三題噺「社員証」「缶ビール」「悪魔」

 俺は目の前の白い悪魔を睨みつける。
 あぁ、ちくしょう。
 俺はそいつを射殺す勢いで睨み続けていた。
 しかし、勝てないことが本能的にわかっているからだろうか。
 俺の手はピクリとも動くことはなかった。

 ――都内、某所。
 俺は先月から付き合い出した彼女と自宅にいた。
 彼女は実年齢よりもはるかに若く見える。
 社員証を見せてもらわなければ、いまだに高校生だと信じて疑わなかっただろう。
 それくらい彼女は若々しく、そして魅力的だった。
 そんな彼女は今、待ち遠しくてたまらないような目で俺と同じものを見ていた。
 俺の喉がゴクリと音をたてる。
「……お願いします」
「いっきまーす!」
 蛍光灯の光を浴びて銀色に輝く棒状の物体。
 彼女がそれを慣れた動作で振るう。
 そのたびに白い悪魔が駆逐されていくのがわかる。
 彼女の鼻唄と小気味良い音が静かな部屋に響く。
 そして、彼女が手が止まった。
 静寂。

「……うん! 飲んで良し!」
「よっしゃぁあああ!!」

 俺は目の前にあるグラスを手に取ると一気にそれを飲み干した。
 一ヶ月ぶりに喉を通る炭酸の弾ける感触が、脳内麻薬を大量に分泌させる。
「っっっっかぁぁぁああああ! やっぱドクペだよ! ドクペ!」
「……好きだねえ。私は缶ビールの方が好きだなぁ」
 模擬テストの採点を終えた彼女が、手に持ったボールペンを回しながら呆れたように呟く。
「ま、君はまだ高校生だからわからないかもしれないけど」
「む、言ったね。 ……年増のくせに」
「……若さ故の過ちということにしておくよ、高校生君」
「二度も言ったな! 彼氏に対して酷くない!?」
「……坊やだからさ」
「…………遊んでるね?」
「うんっ!」
 彼女がにこやかに笑った。

三題噺「社員証」「缶ビール」「悪魔」

三題噺「社員証」「缶ビール」「悪魔」

俺は目の前の白い悪魔を睨みつける。 あぁ、ちくしょう。 俺はそいつを射殺す勢いで睨み続けていた。 しかし、勝てないことが本能的にわかっているからだろうか。 俺の手はピクリとも動くことはなかった。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-06-03

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