知らないもの10

「ん・・・」
どれくらい寝たのだろう。
頭が少しボーっとする。
キョロキョロと辺りを見渡す。

「あ!」
近くから子どもの声が聞こえた。
聞こえた方を向くと3人の小さな子どもが立っていた。

「起きてる!」
「起きてる!」
「起きてる!」

そして私の顔をまじまじと見つめた。

「泉ねえちゃん、起きてるよ!」
1人の女の子が扉の方を向いて言った。

「本当だ。おはよう。調子はどう?」
一度も話したことのない人だ。
ニコニコと笑いながら私の額を触る。

「美雪、咲紀呼んで来て。」

「はぁい」
とてとてと走って行く姿はなんとも愛らしい。

「私は今代菅生家の桐原泉。よろしくね。えーと。」

「あ、御影彩奈です。」

「へぇ、やっぱり御影はずっとこの姓を守ってるんだあ、偉いなあ。」
そう言いクスクスと笑った。
この狐の人たちは美男美女が多い。

ーガター
扉があき、人が入ってきた。

「無事か。よかった。」
咲紀くんが息を上げて来たのだ。
運動は得意そうな顔なのに。

「咲紀、念のため柚木に診せたら?」

「そうだな、何かあったら大変だもんな。」

「あと、咲紀、あんたも休みなさいよ。雪様が倒れてから寝てないんでしょ。
顔色も悪いし、あとここまで来るのに息上げるなんて、あんたにしちゃおかしいでしょう?
嫌なら無理矢理でも眠りにつかせてあげるけど?」

「・・・妃雪が起きるまでは寝れねえよ。柚木呼んで来る。」
顔色は悪いまま、咲紀くんはその場を離れた。

「ほんっと、あいつは昔から雪さま雪さまって。」

「そ、そうなんですか?」
知らず知らず声が出る。
咲紀くんを知りたくなるんだ。

「雪さまもね、よく咲紀に休め休め言うんだけど、咲紀はかなり頑固だから
いつも休まないのよ。何度かそれでぶっ倒れたりしてるのにね。」
そんな事もあったのか。
昔のことは私、何も分からないのか。

「咲紀兄は昔っからだよ。ひゆ姉様大好きだから。」
黒髪おかっぱのこれぞ狐の妖怪の子どもみたいな子が言う。
いや、なんていうかちびっ子みんなそんな感じだけども。

ーガター
「やあ、起きたんだね。少し診るからおとなしくしててね。」
会ったばかりの柚木くんがニコニコと爽やかな笑顔で言う。

「大丈夫よ、こいつ腕は確かよ。」
ニコリと笑って泉ちゃんは言う。
みんな柔らかい笑い方をするものだ。

「あの、私どれ位眠ってたんですか?」

「あぁ、3日かな。今までで1番短いね。」

「3日も!?」
そんなに眠ってたんだ。

「うん、なんともないかな。大丈夫だよ。よかったよかった。」
柚木くんは頷きながら言う。

「疲れてなかったらどう、みんなでどんちゃんさわぎさ。」

「私は行くわ。ばばさまにまだお酌をしてないの。」
ばばさま?
誰だろう。

「い、行きます!」

「僕たちも行く!」
「私も!」
「美雪も!」

「妃雪さまが起きればもっと良いのになあ。ばば様も嬉しいだろうに。」
雪妃ちゃんも3日寝たままなのだろうか。
まぁ、普段の雪妃ちゃん見てるといつも寝てるけど。

長く、煌びやかに装飾された廊下を歩く。途中で何人か妖怪に会った。
皆、頭を下げて私たちを通した。

「あ、彩奈!起きたのか・・・よかった。」
ホッとした顔で良はため息を一つついた。
そして私の頭をゆっくりと撫でた。

大広間のような所に来た。
沢山人がいる中で一際目立つ人がいた。

「ばば様!御影の者です。」
良がそう叫ぶ。

「おやあ、やあっと起きたかね。まあ、先祖の御影よりは早く起きた方か。
ほれ、おいで、儂に名前を聞かせておくれ。」
ビクビクと怯えつつも、その人の近くに寄った。

「み、御影彩奈です。」

「彩奈か、儂の子孫にあたる妃雪をどうぞよろしくお願いしますじゃ。あやつはわがままで、身体も弱く
良い所なんてほとんどないが、狐巫女として生まれてしまった、可哀想なやつなんじゃよ。
どうか、蘭雪(らせつ)の二の舞にはさせないでくれ。」
哀しそうな顔でそう言った。
この人がみんなにばば様と呼ばれる人なのだろう。

「ばば様、お久しぶりです。泉です。」

「おぉ、泉、久しいのう。」
泉ちゃんはばば様と呼ばれるひとに飲み物を注いだ。
これがさっき言っていたお酌というのものだろう。

ーガタガター
「ばば様、妃雪様がお目覚めです!」
1人の男の人が急いで焦った表情を浮かべて来た。

「おぉ、連れておいで。」

「は、はい!」
バタバタと一気に慌ただしくなる。

雪妃ちゃんが起きたという事はかなりここにいる人にとっては重要な事なのだろう。

ーシャッー
一瞬にして空気が変わった。
ゆっくりと歩く雪妃ちゃんはなんて美しいのだろう。
そう思った。

「妃雪、体調はどうじゃ?」

「ばば様、心配なさらないでください。大丈夫ですわ。」
柔らかく笑いながら言う。

「「「ひゆ姉様〜!」」」

「あら、今日は三人も来ていたの。相変わらずかわいいのね。」

知らないもの10

知らないもの10

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-27

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