Feelings world2

Feelings worldの続きです。

この状況、この状態は異常だ。

いきなりクラスメイトと戦わなくちゃいけないなんて・・・

だがこの状況を楽しんでいる俺がいる。

「て言うかなんで鳥居の奴こんな変なんだ?」

問いかけても返事をせず、ただハァハァと息を切らしているクラスメイトを見る。

「おい!なんか返事しろよ」

強めに聞いてみたが返事は、やはり無い。

「花形君。何か鳥居君の様子が変わってきたよ」

鳥居を良く見ると

「なんだこれ・・・」

鳥居はもともと華奢で勉強だけしてますって感じだったのだが、今は腕はムキムキ足はめちゃめちゃ太くなっている。

「まさか!鳥居君強くなろうとウエイトアップをしていたんじゃ・・・」

「いやいやそれであの筋肉ボディはおかしいでしょ!しかもなんであんなに目が血走ってるの?」

まさか大石さんの天然がここで発動するとは。

「いや何か早く強くなろうとして変な薬に手を出しちゃったんだよ。きっと」

「いやそれはあまりにも苦しいんじゃ・・・」

「絶対そうだわ!」

大石さんは天然なのに・・・いや天然だから自分の答えを疑わない。

天然で頑固!でも可愛いから許す!

みたいな方程式はうちの学園ではπ=3.14以上に知られている。

「うんまぁ大石さんが言うならいいんじゃない」

そんな相槌を打ちながら俺は考える。

薬とかでは無いとして、なんなんだあのガタイは。

昨日まではあんなんじゃなかったぞ。

えぇ?い考えていてもしかたない!本人に直接聞くしかないか

「鳥居!お前どうやってそんな体になった?」

「うぅ?・・・うるるる・・・」

鳥居は反応せずこちらに血走った目を向けてくる。

「がるるるぁ!」

いきなり何の予兆も無しに鳥居が襲ってきた。

「うわ!」

反射的に右のストレートを鳥居の顔面に打ち込む。

バチィン。と気持ちのいい音がしたのだが

「うがぁぁぁぁ!」

鼻血をたらしながら鳥居は突っ込んできた。

「なに!」

今回は避けられずまともに鳥居のパンチを食らう。

「ぶふぅ!?」

ボディーを深々と殴られた。

パンチの威力は強く一発で意識が飛びそうだ。

だがここは気力で持ちこたえる。

「てめぇ!なんだその力は!」

「・・・・・だけ・・・なんでボク・・・ボクだって・・・」

何かブツブツ鳥居が呟いている。

耳をすますと

「何でボクだけ・・・なんでボクだけ我慢しなくちゃいけないんだ・・・ボクだって皆と同じようにしたい・・・お母さんもお父さんもいい大学に行け・・・ボクは勉強なんか・・・なんでボクだけ・・・なんでボクだけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

鳥居が叫びだす。

誰に言っているのかは分からないが、鳥居の本当の声を聞いた気がした。

「なんでボクだけ!なんで我慢しなくちゃいけないんだ!」

「何を言ってるんだ?」

「ボクはいい大学なんて生きたく無い!ボクだって皆と同じように遊びたい!女の子と仲良くしたいぃぃぃぃ!!!」

「なんだ!何が起きてんだ!」

突如暴走した鳥居は周りにある机やイスを殴る。

鳥居の暴力は凄まじいもので机やイスが粉々になっていく。

「おい鳥居!やめろぉ」

「なんでボクだけ!なんでボクだけ!なんでボクだけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

鳥居は机やイスでは飽き足らずこちらにまで迫ってきた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

鳥居は雄たけびと共に俺に殴りかかってくる。

今回は腕をクロスに構え鳥居のパンチをガードする。

「ぐぅ!」

そんなものお構い無しに鳥居は俺を殴ってくる。

「鳥居君!やめてぇ!」

大石さんの叫びもむなしく、鳥居は渾身の力をこめて殴ってくる。

ガードの上から殴られたのに俺は後ろへ吹っ飛ばされる。

そして教室の壁にぶち当てられた。

「うぐっ!」

背中をぶつけ、息が出来なくなる。

そのまま床に崩れ落ちる。

「いやぁ!花形君!」

大石さんは俺に駆け寄ってこようとするが、その前を鳥居が封じる。

「いっいやぁ・・・やめて・・・花形君に乱暴しないで」

鳥居は大石さんを見るとニタァと笑う。

「ひっ!」

その瞬間鳥居が大石さんに飛び掛る!

「おんなのこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

男の願望を叫び声にして鳥居が大石さんに馬乗りになった。

「いやぁ!やめてぇ!助けて!花形君!」

俺は体を動かそうとするが、まったく動いてくれない。

「おんな!おんな!おんなぁぁぁぁぁ!!!」

「くそ!動けよ!動いてくれよ!頼むよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

俺の叫び声は虚しく、体は言う事を聞いてくれない。

「おんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

鳥居はとうとう大石さんの制服に手をかけた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

その瞬間、俺の頭の中で何かのネジがはずれる音と共にプチッという音もした。

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

俺は俺で無くなる感覚を覚える。

「女の子を泣かせんじゃねぇ!」

「うがぁぁぁぁぁ!」

俺の何かが変わった事を鳥居は察知したのだろうか、まだ倒れている俺のところへ来て拳を振り下ろしてきた。

「うるらぁ!」

俺は体を即座に立ち上がらせ、その拳を避ける。

さっきまで体は鉛のように重かったが今は違う。

今は体が嘘のように軽く、力はどんどんみなぎって来る。

「てめぇ女の子を泣かしたらどうなるか・・・いや俺の友達を泣かしたらどうなるか解ってんだろうなぁ!鳥居ぃ!」

「うぐぅ!」

鳥居はさっきまでの態度を改め逃げようとする。

だが狭い教室の中ではそれもすぐに終わる。

「うっうぅぅ・・・うがぁ!」

最後の抵抗と言わんばかりに鳥居は拳を打ってくる。

さっきまでの俺ならこの拳は当たっていただろう。

だが!今は違う。

最後の抵抗を難なく避け鳥居に渾身のカウンターを撃つ。

「泣いて謝れやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「うるぐぅぅぅぅぅ・・・・」

カウンターは見事に顔面にヒット。

そのまま鳥居は壁に体を撃ちつけそのまま倒れていった。

「まだおわりじゃねぇぞ」

俺は理性を半分失いかけていた。

このままコイツを殺すまで殴り続ける!

