春風より、愛をこめて

亡くなった夫を、愛し続ける物語。

 拝啓、お元気ですか? 私は今日も元気に過ごしています。

そろそろ春になってきましたね。貴方が居ない生活も、もうすぐで5年を迎えようとしています。貴方が最後に残してくれた私の宝物も、後数日も経てば高校3年生になるんですよ。
月日の流れってあっという間ですね。……こんな考え方になってきた私も、老けてきたということでしょうか。

 そういえば、春奈ちゃんが生徒会執行部に選ばれました。副会長だそうですよ。受験生になろうとしているのに、毎日忙しそうに過ごしています。
 昔の私たちを思い出しません? 私が会長で貴方が副会長。推薦も立候補もしていなかったのに、なぜかお互い生徒会選挙に名前があがっていて見事選ばれたんですよね。あのときは正直驚きましたが、今となっては懐かしい思い出です。
 だって、私たちが初めて出会った思い出ですからね。あの時に出会ってなければ、こうして愛し合うことも結婚することも…春奈ちゃんが生まれることもなかったんですよね。そう考えると、とても不思議に思えてしまいます。奇跡の出会いに感謝です。
 
 そしてもう一つとっておきのニュースです。
なんと、春奈ちゃんに恋人が出来たんです。相手は同じ生徒会の会長さんだそう。本当に昔の私たちを見ているみたいじゃないですか?

 先日、二人でいつものように夕食を食べていたら春奈ちゃんが何か言いたそうだったのでしばらく待ってみると、とても恥ずかしそうに報告してくれました。まだ付き合い始めて一週間もたっていないらしいですけどね。
 私はとても喜びましたが貴方はどうでしょうか? よく娘が一人立ちする父親の気持ち…だなんて比喩表現がありますが、私には未だに分かりそうにありません。貴方も私と一緒に喜んでくれるでしょうか? それとも少しだけ苦い顔をするでしょうか?
私はきっと後者だと思いました。だって一人娘だからと言って、貴方は昔から春奈ちゃんをひたすら可愛がっていましたもの。恋人が出来たなんて言われると、寝込んでしまいそうな勢いで落ち込んでしまうのでしょうね。

 そうそう、この前に私の部屋を掃除していたらとても懐かしいものが出てきたんですよ。何だと思います? 高校の時の卒業アルバムです。高校3年の時はクラスが別だったので一緒に写っている写真はとても少なかったですが、生徒会の集合写真にはちゃんと隣同士で写ってましたよ。あの頃を思い出して、思わず笑ってしまいました。

 だって破天荒な副会長だった貴方のおかげで、会長の私の仕事がどんどん増えて行きましたものね。本来ならば書類の最終チェックだけが会長の仕事のハズだったのが、最終的には企画書をまとめたり、予算を会計と一緒になって捻出したりと明らかに雑用係りになっていましたもの。あの時ほど「生徒会補佐が欲しい」と思った事は後にも先にもなかったと思います。

 今回はいろんなことがありすぎてとても長くなってしまいました。ちゃんと最後まで読んでくれるでしょうか? 貴方は昔から読書が大の苦手で、大量の文字はあまり読まない主義の人でしたからね。私なりに簡潔に述べたつもりなのですが、案外詰まってしまいました。書きたい事が山ほどある中で、これだけに絞ったのですから感謝してくださいよ?

 それでは、そろそろ夕飯の準備をしなければ。後数十分もすれば春奈ちゃんが帰ってきてしまいます。
 昔から貴方は風邪をひきやすい体質だったので、季節の変わり目はそちらでも気をつけてくださいね。もしこちらにいらっしゃるのであれば、風邪に効く薬程度なら渡しますよ。
 
 春風が吹き始めるこの季節に、なぜか蜜柑が無性に食べたくなっている貴方の永遠の恋人より、愛をこめて。

春風より、愛をこめて

閲覧ありがとうございます

春風より、愛をこめて

貴方の残してくれた大切な宝物は、 今日も元気に生きてくれていますよ。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-01

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