君に一目ぼれ
最後に勇気を振り絞る、男の子の物語。
月曜日の午後4時。
それは、俺の小さな恋心を募らせる日。
部活を引退した俺にとって放課後は暇で暇で仕方がなく、たまたま学校近くの図書館に向かったのがキッカケだった。
その日は珍しくも人が多く、座る場所を見つけるため奥の方まで足を進めていた。閲覧スペースの一番奥の机に誰も座っていない椅子をやっと見つけ、誰かに奪われる前に俺は迷わずソコに座り、手にしていた数冊の本を机上に置いてから特に意味もなく隣に座っていた人をチラッと見た。
瞬間、身体中を電流が駆け巡るような感覚に襲われた。それは、紛れもない俺の一目ぼれだった。
サラサラとした長い黒髪に驚くほど長いまつげ、パッと見は純情で儚げな美少女といった外見。さらに良く見るとその子は俺の通っている学校の女子指定のセーラー服を着ており、同じ学校だと分かった。 胸ポケットの校章に施された色を見ると赤色…つまり俺の一つ下の学年カラーだ。
ここまで観察しているだけなのに、俺の鼓動はすでに限界一杯だ。思わず隣まで聞こえてしまっているのではないかと言うほどの心臓の音を鎮めるべく、ほんのり赤みがさし始めた顔を隠しながら必死に読書に没頭した。
それから俺は毎週月曜日に図書室へ通うようになった。座る場所も決まって彼女の隣。俺が先に来る日もあれば彼女が先に居た日もあったけれど、お互いに座る位置は変わらなかった。ただの偶然かもしれないけど。
そんな日々が続いて2ヶ月。
この時期と言えば、何といっても卒業シーズン。学校が自由登校になったのにも関わらず、毎週月曜日は図書館へ行く毎日を過ごしていた。
会話はないけれど、彼女の隣で自分の好きな本を読みながら時間が流れていく。そんな関係が心地よくて、ずっと続けばいいと思っていた。けれど残念なことに俺はもうすぐ卒業する。そうなれば県外の大学へ行ってそのまま就職をして一人暮らし。会えるどころか全くの他人になって終わってしまうのだろう。
それならば、と思い手近にあったルーズリーフに一言書き込み、そのまま紙飛行機を折る。そして隣の席に向かって軽く飛ばした。
俺の思いも顔の赤みも鼓動の早さも、全部全部伝わればいいのにと願って。送った言葉はただ一つだけ。きっと文学少女顔負けの読書好きな彼女になら伝わるだろうと信じて、精一杯の思いを乗せた。
『月が綺麗ですね』
微かに赤くなり始めた外の景色を見ながら、俺は静かに目を閉じた。
君に一目ぼれ
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