黒い感情が俺の心に渦巻く。

俺は鳥居を殺す気で拳を振り上げる。

「おるあぁぁぁぁ!」

拳を振り下ろそうとすると

「そんなのダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

後ろから振り上げた拳を両手で止められる。

後ろを見ると大石さんが俺の両手を掴んでいた。

「もう鳥居君は気を失ってるよ」

「でもコイツは・・・」

「いいんだよもう。私は大丈夫だから。それに花形君が助けてくれるって思ってたから。だから・・・ねっ?」

大きな瞳に涙をいっぱいに溜めながら俺を見上げてくる。

「でっでも・・・」

「私、花形君に助けてもらって本当に嬉しかったんだよ。それに友達だって・・・」

「いやあれは・・・」

「うそだったの?」

か細い声で大石さんは聞いてくる。

「いや違うよ!大石さんは俺の大事な友達だ!」

「じゃあ大事な友達の言う事聞いてよ!」

うぅそんな可愛い目で言われたら何も言えなくなってしまうではないか。

これは反則すぎる。

「お願いだから・・・私花形君が悲しむの見たくないから」

「俺が悲しむ?なんで?」

「花形君。このまま感情に流されたら絶対後悔するよ。そんな花形君の顔なんて見たくないから」

!!!

この子は自分に乱暴してきた奴を俺が殺すと思い、殺したら俺が後悔すると思って止めに来たのか。

一番憎んでいるのは大石さんなのに・・・

「ふぅ?解ったよ。鳥居を殴るのは止めにするよ」

「ほんとに!」

大石さんの顔がパァ?と明るくなった。

やはりこの子は笑顔が一番だな。

「それにさっきから腕に当たっている感触にそんな感情はどっかに行っちゃったよ」

「えっえっ!ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

いま大石さんは気がついたようだ。

大石さんは俺の腕を両手で抱きかかえるようにして止めていたので、なんというかその・・・やわらかい二つの感触があるのだ。

「もっもう!早く言ってよ!そういうことは」

顔を茹でタコみたいにして大石さんは叫んだ。

「いや気持ちよかったよ」

「ばっばかぁぁぁぁぁ!!」

まぁ調子に乗りすぎたわけで、見事に大石さんのスナップの利いた平手打ちを食らいました。

そのまま俺は床に倒れこんだ。

「あっあれ花形君?」

俺の体はそろそろ限界だったのでその一撃で倒れこみそのまま意識は無くなった。

「花形君?えっ!うそ!花形君!」

薄れゆく意識の中で、慌てた大石さんを見て

あぁやっぱり小動物みたいだなと思った。

「うぅ?ん」

髪を優しく撫でられる感触がした。

そんな優しい感触が俺の意識を引き起こしてくれた。

目を開けると目の前には大石さんの顔があった。

「あっ!花形君!起きた?よかった?!」

大石さんの顔は安堵の表情をしていた。

「あ?・・・あの大石さん?この状況は?」

目を開けたら大石さんの顔があったのだが、距離がすごく近かった。

「これは私に膝枕されている状況です」

「なるほど!ありがとうございます」

「いえいえ?」

つとめて冷静を装ったが内心、心臓バクバクである。

なんだこの状況は!

嬉し恥ずかしとはこの状況のことを言うんだな多分・・・

いやいやいや冷静に分析してる場合じゃねぇ!

「あっあの?とても嬉しいんですが・・・」

「なに?」

「いやそのですね、もう膝枕はいいよ」

多分このままいたら俺は発狂するだろう。

いや男子ならこの状況で冷静にいられるはずが無い。

この悩殺膝枕があと10分でも続くと頭が溶けてしまう。

「え?なんで?」

「いやそれはその・・・あのデスネ」

「あぁ?そうだよね。私なんかに膝枕されても嬉しくないよねぇ」

「いっいや!そんなこと無いよ!!」

精一杯否定した。

嬉しいに決まってるじゃないか!

だけどこの状況が続くと俺は何をするかわからない。

「嬉しいよ!」

「本当に?じゃあこのままでいて。まだ怪我良くなってないから」

「うっうんじゃあ」

おかしくなるのを後30分に延ばし俺は膝枕をしてもらう事にした。

・・・・・・・・・・・・・・

「つぅ・・・」

目を覚ましたら誰もいない教室だった。

「なんだ?何が起きたんだ?」

目を覚ました白鳥 光は誰もいない教室を見回した。

「たしかあの時・・・」

コウは哲を置いて先に教室へ向かう事にして走り、教室に着いた途端目の前が真っ暗になった。

「とり合えず外に出てみるか」

コウは教室を出ようと扉に手をかける。

「ん?なんだ開かないぞ」

扉は微動だにしない。

そしてふと扉の窓から見える教室のプレートを見るとそこには3?3と書いてあった。

3?3は校舎の2階の一番奥にある。

「俺の教室は2?3だよな。確かに2?3に入った気がするんだが・・・」

そこで校内放送用のスピーカーから声が聞こえだした。

「どうも玉といいます」

そこからこの『Feelings world』のゲームの紹介が聞こえて来た。

「おいおいなんだこれ」

呆れていると教室の真ん中で光が輝いた。

光から出てきたのは同じクラスの香取だった。

香取は茶髪に染め、ワックスで逆立てた髪をいじりながら出てきた。

コイツは俗に言うチャラ男と言う奴で、コウや哲達とはまったく関わりがなかった。

「いよう。白鳥じゃねぇか」

「お前、何をした?」

「別に?いきなり教室に出てきただけだ」

何だコイツ?

