物恋

権力、地位、名誉、金と現代人のほとんどは目に映るものしか信用しない、本当に大事なものをわかっていながら認めない。

それは目に映らなく、あまりにもあいまいであるからなのか、どちらにしろ人間はあいまいなものを信じるということが欠けているように思える。

これは、ベタな話ではあるが、 上司 幾太 が現代人の中身のない架空の幸せについて書き綴った作品である。

物恋

私は、実業家として成功して多大な財産を得ることができた。

金、地位、そして恋人全てを手に入れ自分にはできないことなどないように思っていた。

やがて恋人とも結婚して、子供ができた、まさに幸せの絶頂だった。

こどもが中学2年生ぐらいから、仕事ばかりで息子ともまともな話をしてこなかった私は息子に冷たい態度をとられることもしばしばあった。

しかし私は子供の頃によくある反抗期と思ってあまり気にしていなかった。

順風満帆であった私の人生に予期せぬできごとは、突如訪れた、私の会社が事業に失敗して多大な赤字を出してしまった。私は責任を取ることになり代表取締役から降ろされてしまった。

一瞬にしてなにもかもを失った私に家族の態度は実に冷たいものだった。

妻は「あなたと結婚したのは、あなたにお金と地位があったからなのにこれじゃ私の人生台無しじゃない!!」と言ってすぐに離婚になった。

残ったのは中学2年の息子のみだった。
私が途方にくれていると息子が言った。
「父さんは仕事ができたかもしれない、お金があって、地位もあった、だけど母さんに対しての愛情が全くなかった。」

「父さんは人間としてはまるで魅力のない空っぽの人だった。」

「父さん・・・。今からでも間に合うよ。」

「本当の恋をしなよ・・・。 本当の家族になろうよ・・・。」

「建前だけはもういいよ・・・。 やり直そう・・・。」

息子は私に何とも悲しそうな顔でいった。

私の息子は私よりもずっと人の気持がわかっていた。

私は泣きながら「すまん・・・。」と一言だけ謝った。

物恋

物恋

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-03-01

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