三題噺「アルビノ」「便箋」「街灯」
真夜中の噴水広場。
街灯に照らされている場所以外、暗闇で何も見えない。
風も強く、時間が遅いこともあって人通りもない。
そんな中で一人の若い男が噴水のへりに腰掛けていた。
「あー、やっぱ安物の整髪料じゃ駄目かぁ」
ジーンズにジャケット姿の青年は、ぼやきながら風で乱れた髪を整えていた。
――三日前、
『赤井正義様 今夜の0時、夢の島の脇にある噴水広場前に来てください』
正義の元に一通の手紙が届いた。
便箋に書いてある差出人は、正義もよく知っている組織だった。
――日本異能超常現象研究会。通称NICK。
表向きは10年前に起きた巨大隕石衝突という未曾有の大災害を受け、その際に出現したという異能者・超能力者の保護・観察を謳ってはいるが、実際は事あるごとに事件を起こす問題集団である。
そんな組織から名指しで指名されることは、ある意味光栄なのだが……。
「はぁ……憂鬱だ」
正義にとってはそうでもなさそうだった。
ふと風がやんだ。
髪を整えていた正義の手が止まる。
「お待たせしました」
アルビノのような白い肌と透き通るような青い目。
顔見知りの研究会メンバー所属の少女が正義の前に立っていた。
「それでは……覚悟ぉぉお!」
唐突に突き出される刃。
それは真っ直ぐに正義の眉間へと向かい――、
正義の眉間に当たる瞬間に止まる。
「甘い」
「へ? え、嘘、い、いやぁぁああぁあ!!」
次の瞬間、少女は宙を舞っていた。遅れて響くドボンという音。水しぶきが正義の髪を濡らす。
「おいおい、呼び出しておいてもう終わりか? そんなんじゃいつまで経っても異能者の一人も捕まえらんねえぞ」
「ゲホッ。うぅ、冷たい……。もう。酷いですよ、先生」
少女が体を震わせながら噴水からあがってくる。
「研究会顧問の温かい指導だと思え。まあ、少しは上達してるみたいだがな」
「ほ、本当ですか!!」
濡れた身体もなんとやら、少女は顔を輝かせる。
「……っ! だ、だがまだまだだ! これからも指導するから心するように!」
「はいっ!」
少女の屈託のない笑みをみて正義は思わず顔をそらす。
その顔は心なしか少し赤くなっていた。
――噴水広場からの帰り道。
「おい、かぐや。血が出てるぞ」
「え、あ、ホントだ」
少女が手の甲に滲む青い血を舐めて拭き取る。
それを見ながら正義はため息をつく。
「どうしたんですか?」
「んー? いやな、宇宙人に恋をした奴は難儀だと思ってな」
それを聞いて少女が苦笑する。
「十年前に宇宙から来た異能者・超能力者が私たちにですか? そんなこと考えるなんて案外先生もロマンチストなんですね」
「そうかもな」
「大体、今のところ私しか信じていないせいかもしれないですけど、未だに会ったことないじゃないですか」
「そうかもな。でも……」
宇宙船の元船長は少女に意地悪く微笑む。
「実はもう出会ってたりしてな」
正義は満天の星空を見上げる。
そこにはかつて彼の住んでいた青い惑星が小さく輝いていた。
三題噺「アルビノ」「便箋」「街灯」