いつもとは雰囲気が違う。

「つーかさぁ俺お前に前から言おうと思ってたんだけどさぁ。お前むかつくよな」

「はっ?」

「そのよぅ。人を見下したような目が気にくわねぇんだよ!」

「お前何を言ってるんだ?」

「お前俺を見下してんだろ!俺は頭わりぃからよ!」

「んなことねぇよ」

「俺は頭わりぃから親からは見離されてるし、友達は俺を友達だなんて思ってもいねぇしよ!」

香取の様子がどんどん変わってきた。

「俺はいつも一人だよ!ふざけんな!俺を皆して見下すんじゃねぇ!」

叫びながら香取は突っ込んでくる。

「何いってんのかわかんねぇけど、やるなら容赦しねぇぞ」

コウは突っ込んできた香取をよけ、横から上半身に裏拳をかましながら足を後ろから蹴る。

突っ込んだ勢いと裏拳の強さで香取はその場に倒れる。

「言っておくけど俺は格闘術は大体やってきたぞ」

コウは子供の頃から記憶が良かったので、本や一度見た技は完全にコピーできるのだ。

香取は呻きながら立ち上がる。

「くそぉどいつもこいつも馬鹿にしやがって!どうせ俺は何をやるにしても頭がわりぃからおせぇさ!クソクソクソ!!!」

何だコイツ?怒ってるのか悲しんでるのかわからないな。

「お前も遅くなれぇ!」

香取はコウに手を向ける。

「何のつもりだ?」

「いや別になにも!」

香取がまたしても殴りかかってくる。

コウからしたら止まって見える。

軽く避けようとしたが・・・

「な、に・・・」

体がまったく言う事を聞かず、まともにパンチを食らう。

そのまま後ろに吹き飛ぶ。

「くそ・・・何だこれ」

体を起こそうとするが、動く体はもの凄く遅くなっている。

いつもの3倍は遅くなっていた。

「お前、俺に何をした」

「いやただ俺と同じ苦しみを味わって欲しかっただけだ」

そう言うと香取は目の前に来てコウを殴りつける。

「どうだ?痛いか?痛いよなぁ。力いっぱい殴ってるからなぁ!!」

殴る殴る殴る・・・・

コウの顔はずたぼろになっていた。

「どうだ?どうだ?どうだ?もうおしまいかよぉ!!」

香取はコウの胸倉を掴み持ち上げる。

「おい!どうなんだよぉ!」

「ペッ」

コウは口にたまった血を香取の顔に吐き出す。

「てってめぇ!」

香取はコウを突き飛ばす。

「わかったよ。お望み通りボコボコにしてやるよ!」

香取は渾身の左手に力を込めて殴りに掛かってくる。

「これを待っていた」

コウはそう呟くと、香取の左腕に自分の右腕をクロスさせライトクロスカウンターを香取の顔面に打ち込む。

渾身の力を込めた自分の拳の威力と、コウのカウンターの威力をもろに受けた香取はそれでノックアウトとなった。

「ふぅ?いつもより3倍遅いのなら、いつもより3倍早く行動に移せばいいんだろ」

コウは持ち前の感性と計算力で次に香取がどんな攻撃をしてくるのかを読み、その3倍早く行動に移していた。

コウだからこそ出来る芸当、神業。

「コイツを倒すとコイツの意味解らん能力も解除されるわけか」

コウの体はいつもの状態に戻っていた。

「まぁ良くわからんがとり合えず哲と風見を探さないと」

コウはそのまま教室を出て行こうとするが、足がもつれて倒れこんでしまう。

あぁ?駄目か。

しこたま攻撃くらい過ぎて体がうごかねぇや。

まぁ少し休んでから行くかな。

コウはそう思うとすぐに目を閉じた。

2

あの頃は走るのが楽しかったなぁ。

何にも考えずただ走ってるだけでよかった。

早く走るんだぁ!って言う思いなんか無くて走りたいから走る。

そんな事を幸せに思ってたなぁ。

・・・・・・・

「うん・・・あれっ?ここどこ?」

風見は懐かしい子供の頃の記憶と共に目を覚ました。

「あれ?・・・私、何でこんなとこで寝てるんだろ?」

風見が目を覚ましたのは、校庭にある体育倉庫の中だ。

「確か私、てっちゃんとコウちゃんを置いて先に教室に入ろうとしたら・・・あれ?そこから記憶がないや」

う?んう?んと風見が考え込んでいると

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

『Feelings world』説明の放送が入った。

「なんなのよ一体?」

そう風見が呟くと、目の前のマットの辺りから光が輝きだした。

「なに?」

輝きが収まるとそこに居たのは陸上部の先輩であり、部長でもある霧島先輩が現れた。

「部長!これは一体何が起きてるんですか?」

「あら?槍崎じゃない!どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃないですよ!部長がいきなり現れたんじゃないですか!」

「あぁ?そうだったわね。でもそんなこと関係ないのよ」

「関係ないって?」

「槍崎!あなた最近、タイムを伸ばしてるそうじゃない。しかも私と同じの400Mで」

「いっ今は関係ないじゃないですか!」

「いいえ。私には関係があるのよ」

最初からそうだが部長の様子がおかしい・・・

まずこの状況を何とも思ってないようだし、しかも話ができない。

「ぶっ部長!そんなことより・・・」

「そんなことじゃない!!」

いきなり部長はヒステリックな大声を出した。

「あなたまさか、私のレギュラーを狙ってるんじゃない?」

「私はそんなつもりは・・・」

「いえ!あなたは狙ってるわ!私のレギュラーを奪って馬鹿にする気だわ!そうよ!そうに違いないわ」

そんな事考えた事もないのに言いがかりをつけられ、風見もカチンと来る。

「より早い方が大会に出れるんだから仕方ないじゃないですか」

「ほらやっぱり狙ってたんじゃないの!」

「そう言う訳では無いですけど・・・」

「いいわ!じゃあここで決着をつけましょ!」

「いまですか?」

「えぇそうよ。付いて来て」

そう言うと霧島先輩は体育倉庫から出て行く。

その背中を見ながら風見も体育倉庫から出る。

「うん・・・まぶし」

ずっと薄暗い体育倉庫にいたので日の光が眩しい。

目が慣れて前を見ると校庭にトラックが書かれていた。

「じゃあ400M走を始めるけど、その前に私の能力を使わしてもらうわ」

「能力?」

何を言っているのかさっぱり解らない。

「別に。少し暑くなるだけよ」

そう言って霧島先輩は手を高く上げる。

「さぁ真夏のスポーツの始まりよ」

そう霧島先輩が呟くと、周りの温度がどんどん上昇していく。

「うっ!何ですか?先輩これ?」

霧島先輩は答えずただ暑くなるのを待つ。

その間にも校庭は真夏・・・いや砂漠くらいに暑くなる。

どんどん、どんどん暑くなる。

「まぁこれくらいかしら」

これ位と言うが多分40度以上はあるだろう。

「じゃあ始めましょうか」

しれっと霧島先輩が言い放つ。

「何をしたんですか先輩?」

すでに汗だくになっている風見が聞く。

「別に。なんでもないわ。私の”死の太陽”(サン オブ デス)の能力よ」

「なんですかその”死の太陽”って」

「あの人に付けて貰ったのよ」

「あのひと?」

「えぇ。あの人は私にこの能力をくださったわ。お前には人を恨む感情があると言ってね」

あのひと?あの人とは誰だろう?

