幻恋(げんこい)

恋人それは、居なくなるとより、その人に対する感情は強くなる。そんな思いから、恋人の幻想を見たりする者もいる。

はたして、それは幻想かそれとも現実かはわからないが、人間は大事なものを無くしたとき、大事なものがあった以前よりもさらに強い感情を抱く。

これは、恋などしたことがない 上司 幾太 が人間の恋について、考え書き綴った作品である。

幻恋(げんこい)

・女性目線

高校のときに私は彼と出会った。きっかけは些細なことだった、一人で学校の中庭で昼食をとっていると「隣いいかな・・・。」と言って私に話しかけてきたんだっけ・・・。

いつも一人でいた私に、学校をつまらない場所と思っていた私に彼は話かけてくれた。

何時しか毎日昼食を一緒にとるようになり、夏休みには、川原に遊びにでかけたのよね・・・。

本当に楽しかった・・・。

でも、川原で遊んでたときに私が流れが速い場所に近づいて、溺れたの、あなたは必死に私を追いかけて、追いかけて、助けようとしてくれた。けど、あなたまで溺れてしまった・・・。

そのときに願ったの「この人だけでも助けて下さい!!!」って。
私は助からなかったけれど、あなたは一命を取りとめた。そのとき思ったありがとうって。

あのときのことまだあなたは引きずってるのかな、ときどき思い悩んだ顔して川原に来ていたね。

私びっくりしちゃった。だって、見えるはずないのにあなたがこっちを見ているんだもの。試しに視線を向けたらあなたは視線を慌てて逸らしてさ・・・。

そのときわかったのああ見えてるんだって、だってあなた人と視線が合うと慌てて逸らすの癖だったものね・・。

それから度々あなたは川原に来て、私に挨拶して、微笑んでくれた。
私は嬉しかった。もうあなたに会えることなんてできないと思ってたから。

でも、こんなに遠くじゃ私だって気づいてないかもね・・・。

もうあれから随分と時が経っていると思うから。

あるときあなたは急にこちらの岸に来るってジェスチャーをするから、私は慌てて首を横に振った。

だって、そんなことしたらもう会えなくなることはわかっていたから。
ずっと遠くからでもあなたに会えるのが幸せだったのに、それが消えるのは嫌だった。

でも、あなたはこちらの岸に向かってきていた。

こちらに近づくたびに私の体は消えていく薄く、薄くなっていく。

あなたがこちらに着くともう私は消えていた。

せめて一言伝えたくて「さよなら・・。楽しかった・・。」と懸命に叫んだ。

あなたには届いただろうか、届かなかったろうか。少しの間だったけれど楽しかった、嬉しかった、幸せだった。ありがとう・・・。

・男性目線

私は川原でいつものように、ただ水が流れる様子を見つめていた。私は思い悩むといつも川原に来て、ただ何もせずに眺めているのが好きだった。

ふと、川の向こう岸に視線を向けると、真っ白な服を着た女性が私と同じように川を眺めていた。真夏だったせいか、彼女の真っ白な服に日差しが反射して、まるで、幻でも見ているかのように、彼女は眩しく光っていた。

しばらく、彼女に見とれていると、彼女も私に気づいたのか視線をこちらに向けてきた、私は慌てて目線を逸らしたが、気になってもう一度彼女の方を見てみると彼女はまだこちらを見つめていて、手を振っていた。

それから、私は時間が空いている日は度々川原にいっては彼女が居ないか探していた。そして、彼女に会うたびに手を振ったり、にっこり笑ったりして挨拶のようなものを交わしていた。特に互いに向こう岸に行って直接会って会話をしようとはしなかった。なぜそうしようとしなかったのかは、よくわからない。

そうして、1年、2年、3年が過ぎようとしていた、何時しか私は彼女に恋をしていた。可笑しな話だと笑うかもしれないが、一度も話したこともない彼女に私は恋をしたのだ・・・。

そして、私は決心した。彼女に出会ったいや彼女を見かけた真夏のあの日に向こう岸に渡って彼女に会おう。思いを伝えようと・・・。

その日に彼女はいつものように向こう岸で笑って私に手を振ってくれた。私はそちらに行くと伝えるようにジェスチャーをした。

すると彼女は大きく首を振って嫌がったような素振りをした。
私はなぜという風に聞いたジェスチャーをすると彼女は俯いたままだった。

私は居ても立っても居られなくなり、走って川原の向こう岸に行くと彼女の姿はなかった。 

ただ向こう岸の川原に着いたときに、「さようなら・・。楽しかった・・。」
ときれいな女性の声が聞こえた。

それからは川原で彼女を見ることはなかった。

またいつものように川原に行くと、少年が話しかけてきた。
「おじさん、今日は川原に手を振らないの? いつも誰も居ない向こう岸に向かってさ・・。」

少年の言葉を聞いて私は確信した、いや半ば気づいていた。私にしか彼女は見えていないのではないか。ということに。

だって、彼女はあのときに既に亡くなっていたのだから・・・・。

幻恋(げんこい)

幻恋(げんこい)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-24

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