僕に想われた私
僕は私を想いますの続き。
甘えることのなにがいけないの?死を意識したっていいじゃない。どうせ生きるんだから。
人間は、他人の不幸と優越感で生きている。
あの日、屋上で私は悟った。
私を守った彼。私のために泣いた彼。
私は彼とこれから一緒に歩いていくのだろう。はい。ハッピーエンド。良かったね。
それでいい。それでいい?
誰が助けてって言ったの?
誰が助けていいって言ったの?
私が泣いたのは、理解してくれたことが嬉しかったんじゃないんだよ。
私が泣いたのは、自殺志願をしていたことじゃない。
本当は・・・・。
「ただいまー。」
ドアの開く音がした。
現実だ。
私の意味不明な自己陶酔はもう終わり。彼が帰ってきた。私は、左手首を撫でてから、玄関の方へと足を向けた。
「おかえり。今日はシチューだよ。」
私は努めて明るい声を出した。彼は私の顔をまじまじと見つめて言った。
「どうした?」
彼は何でもお見通しのようだ。でも、私は言うつもりなんてない。
「ちょっと聞いて!今日ね、スーパーに行ったらね、レジでね・・・・!」
私は笑っていた。また笑っていた。彼の笑顔をみて笑っていた。
はははははははは!
「なぁ。やっぱ今日、おかしいよ。なんかあった?」
私は放心状態にあったらしく、彼は心配そうにつぶやいた。
「何もないよ。もうつらいことなんてない
のに、どうしてそんなこと言うの?」
嘘。私は彼を信頼しない。できない。
「つらくてもいいんだよ。俺がいるから。
だから、何でも言えよ。」
彼は、優しく微笑んだ。私は彼の手を握って「うん」と答えた。
夕食を食べ終え、彼と後片付けをしていると、懐かしいメロディが風のように私の耳に入り込んだ。
「あ。」
「どうしたの?」
彼は優しい瞳で私を見つめた。
「この曲懐かしいなぁって。」
「本当だ。」
彼は私の言葉を聞いてまた微笑んだ。
彼は優しい。本当に優しい。彼こそ幸せになるべきだ。でも、彼はそれを望まない。私といることを選んでしまったから。
「ねぇ、幸せになりたいと思う?」
私は彼の目を見ずに聞いた。
「それは、君に左右されるかな。」
「どういうこと?」
「俺は、君が幸せなら幸せだし、不幸なら、
俺も、不幸。とにかく、君がいるだけで幸せだけど、君が幸せを感じていないなら意味がない。君が思っているより、俺は君のことが好きだからね。」
彼は私の方を見つめていた。でも、私はも
う水の取れた食器をしきりに拭いている。
私はなんて贅沢で幸せな人間なんだ
ろう。愛されているのに、わたしはちっとも
幸せなんかじゃない。
「いいよ。」
彼は見透かしたように言った。
「俺は君といれるなら、悪人でも、偽善者でもなんでもいい。ただ、君が生きているなら、それでいい。」
ああ、嫌だ。こんな彼を半分も信じていな
い自分を殺してしまいたくなる。
誰か、誰か、と思い続けながら生きていた
けれど、本当に「誰か」が現れても、何もか
わらないじゃない。
私は最低だ。涙を必死にこらえていると、
彼は私の左手首を撫でて言った。
「つらかったよなぁ。誰もわかってくれなかったんだろ?こんなに苦しんでいたのに。俺のこと信じなくていい。それを重荷に思うな。お前わるくない。俺のこと信じなくていいけど、これだけ信じてくれ。俺は君のことが世界の何よりも好きだ。」
私は気が付いた。彼は、あの屋上の、あのときから全部わかっていたのだ。
私が泣いたのは、彼に理解してもらったからではなくて、「死ねない」ということがわかったから、ということに。
誰にも理解されなくてもいい。ただ、死にたい。私の考えは今も変わらない。他人を信じることはこれからも、もしかしたら一生できないかもしれない。
ああ、それでも。それでも希望は・・・。
彼を信じること。
空虚な妄想でもいい。甘えるところができたのだ。そんなこと考えるなんてやっぱり最低?
「いいよ。何も考えなくて。君は今まで苦しんできたんだから、もう何も、考えなくていい。」
彼はまた笑った。
私は涙をたくさん流して、また心を空っぽにした。私の不幸は彼を幸せにはしてくれない。彼は私に優越感を感じてはくれない。
私は、きっと、彼を信じることはできない。でも、憎むことはできる。
そして、彼を、百パーセント愛するのだろう。
僕に想われた私
ありがとうございました!
このお話は、この前の続きです。一人でも共感してくださる方がいたら嬉しいです。