この馬鹿げたゲームの主催者だろうか。

「話は終わりにして始めましょうか」

霧島先輩はスタート地点に立つ。

「どうしてもやるんですね」

風見もスタート地点に立つ。

「行くわよ。このコインが落ちた瞬間がスタートの合図よ」

霧島先輩はコインを上に弾く。

そしてコインが地面に落ちた。

チャリンと小気味いい音がした。

その瞬間、風見の体は爆発したように走り出す。

早くもっと早く、そう思いながら風見は走る。

だが、100Mを過ぎたころから

「えっ!体が」

この暑さで風見は軽い脱水症状を起こし、体がうまく動かなくなっていた。

だがそれは霧島先輩も同じと霧島の方を見る。

「私は負けない!」

霧島はこの暑さを屁とも思わぬ速さで風見を追いかけてくる。

最初のスタートダッシュでつけた差はもう無くなっていた。

そして200M地点で風見は抜かれてしまった。

「この勝負、私の勝ちね」

得意げに霧島は抜いていく。

・・・・・・

ふふふ、あなたは私には勝てないわよ。

霧島は心の中で勝ち誇っていた。

私の”死の太陽”は私には効かないのよ。

なぜなら私の能力は直接この空間の温度を上げるのでは無くて、槍崎の体感温度だけを上げる能力だから!

・・・・・

そんなことは知らない風見は負けたと思い込んでいた。

さらに体は脱水症状が重くなり今にも倒れそうだった。

何なのよこれ、何が”死の太陽”よ。

て言うかネーミングセンスなさ過ぎるでしょ。どんだけ中二病なのよ!あの人って。

薄れゆく意識の中で風見は霧島の悪態をつく。

そう言えばてっちゃんもネーミングセンス無かったなぁ。

あれこれすぐに必殺技?とか何とか言って、すぐに名前をつけてたっけ。

あぁてっちゃんやコウちゃんに会いたいなぁ。

私なんでこんなつらい思いして走ってるのかなぁ?

もう走んなくていいかな?もういいよね。

風見はあきらめ走るのをやめようとした。

「走るのをやめちゃうの?」

子供の頃の風見が今の風見に問いかける。

あれは私?

「こんなにも走るのが楽しいのになんで走るのをやめちゃうの?」

問いかけてくる風見の幼少期。

楽しくなんか無いよ。走るのなんて。

タイムを縮めなきゃならないし、先輩ともうまくやらなきゃならないし。

「本当に走るのが好きじゃないの?」

だから嫌いだって。

「本当に?余計なものを背負いすぎなんじゃないの?」

余計なもの?

「タイムとか先輩とかそんなことよりも走る事だけを考えていた頃を思い出してよ」

走る事だけを考えていた頃・・・

あれはまだ風見が小学生の時、そしてまだ哲を助ける前。

風見は校庭で一人で走っていた。

だれもいない校庭で一人で走っていた。

友達と一緒に遊ぼうと約束をして、学校で待ち合わせをしていたのだが皆ドタキャンしてしまったのだ。

一人で走っていても何も面白くない。

飽きて帰ろうとした時

「あれ走るのやめちゃうの?」

そう問いかけてきた少年は哲だった。

「あんなに楽しそうに走っていたのに」

「楽しそう?」

「うん!とても楽しそうだったよ。ずっと見ていたかったよ」

「そんなに」

「うん!」

「じゃあ見ていてくれる?」

「うん!」

また風見は走り出す。

今度は一人じゃない。

誰かに見てもらえている。

それが風見にはとても嬉しかった。

・・・・・・・・・・

そうだった・・・

あの頃は走る事、それ自体が楽しかったんだ。

「じゃあ今は?」

子供の頃の風見が自分に問いかける。

楽しくないよ。

今の風見は答える。

「なぜ?」

だって今は見てくれる人がいない。

「花形君は見てくれていると思うよ」

てっちゃん?

「花形君は何時でも私を見ていてくれるよ。あの時のように」

そうか。そうだね!

てっちゃんなら何時でも見ていてくれそうだよ。

私の走る姿を!!

300Mを越える、そしてとうとう残り50Mとなった。

風見と霧島の距離はおよそ30M。

残り50Mでは絶対に追いつかない。

これじゃあ負けちゃう。

「じゃあさ!楽しもうよ」

そうだね!楽しもう。

その瞬間、風見は風となった。

比喩ではなく、本物の風となった。

「これで私の勝ちよ!」

霧島がゴールに入ろうとした瞬間、一陣の風が吹く。

「なっなんで!?なんであんたがゴールしてんのよ!!」

いつの間にか風見はゴールしていた。

「先輩!やっぱり陸上は楽しむものですよ!」

勝負は決した。

「なんでよぉ?何で私が負けるのよ・・・」

霧島はゴール手前で膝から崩れ落ちていた。

「なんであんたが私より先にゴールしてんのよ。どう考えたって私の勝ちだったじゃない・・・ねぇ何をしたのよ!?」

「いやぁただ単に先輩との400M走を楽しんだだけですよ」

「楽しんだだけ?」

「そうですよ!私は走ってる時にきずいちゃったんですよねぇ。陸上はタイムとかレギュラーとか考えるものじゃなくて純粋に楽しむ物だって。だから先輩も陸上を楽しみましょうよ。」

風見は明るく答える。

「私は・・・私は陸上を楽しむことなんかできるわけない」

私の家庭はお父さんは有名な政治家でお母さんはそんなお父さんにいつもくっ付いてるだけの人だった。

そしてお父さんは事あるごとに私に言ったわ。

「いいか。お前は私の娘なんだ。と言うことは何でも一番でなくてはならない。二番や三番では絶対に許されないのだ」

「はい。父さん」

この言葉は私が幼い頃から聴いている言葉。

聴きなれた言葉。

そして何よりも優先される言葉だった。

そして私は中学生の時に陸上を始めたわ。

人よりも何倍も何十倍も努力して一番になったわ。

そのまま高校へ入学してそのまま陸上をやり続けたわ。

私はまた人の何倍もの努力をした。

そして今は部長と言う役職も得たわ。

なのに!いきなり新入部員のあなたが入ってきてから全てが変わったわ。

あなたは天武の才能でタイムをどんどん上げて行き、さらに私のタイムまで上回ったわ。

こんなことはあってはならない。

こんな事を父さんに知られてはならない。

そう思って私はあなたの何倍もの努力をしたわ。

でもあなたには敵わなかった。

生まれついた才能には勝てなかった。

そして私は陸上部で一番ではなくなった。

その事は父さんの耳にも入ったわ。

「お前は一番では無くなったそうだな。そんなものでよくのこのこと家に帰ってこれたものだ」

父さんはその言葉を言うと、背を向けて

「陸上部で一番になるまでこの霧島家の敷地に入るな」

そう言うとそのまま行ってしまったわ。

私は父さんも家も一番と言う地位も無くなってしまったわ。

そう全てはあなたのせいでね!槍崎!

