解けない魔法


 物心がつくかつかないかの頃から、私のうちにはクリスマスに毎年サンタがやってきて、夜中にプレゼントを置いて行った。
その姿は一度も目撃したことがなく、存在は不思議以外のなにものでもなかった。
私は毎年24日の夜が楽しみだった。

 小学校3年生のクリスマス、私はサンタクロースに手紙を書いた。話したたこともない私に毎年プレゼントをもってきてくれているサンタクロースに、感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
なんて書いたかは覚えていないが、クリスマスイヴの夜、居間のテーブルの目立つ所に置いておいた。

 その日はドキドキしながら眠りについた。


 明くる朝、起きると毎年のようにクリスマスプレゼントの大袈裟な包みが枕元においてあった。
いつもの朝と違って神秘的な感じがした。

 テーブルの上をみると、手紙がなくなっていたので、サンタさんが持ち去ったと確信した。
寝室の父と母にプレゼントのことを報告し、プレゼントを開けてみる。
その年のプレゼントは確か人形用の小さなおもちゃのピアノだったかな。
ピンク色でオルゴールになっていた。

 

 父が起きてきて、父のワープロの方へ行き、何かを発見したらしく私を呼んだ。

!ワープロのプリンターから、サンタからの返事が出て来ていたのだ。

父のワープロを使って返事を書くとはなかなか粋なサンタである。
 その手紙には、一ヶ月前に亡くなったおじいちゃんがサンタの仲間入りをしたことと、私がいつもいい子にしているのを見ていることと、妹と弟を大切にしなさいというようなことが書いてあった。

 その意外なプレゼントには大喜びだった。
手紙はその後しばらく私の宝物として、本当に大切にしていた。
私は頑なにサンタの存在を信じ続けていた。

 小学校ではすでにほとんどの友達が信じていなかった。私はサンタを信じていることを秘密にしていた。
何故なら自分の純粋な気持ちを否定するようなことを言われることも、
バカにされるのも嫌だったし、自分でも実はその年になっても信じている自分を少し変なのかもしれないな、と思いはじめていた。

 でもその他と違っている感じも実は悪い気はしていなかった。
むしろその変な所も含めて大切にしてあげたかった。
「信じてない人にはサンタは来ないのだから仕方ない。」
そう考えるようになっていった。

ときには私もサンタの正体を、父と母がやっているのでは?
と疑ってみることもあった。
しかし、私が心の中でどんなに疑いをたてても、毎年うちにはサンタがやって来た。
そのときは彼を疑ったことを深く後悔した。

 彼は魔法であり続け、年をとるにつれ、どんどん特別な存在になっていった。

 私はサンタを見たことがなかったので証明できなかったし、その後も時々父や母なのではないかと疑ったり、その夜の両親の行動を観察しておかしい、と思ったりもした。

 でもそんなことして見破ったとして、もしサンタなんかいないと知ったりしたら楽しみが一つ減るだろう、と思い直し、それからはどんなにあやしいそぶりを見ても、都合の良い解釈をしてサンタがいることを信じ続けた。


 また、サンタは完璧だった。いくら夜更かししていても、寝たフリをしていても、子供達が起きている間は絶対に姿を表さなかった。
まさしく完全犯罪である。(犯罪じゃないけど。)

 



 サンタが私の元に来なくなったのは、なんと中学一年生のクリスマスだった。
 その年のクリスマスのプレゼントは父からで、かわいい天使の日記帳と筆入れだった。
 私は父にとっさにとっくに分かっていたよ、という素振りをしたが、
内心すごくショックだったので、そのとき貰った日記帳の最初の1ページに
「このプレゼントがサンタからではなく、父からだったので、とてもショック。」
と、書いた。


 そしてその後、悲しくなってひとりで泣いた。

 サンタがいるとかいないとか本当は父であるだとか、そんなことはもうとっくにどうでもよかった。


 大人になって魔法がひとつ溶けてしまったことがひどく寂しく感じたのだ。

解けない魔法

解けない魔法

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-04

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