの席へ歩いて行った。

(あ…またあの人来てる)

 数週間前にいつも空席だった私の隣の席に偶然座った彼は、それから私がここに来るときは毎回その席に座っていた。ただの偶然かもしれないけど。
 いつもはそこまで気にしなかった隣の彼を少しだけ覗き見る。運動部に入っているのかほんのり焼けた肌に整った顔立ちをしていた。所謂イケメンと言う部類なのだろう。制服を見てみるとまさかの同じ学校の制服で、チラッと見えた学年カラーは青だったので一つ上のだという事が分かる。そこでもう一度顔の方に視線を向けてふと思い出す。

 そういえば、私はこの人を知っている。
テニス部に所属していた友人が良く話していた、「男子テニス部の部長がカッコイイ」という話のその人だ。ということは、校内女子憧れの男子テニスの元部長さんが私の隣に居る事になる。こんな所を誰かに見られでもしたら…間違いなく殺されてしまいそうだ。幸いな事に此処は、一番奥まったスペースで滅多に人は来ないだろうけど。
 外見は熱心に読書をしていると見せかけて、心の中でそんなことを思っていると不意に手元に紙飛行機が落ちた。不思議に思い中を開いてみると、そこには紛れもない告白文。

『月が綺麗ですね』

 こんな経験なんて皆無な私は、思考回路が一時停止してしまった。そして次の瞬間には、効果音が着きそうな勢いで顔に熱が集まった。
 一体こんなものを誰が書いたのだろうと周りを見渡すと、隣の席の彼…元部長の先輩と目が合った。茫然としている私に対して彼はニッコリと綺麗な笑みを浮かべる。その瞬間、やっと冷めてきた顔の熱がまた集まってきた。


 つまりはそういうことなのだ。


 真っ赤になった顔を隠すかのように精一杯俯きながら、手元の紙に一言付け足す。

『死んでもいいわ』

 そして折り目に沿って折り直し、今度は私から彼に向って有りっ丈の想いを飛ばした。

死んでもいいわ

閲覧ありがとうございます

死んでもいいわ

行き成り飛んできた、簡潔な恋文。 思わず胸が高鳴った気がした。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-01

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