「私はあなたを・・・いえ才能を許さない」

「何ですかそれ・・・何が一番ですか。そんなに一番になるのが大切なんですか?」

「えぇ私にとってはそれだけが生きている理由なのよ」

「それだけが生きている理由?」

「えぇそうよ」

「本当ですか?でわ何故、陸上をやり続けているんですか?」

「それは一番になるために」

「本当にそうですか?なら何故私が現れたときに陸上を辞めなかったんですか?別に一番なら陸上では無くてもいいですよね」

「そっそれは」

「先輩は余計なもん背負い込みすぎですよ。一番とかタイムとか」

「それは私にとって生きる理由よ!余計なものなんかじゃない!」

「本当ですか?じゃあ先輩は一番になりたいがために陸上をやっているんですか?」

「えっえぇそうよ」

「嘘ですね」

風見は断言する。

彼女は間違いなくこの答えはあってると思った。

「先輩は陸上が好きなんですよ。走ることが好きなんですよ。タイムとか一番だとかじゃなくて」

「そっそんなわけないわ!私は一番になることが・・・」

「じゃあ最初に陸上をやり始めた時のことは覚えていますか?それでなんで陸上を始めようと思ったんですか?」

霧島が言い終わる前に風見は質問する。

「えぇ。覚えているわ。体育の時間に私は短距離で一番だったからよ」

「それだけの理由だけですか?」

「えぇそうよ」

「本当に?」

風見は霧島の本心。心の奥を見透かしたように聞く。

私は陸上をやり始めたのは、ただ単に足が一番速かったから。

最初は本当にそれだけだった。

でも陸上をやり進めていく内にある感情が出てきたわ。

それは遠い昔に置いて来た感情。

一番になるためには捨てなければならない感情。

スポーツを・・・陸上を楽しむと言うこと。

陸上を一番を取るより楽しむことを選んでしまったら、絶対に一番なんかは取れない。

私はそう思ってやってきた。

でもあの子は、槍崎は違った。

ただ単に陸上を楽しんでいた。

そしていつも一番を取っていたわ。

それは私の全てを否定する行為。

私の行ってきたことは全て無駄だったと言われた気分がしたわ。

だからあなたが許せなかった。

でも今思い出したわ。

陸上が楽しい物だって。

「私は無理をしすぎていたみたいね」

「そうですよ。肩の力を抜いてただただ走ることだけを感じましょう」

「えぇそうねありがとう槍崎」

「いえいえ。じゃあ仲直りと言うことでもう一回走りますか?」

「えぇそうしましょう」

そして風見と霧島はスタートラインに着く。

「あぁそう言えば言っておくことがあったわ」

ふいに霧島先輩がきりだしてきた。

「なんですか?」

「”あの人”の事よ」

あの人!!それがこのいかれたゲームの首謀者。

「誰なんですかあの人って?」

「あの人とはあなたが良く知っている人物よ!」

「私の良く知っている人物!?」

「えぇ。あの人とは・・・!?」

不意に言葉が途切れる。

それは刹那の出来事。

いきなりの出来事。

霧島先輩が頭から倒れた。

「部長?部長ぉぉぉぉぉぉ!!!」

霧島先輩に駆け寄り、呼んでみたが返事は返ってこなかった。

「だめだよ。いきなりそんなクライマックスの事をいっちゃあ」

突然校庭のスピーカーから声が聞こえる。

この声は玉と言う奴の声だ!

「何をしたの!?」

「べつにぃ?ただ眠ってもらっただけだよ。まぁ君達がこのゲームをクリアしないと一生目を覚まさないけどねぇ?」

玉はへらへらした口調で答える。

「あんたぁ!何をしたかわかってんの!」

「分かってるよ。裏切り者に制裁を加えたんだ。でも殺さないなんて、僕っていい奴だよね」

「何言ってんのよあんたわぁぁぁ!!」

風見は叫ぶが、目の前には誰もいない。

「まぁ君達が僕のいる体育館までこれたら霧島を助けてやるよ」

「本当ね?」

「あぁ俺は嘘はつかないよ」

「じゃああんたをぶん殴ってやるからそこで首を洗って待ってなさいよ!」

風見はスピーカーに向かって叫ぶ。

「うん!それは俺の望みでもあるからね」

そう言ってスピーカーは切れた。

「待ってなさいよ。絶対に体育館まで行って見せるわ」

風見は霧島を抱きかかえたまま拳を握った。

3

「さて!これからどうするの?」

大石さんが俺の隣で明るい声を出す。

「いやぁ進むしかないよなぁ」

「じゃあ体育館へ行こう!!」

大石さんは拳を高々と突き上げて、ルンルンと歩き出す。

何がそんなに楽しいんだろうなぁ?

俺はこの状況を把握するのにいっぱいいっぱいなのに・・・

「どうしたの?早く行こうよ!」

大石さんはちょいちょいと手を振ってくる。

「今行くよ!」

俺もそこに駆け寄っていく。

まぁこの子は風見と同じで根っこの方から明るい子なのだろう。

そして俺達は教室を出てみたのだが

「これはどっちに行けばいいのかなぁ?」

教室の外は普通の廊下で下に行く階段とまっすぐに行く廊下があった。

体育館は校舎の2階の端にある。

「うぅ?んとりあえず体育館に行ってみようか」

そう言って俺は階段を下りる。

階段を降りるとそこには3?3の教室があった。

「まぁとりあえず体育館を目指すとしてこっちだよなぁ」

俺は3?3には目もくれず反対側に向かって歩き出した。

そして3?2を通り過ぎようとした時

ゴンッという音がした。

何の音かって?それは俺が聞きたいくらいだよ。

3?2を通り過ぎようとすると、見えない壁のようなものがあり通れないのだ。

「これはどういうことだ?」

「うぅ?ん多分ここの敵を倒せって言うことじゃない?」

そう言って大石さんは3?2を指差す。

「そういうことなのかなぁ」

俺はしぶしぶ3?2へと入っていく。

中に入ると一人の男が立っていた。

「俺様を待たせるな」

男は腕組みをして立ち、いきなりの文句を言ってくる。

「お前って確か隣のクラスの帝(みかど)だったよな」

「俺はお前みたいなその他大勢は知らん」

「花形君。この人なんか感じ悪いよ」

大石さんが小さい声で話しかけてきた。

「噂で聞いたけどこの人、家が大金持ちで帝王学とかも習ってるらしいよ」

「だからあんな態度がでかいんだね」

「何をこそこそやっている。そろそろ始めるぞ」

帝は構えを取る。

「ちっちょっと!待ってよ!何で俺達が戦わなくちゃいけないんだよ!?」

「それは”あの人”が戦えと言ったからだ」

「あの人?」

「あぁあの人は素晴らしいお方だ。あの人だけは俺は越えられないだろう」

帝をここまで言わせる奴って何者なんだろう?

