私と彼女の始まりの話。
私と、今では親友と呼べる彼女とが出会った、一番はじまりの物語。
「ねぇ。名前なんて読むの?」
初対面にも関わらず、挨拶すらもすっ飛ばした話題提起。
貴女と会った、始まりの日の物語。
華々しい高校生活が本格的に幕開けする日。つまり、入学式翌日。一クラスの生徒総数は40人といたって普通なのに対して、私が今日から所属する学科は、男子31人女子9人というアンバランス感満載の学級だった。
中学時代の3年間をすべて部活と女友達に捧げていた私にとって、男子のほうが多いという現状はただの不安要素にしかならず、若干の諦めモードに突入してしまったのが先日・・・入学式当日の話。そして今日、新たな抱負を胸に抱え期待と不安が入り交ったまま登校した。
『なんとしてでも、女友達を作る。』
それが、座席周辺の男子とも仲良くなれそうになれず、かといって他のクラスにいる中学時代の友人のところまで行くのは面倒だと考えた私の結論。否、今学期の抱負。
そうして私は、新入生最初の難問「新入生テスト」なるものをクリアし、つかのまの休憩時間に入ったタイミングで、左斜め後ろの女の子に話しかけた。・・・いや。ただしくは、話しかけようとした。
(・・・・初対面って、どうやって話しかければいいんだっけ?)
開始数秒で撃沈した。
基本受け身の生活をしていた私にとって、自身から何かアクションを起こすという行為は、数年ぶりといっても過言ではないほどに久々だった。簡潔に言ってしまえば、いわゆるコミュ障だ。
本当にどうしようかと一人で悩んでいると、とても大事なことに気がついた。
そう。私は、彼女の名前を知らない。ということは、自己紹介から入ればいいのではないだろうか。そこら辺にある、初対面マニュアルにでも載っていそうなテンプレの存在をすっかり忘却していた自分自身に溜息を吐き、私は意を決して後ろを向いた。
(そういや名前って上靴に書いてあるような・・・!?)
誰がこんなことを想像しただろうか。
まさか、今から話しかけようとしている子の名前が、あろうことか最近弟がハマりだした某軽音部アニメのキャラクターの名前と同じ漢字だなんて。アニメ好きの私にとって、これほどまでにない得意分野の影を垣間見、意気揚々と言葉を発した。
「・・・なんてこともあったよね、そういや。」
何度やろうとも憂鬱にしかならない定期考査も終わり、今日も私たちは図書室に設置されたストーブの前で和気あいあいと話に花を咲かせていた。
「そうそう、それで次の日にはもうお互いアニメヲタクだってバレたんだよね。」
「ってか、最初から自重する気なかったでしょ?あのグッズの量。」
「・・・誰か釣れればいいな、とは思ってた。」
「じゃあ私はまんまと釣られたわけか。」
あの時に私の生命力がもぎ取られそうな勢いで話しかけた彼女は、今では学校一番の親友だ。話も合い、趣味も合い、思考回路も言動も似通っているとなれば・・・自然と二人で行動することが増えた。しまいには、片方が不在の場合、周囲に不思議がられるほどだ。
あくまでも他人なのだから、いくらなんでもそこまで常に一緒に行動しているわけではない・・・と、思いたい。
『そろそろ図書室閉めるよ~?』
司書の先生の合図で、パラパラとストーブ前から立ち上がる。
それぞれ、広げっぱなしのスケッチブックや教科書類の整理をしたり、特に用事がない人はカーテンを閉める作業に入った。
「ねぇ、今日の帰りにコンビニよっていい?」
「オッケー」
未だにストーブ前から離れずにこれからの予定を話し合う私たち。
といっても、時刻は既に午後6時過ぎ。冬まっただ中な今の時期、外を見れば既に真っ暗な時間帯だ。
『そろそろストーブ消すよ。』
カーテンを閉め終わったらしい司書の先生が来て、ストーブの電源を落とす。少しだけ余熱を感じることが出来たが、数十秒もすれば一気に冷えてきた。
「さて、帰りますか。」
「そうだね。」
お互い、机の上に放置したままだった鞄を肩にかけ、入り口付近に置きっぱなしの上靴をはく。一緒に暖を取りながら駄弁っていた他の生徒も、ほとんど帰ってしまったようで、あんなに散乱していた上靴は、私たちの分を含め少ししか残っていなかった。
先生に別れを告げ寒い廊下へと歩き出す。
夜になれば定時制の生徒で賑わう教室に背中を向け、私たちは寒さから少しでも逃げるべく足早に靴箱へ向かった。
私と彼女の始まりの話。
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