たしか帝王学って自分が一番?って奴だったはずだよな。

それが自分より上の奴がいるって認めさせるなんて

「誰なんだ?あの人って?」

「あの人の本当の名前は知らないが、確か玉と名乗っていたな」

「玉だって!」

「あぁあの人はこの世界を救う人だ」

「世界を救う?どういうことだ!?」

「まぁ今のお前に話したところで意味が無いだろうな。まだお前はその他大勢でしかないのだからな」

「あの?帝君?やっぱり戦わなくちゃいけないのかなぁ?」

大石さんは不安な顔で聞く。

「何だ貴様は?」

「いやね、やっぱりなんで戦わなくちゃいけないのかが分からないよ!」

「ふん。何で戦わなくちゃいけないのか?だって。それは俺が戦うと言ってるからだ」

「なんて理不尽なの!」

「うるさい!お前は黙っていろ」

そう言うと帝は大石さんへ手を伸ばす。

その手は大石さんには触れなかったがその瞬間、大石さんの体は倒れた。

「大石さん!」

大石さんは倒れた時に頭を打ったらしく、気を失っていた。

「お前!何をした!」

「それはお前自身が考えろ」

「なんで戦うのかとか、何のゲームとかより今はお前をぶっ飛ばす!」

「やっとその気になったか」

俺は帝をぶっ飛ばす準備は出来ていた。

「お前は絶対にゆるさないからな!」

俺は帝に向かって叫んだ。

「ふん。お前ごときに許される筋合いはない。いいから黙ってかかってこい」

帝はそう言うと出した右手をちょいちょいと振ってきた。

俺は後先考えずに帝に突っ込んでゆく。

「ふん。俺は猪を相手にする気はない」

そう言って帝は出した右手を下に下げる。

その時俺の体は重くなり、立っていられなくなった。

「なっ!?何だよこれ!」

俺の体は地面に縫い付けられたように重くなり、そこから動けなくなる。

「まぁこれが俺のアビリティー、”静かなる独裁”(サイレント・デスポティズム)!どうだ?いい名だろう?”あの人”に付けて貰ったのだ。この能力を食らうと皆お前のように這いつくばるのでなぁ」

”あの人”か・・・何なんだあの人って?

カッコイイ名前付けるじゃねぇか

でもデスポティズムって何だよ!?

俺そんな英語習ってないぞ。

いや、んなこと考えてる場合じゃねぇ!

この能力が何なのかを考えることが第一だ。

「お前!俺に何をしたんだ!?」

「おいおい。すぐに人に聞くんじゃねぇよ!まず自分の脳みそで考えてみろよ」

そう言って帝は俺の頭を靴の先で小突く。

「お前の脳みそはからっぽかぁ?」

どんどん小突く力が強くなってくる。

「お前がそんなんじゃ駄目なんだよ!お前がそんなのじゃ”あの人”は満足しないんだ!」

サッカーボールキックのように頭を蹴って来る。

「なんでお前なんだよ。なんでお前が”あの人”に気に入られるんだよ!」

「ぐぅ!やめろ・・・お前は何が目的なんだ?」

「俺の目的だと?俺は世界を救うだけだ。そのためにはお前を倒さなきゃならないんだよ!」

「世界を救うだと?何を言ってるんだ?」

「お前はまだ分からないさ。俺にもよく分からないが”あの人”が言ってるんだから間違いは無い」

なんなんだ?誰なんだ”あの人”ってのは。

コイツをここまで崇拝させる圧倒的なカリスマを持つ人物。

わからない・・・誰なんだ?

「ふぅ?貴様を蹴っていても面白くないな。そう言えばあの女がいたな」

「ッ!?やめろ!その子には手を出すんじゃない」

俺の声も虚しく、帝は大石さんの所へ行く。

そして帝は左手を上げる。

そうすると気絶している大石さんの体がフワッと持ち上がってゆく。

「なんだと!?何をしているんだ?」

「ほう。コイツは中々いい女じゃないか。いいだろう」

帝は宙に浮く大石さんの顔を叩く。

「おい!起きろ!」

「んっうんぅぅ」

大石さんは目を覚ました。

「えっ!これはどういうこと!?花形君!」

大石さんは目を覚ますと真っ先に俺の名前を呼んでくれた。

「花形は俺の能力”静かなる独裁”で立てなくなってるよ」

「”静かなる独裁”?何よそれ!そんな事よりここから降ろしてよ!何なのこのフワフワした感じ?」

「うるさい!キャンキャン騒ぐんじゃない!」

「キャアァ!」

パチンと頬を叩く音がする。

帝が大石さんの頬を叩いたのだ!

「お前ぇぇぇ!何してんだぁ!」

「何って、うるさい女を黙らせたんだ」

「てめぇぇぇぇ!」

俺は渾身の力を込めて立ち上がる。

「ほう。俺の”静かなる独裁”を受けても立ち上がるか」

「お前は俺がぶん殴ってやる」

「いきがるのもほどほどにしろ!」

帝がまた右手を下げる。

その瞬間また俺の体が重くなる。

なんだまたこの感じ!何か重いものが体にのっかかって来る感じ。

「まぁお前はそこで這いつくばって見ていろ」

そして帝は大石さんに顔を近づける。

「今からこの女が俺の女になるところをな」

そして帝が大石さんにキスをしようとする。

「いや!こないで!」

大石さんは思いっきり、帝にビンタした。

それはパチンとか、そんな可愛い音ではなかった。

バキン!みたいな音だった。

「この女ぁ!ふざけやがって!」

帝は今度は拳を握り大石さんを殴りにかかる。

「やめろぉぉぉぉ」

「キャアァァァァ」

大石さんは目をつぶり拳が来ることを恐れ顔を背ける。

だが待っていた拳は来なかった。

それより帝が吹っ飛んでいた。

「えっ?」

その時は何が起きてるのか分からなかった。

だんだん頭が追いつくと一人の男が大石さんを助けてくれたのが見えた。

「わりぃ。クソヤローのツラが見えたから殴っちまった」

「コウ!!!!」

その男はいつも俺の想像をぶっ壊す俺の親友だった。

寝ている時に夢を見ていたんだ。

その夢はロマンを追いかけ続ける俺の親友の夢だ。

あれは確か小学生の時の話だったな。

俺はその頃から、自分で言うのもなんだが頭が良かった。

小学生の問題なんかやっていても楽しくなんか無いし、学校も行っていても友達なんか居なかった。

だから学校に行っても、誰とも喋らずずっと本を読んでいたなぁ。

そんな態度を取るから誰も俺に喋りかけてこなくなったんだ。

それでも全然苦ではなかった。

そんな日々を過ごしていた頃、事件が起きたんたんだったなぁ。

それはクラスのいじめられっ子がニワトリを殺したんじゃないかって言われて、クラスの全員からいじめを受けていた。

俺はそれを冷めた目で見ていた。

あぁまたか・・・と思っていた。

だがこのときの俺はどうかしていたんだと思う。

いじめられている哲を見ていると無性にムカついて来た。

それは哲に対してでは無くいじめっ子にだ。

なんでだろうな、あの時の俺はいつに無くムカつき苛立ったんだ。

それで哲を助けてやったんだったなぁ。

でもなんで哲を助けたんだろうなぁ。

まぁ多分あれだろう、同じにおいがしたんだな。

俺のように孤独にいる者、哲のように孤独にいる者。

俺は孤独に好きで居たように思っていたが、そうじゃなかったんだ。

俺も哲と同じように孤独が怖かったんだ。

だから同じ境遇の哲を仲間だと思ったのかもしれないな。

だけどその判断は正しかったんだと思う。

その事件があった後俺と哲は仲良くなり、親友と呼べる仲になったんだよなぁ。

そんな夢を見ていたんだ。

「まぁおきたらこんな状況だったっつぅ?話だよな」

コウは3?3の教室で目を覚ました。

「さてと、どうするかな?」

コウは3?3の教室を出て廊下へ向かう。

「哲達はどこにいるんだ?」

哲の性格上こういう状況に置かれたらまず体育館に向かうだろうな。

と言うことで体育館に向かおうと歩を進めたが

「なんだ?教室の扉が開いてる・・・」

ふと3?2の教室のドアが開いていることに気がつき中を覗いて見る。

するとそこにあった光景は凄まじいものだった。

「なんだこれ・・・哲は地面に叩きつけられてるし、あれは確かクラスメイトの・・・大石じゃないか?しかも隣のクラスの帝までいるじゃねぇか」

この状況はどういうことだ?

コウはすばやく頭の中で状況を整理する。

なるほどな。帝は次の玉とか言う奴の刺客か。

頭の中を整理し、再び中を覗くと帝が大石を殴ろうとしていた。

「あいつ!女を殴る気か!」

俺はすぐさま中へと入り帝を殴りつけた。

「わりぃ。クソヤローのツラが見えたから殴っちまった」

「コウ!」

助けに来てやったぞ。哲!

お前は小学校の時、俺に救われたと思っていると思うが違うぞ。

お前は俺を救ってくれたんだ。

あの孤独言う世界からな。

だから次は俺がお前を救う番だ。

4

コウがいきなり現れて、帝の奴をぶっ飛ばしてくれた。

「コウ!どこに居たんだよ!?」

「ん?いや、隣の教室で寝てた」

「寝てたってお前・・・音くらい聞こえるだろう」

「音なんか一つも聞こえなかったぞ」

「そんなわけないだろう!?あんだけドカドカ音を出してたら嫌でも隣の教室まで聞こえると思うんだけど・・・」

「おい!貴様!何者だ?」

俺が音のことを思慮していると、殴り飛ばされた帝が、怒気をはらんだ声を出す。

「何だお前?まだ意識があったのか」

コウは呆れたように言う。

「気をつけろ、コウ!コイツはわけの分からない能力を持ってるぞ」

俺は床に見えない力で押さえつけられながらコウに言う。

だがコウはお構い無しに帝へと近づいていく。

「ほう・・・見せてくれよ。その能力とやら」

コウは帝を挑発するような声を出す。

「いいだろう。貴様に格の違いを見せてやる」

帝はそう言うと、左手を下げる。

そうすると大石さんの体は地面に付く。

そして帝はコウに向かって左手を伸ばす。

その左手を又上に上げる。

するとコウの体はまるで糸で引っ張られたように空中へあがっていく。

「なんだこれ・・・」

コウは珍しく感嘆の声を出す。

「これが俺の能力だ!」

帝はそう叫ぶと、空中に浮き身動きの取れないコウの体を殴ってきた。

「ふん!どうだ!?手も足も出まい」

コウは糸で巻かれたように動かない。

「くっ!この能力は・・・重力だな」

「ほう・・・分かるのか。たいしたもんだなぁ」

「重力だって・・・」

「あぁそうだ。コイツの能力は重力操作だ。左手を上げると重力を軽くし、右手を下げると重力が増すんだ」

コウは帝の能力の説明をする。

たった一回見ただけで、この不思議な能力を見破ってしまった。

「良く分かったな。だがそれだけだ。貴様は殴られ続けるし、そいつは地面にへこみ続ける」

確かに帝の言う通りだ。

コイツの能力が分かったとしても、どうもすることが出来ない。

「わかったようだな。でわ!そろそろ飽きたので終わりにさせてもらうぞ」

帝は拳を今まで以上に握り、コウの顔面を打ち砕く。

コウの体は宙を浮きそのまま飛んでいった。

「お前ぇぇぇぇ!」

俺はぶち切れ、殴りに行こうとするが重力のせいで体がまともに動かない。

どうすれば?どうすればコイツをぶん殴ることが出来る!?

「ふん。貴様はそこで這いつくばって見ているがいい。貴様の友達が死ぬところを」

帝はまた左手をコウに向ける。

コウの体はまた浮き上がる。

「どうだ?最後に言うことはないか?」

コウに帝は余裕の表情で聞いてくる。

コウは力の無い目を帝に向けると

「ペッ」

っと唾を帝に吐き捨てる。

「いいぞ。今すぐに死にたいようだな」

帝は拳をコウの顔面へ飛ばす。

今度は一発ではない。

二発、三発と何発のも打ち込む。

「やめろぉぉぉぉ!コウが死んでしまう!」

「殺すためにやっているんだ」

帝は吐き捨てるとコウをしこたま殴りつける。

「やめろぉぉ!やめてくれぇぇ!」

俺の声も虚しく帝はコウを殴りつけていく。

体はどうしようもなく熱くなっていた。

血管に流れる血は沸騰しそうなくらい熱い。

だが体はほとんど動かせない。

動かせるのは右腕だけだ。

これでどうすればいい?イスを投げるか?

いやそんな事をしても重力で落とされるだけだ。

どうすれば?どうすれば?

答えは出なかった。

だが行動では大石さんが動いていた。

「白鳥君をいじめないでぇぇ!」

大石さんは帝へ突っ込んでゆく。

「おっ大石さん!?やめろ!あぶない!」

俺の制止も聞こえないのか、大石さんは帝に突っ込んでゆく。

だがそれも虚しく大石さんは床の溝に足を引っ掛け頭から転んでしまった。

「どっドジッ娘!?」

「なんでかなぁ?なんでこうなるかなぁ?」

大石さんは頭を抱えながら半べそをかく。

「なんだ貴様は?何をしてる?」

帝も呆れたように言って来る。

だがその時、帝は呆れた顔の奥に安堵の表情があった。

どういうことだ?帝が大石さんの心配をするわけが無い。

あいつが心配するのは自分の事だけだ。

と言うことは、大石さんに突っ込まれて帝は焦っていた・・・

それに”静かなる独裁”も使ってこなかった。

どういうことだ?整理しろ。

頭の中でピースを組み立てていくんだ。

左手を上げると重力が無くなり、体が浮いてしまう。

右手を下げると重力が重くなり地面に叩きつけられてしまう。

そして大石さんが突っ込んだ時にはどっちの能力も使っていた。

そういえばコウが殴ったときも帝はどっちの能力をを使っていた!?

そうか!わかったぞ!

あの能力は二人までしか使えないんだ!

と言うことは俺とコウに使っているから帝は大石さんに使えなかったんだ。

だから安堵の表情を・・・

と言うことは帝の能力を他の事に使わせれば、俺への能力は解除される!

帝に一発でも入れられれば俺はあいつをKOすることが出来る!

これは予想ではなく確信だった。

「そうとなればやるしかないよな」

俺は意を決し叫ぶ。

「おい帝!これでも食らえ!」

帝の注意を俺へと惹きつけると、イスを思いっきり帝に投げつける。

「ふん!アピールした後に投げられても怖くないな!くらえ”静かな独裁”」

帝は右手をイスに向け、下へと落とす。

その瞬間イスは床に落ち、バラバラとなって砕け散った。

同時に俺の体は軽くなる。

ここまでは予想通り。

ここからが本番だ。

俺から帝までの距離は5M弱。

これは走って近づいたとしてもまた”静かなる独裁”を受けてしまう。

だがそんなもの構うもんか!あいつに一発くれてやら無いと気がすまねぇ。

俺は走り出す。

体が嘘のように軽い。

哲は人間の限界速度をゆうに超え、超スピードで帝へと近づく。

それは帝がイスに目を移してからわずか2秒。

この間に哲は帝へと近づく。

「よう。やっと近づけたぜ」

俺は帝へ語りかける。

帝は今までの顔とは打って変わり小動物が怯えているような顔をした。

「まさか貴様・・・貴様、能力を開眼させたな」

「何を言ってるのか解らんが、その顔はお前には似合わないぞ」

俺は渾身の力でアッパーを振りぬく。

見事に帝のあごに直撃し、ゴキゴキと音がする。

多分あごの骨が砕けたのだろう。

帝は空中で一回転しそのまま床に倒れる。

「その顔が似合うのは大石さんだけだぜ」

俺は帝を見下ろしながら言った。

「はぁはぁはぁ」

俺は、はっ倒した帝を見下ろしていた。

「これで終わりじゃねぇぞ」

俺の中でまた黒い感情の渦が廻っていた。

俺は帝の襟首を掴むと、首を持ち上げ拳を固めた。

その拳で帝の顔面を殴りつける。

バキッと音がする。

こんな音は聞きたくは無い。

だが今の俺はいつもの俺ではない感じだ。

うまくは言えないが、殴りつける俺を何時もの俺が外から見ている感じだ。

だが今の俺は殴りつけるのをやめない。

向こうからコウや大石さんの制止の声が聞こえる。

「やめろ!テツ!そいつはもう気絶してるぞ」

「やめて!花形君!死んじゃうよ!」

俺はまったくやめようとしない。

外から見ている俺は何もできない。

やめろ!やめてくれ!

俺の声は自分の体には届かない。

自分の体なのに・・・自分の体が俺の言うことを聞かない。

こんなことは今まで無かった。

どうすればいい?

このままでは帝を俺は殺すだろう。

とまれ!止まれよ!俺の体だろ。

「おい!どうしたんだよ!テツ」

コウが俺の体を羽交い絞めにして止めてくれた。

だが俺はコウに肘うちを食らわせて、その束縛から離れる。

「がッ!」

コウが悶絶する。

やめろ!コウを殴るな!

くそったれが!俺の体だろ!俺の言うことを聞けよ!

「やめて!花形君!もうこれ以上は駄目だよ」

大石さんが後ろから俺に抱きつく。

おぉふ、そんないきなり・・・ちょっと胸が・・・ありがとうございます。

いやいやこんなこと考えてる場合じゃねぇよ。

ん?おい!やめろよ・・・俺の体。

俺の体は大石さんの方を向くと、手を振り上げる。

やめろよ!やめろぉぉぉぉぉ!

俺の制止も虚しく手は振り落とされる。

大石さんはギュッと目をつむる。

「ばかやろう!」

コウが間一髪のところで、俺の手を止めてくれた。

「お前ぇ何してんだよ!お前は女に手をあげないんじゃないのか?」

俺は何も聞こえてないようにコウを吹っ飛ばす。

「ぐわっ!」

コウは吹っ飛ばされた。

そして俺はまた手を振り上げる。

「もう・・・やめてよ花形君。花形君はそんな人じゃ無いでしょ」

大石さんの目には涙が流れていた。

だが俺の手は止まらない。

やめろ!女の子には手を出すなよ!俺だろ!

俺の体なんだからちゃんと言うことを聞けよ。

このくそったれがぁぁぁぁ!!

その瞬間外から見ている俺と動いている俺がくっついた。

大石さんは来るであろう衝撃に耐えようとしていた。

だがその衝撃はまったく来ない。

ふと上を見ると、そこにはいつもの哲の顔があった。

「花形君?」

「あぁ俺だよ」

「帰ってこれたんだね」

「ありがとう。大石さん」

俺は素直に大石さんに礼を言う。

「おい!哲!」

声のしたほうを見た瞬間、頬に衝撃が来る。

コウが俺を殴った。

「いいか哲。これで終わりにしてやるが、またこんなことが起きたらこんなもんじゃ済まさないぞ」

「あぁありがとうコウ」

「わかったならいい」

コウがここまで感情をむき出しにして怒ることはあまり無い。

それだけ怒っているのだろう。

「じゃあ行こうか」

俺は大石さんとコウに言う。

「あぁ。風見も探さなきゃいけないしな」

「行きましょう」

三人は3?2の教室を出た。

Feelings world2

楽しんでいただけたのなら幸いです。

Feelings world2

Feelings worldの続きです

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-04

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