天使のいたずら〜クリスマスの奇跡~

天使のいたずら〜クリスマスの奇跡~

天使達は愛のキューピット

そんな天使達に選ばれた2人は
中学校時代の同級生

二人とも、本当に好きな人を見つけられずに
ただ、苦労ばかりしてる。

そんな二人に天使からクリスマスの夜に
素敵なプレゼントが送られる。

プロローグ 天使の独り言

人間は、今を生きることに精一杯で大切なこと見えてない。


本当に好きな人と巡り逢えないで、悲しい思いをしてばっかり。


ほら、あの二人も。

あんなに近くに本当に好きな人がいるのに、気付かない。


しょうがないな。ちょっと助けてあげようかな。


クリスマスの夜に二人が幸せになれますように。

「決心 」7月10日

今日は、いつもより遠回りして家に帰ろう。

理香は定時に仕事を終えて、コーヒーショップでアイスコーヒーにミルクを入れながら、どこへ行こうか考えていた。

昨日まで出張で本社に来ていた不倫相手の山崎は今日の15時の飛行機で帰っていった。

所詮、私は不倫相手で彼には帰る場所がある。
昨日まで私に
「好きだよ 離したくない」
と言っていたあの人は、羽田空港でお土産を買ってかわいい子供と奥さんと夕ご飯を食べながら談笑しているのだろう。

そんな事を考えたら、一人寂しく家に帰るには、少し早過ぎる時間だった。

そして、いつまで彼とこんな関係を続けていくのだろうと考えてしまった。

そろそろ終止符を打つタイミングだと思っていた。

今なら、誰も傷付かないで終われる。
私が少し辛い思いをするだけで済む。
自分で蒔いた種だから仕方ない。
彼は都合のいい女がいなくなる事で駄々をこねるだろうが
「私と奥さんとどっちを選ぶの」
と切り出せば何も言えなくなるだろう。

理香は自分自身に結論を出していた。
今まで心のどこがてくすぶっていた靄が晴れて、心がすっきりした。

久しぶりにタバコを吸いたい気持ちになり、鞄からシガレットケースを取り出して一本吸ってみた。

吸い込んだ煙をゆっくり吐き出すと落ち着いた気分になれた。

ふと、理香は髪の毛を切ってイメチェンしようかと考えた。
そして、いつもの美容室に電話をかけてみた。


30分後、理香は表参道を青山に向かって歩いていた。
金曜日ということもあって仲間達と一杯やろうという人達で街は賑わっていた。

もう7時近い時間だったが7月で日も長く、まだ明るかった。

人込みを掻き分けて、大通りから一本裏道に入ると、まるで別世界のように静まり返っていた。

さっき、美容室に連絡してみると、
「これから、すぐにだったら空いている」
と言われた。

まだ悩んでいた理香にいつも担当しているちょっとイケメンの前田から
「夏だし、髪の毛傷んでいるだろうから、おいでよ。かわいい理香ちゃんをもっと可愛くしてあげるからさ」
というおだてに乗ってしまった。

美容室の扉を開けると前田がひざまずき
「お待ちしていました。理香姫」
と冗談まじりの挨拶をしたので、笑顔になった。
理香は、やっぱり来てよかったと思った。

荷物を預けると席に案内され
「さて、理香姫今日は、どうしようか?」
と髪をブラッシングしながら聞いて来た。
私は
「あれ、今日は前田さんが私を綺麗にしてくれるんじゃなかったの?」
と少し意地悪く聞くと、
「そうだったね。じゃあ、お任せってことでその長い髪をバッサリ切らせて貰おうかな」
と肩当たりにハサミを入れる真似をしながら言った。

「あっ、それいいかも!」

予想外の私の言葉に鏡越しの前田の目は丸くなっていた。

「冗談でしょ?」
前田が真剣に聞き返した。

「ううん、本気。夏だしイメチェンのためにもいいかなって」

「何かあったの?」

「まったく、何もないよ。逆に何もなさすぎ」

「俺は、理香ちゃんが本気で考えているなら絶対におすすめする。前から理香ちゃんはショートが似合うって思ってたから」

「じゃあ、バッサリお願いします」

髪の毛は女の命なんて言うけど、今の理香には全く関係なかった。

逆に心機一転するいい機会と思った。今までの男運の無さを変えられるチャンスかも知れない。

「じゃあ、いくよ」

鏡越しに聞かれて、頷いた次の瞬間、耳元で「シャキッ」と音がして髪の毛が束になって落ちた。

それを不思議な気持ちで眺めていた。
何度も鋏を入れられて、パラパラと自分の髪の毛が落ちていった。

鏡に写っている自分がまるで他人の様に、いや何か懐かしさを感じながらただ、眺めていた。

無言のままただ鏡を眺めている私を前田は心配して
「大丈夫?切りすぎた?」
と聞いてきた。

「大丈夫。何か不思議な気分なの。自分が自分でないみたいで」
ぼんやりした感覚になりながら私は言った。

「やっぱり今日の理香ちゃんは、変だよ。明日になって、髪の毛切ったこと後悔しないでよ」

前田の声が遠くから聞こえている。

急に睡魔が理香を襲った。

これ以上起きていることに耐えられないと思った理香は
「大丈夫ですよ。それより少し眠いの。仕上がりを楽しみたいから少し眠らせて・・・」
と最後の力を振り絞って言った。

前田の声を遠くで聞きながら「大丈夫です・・・」と言ったのが最後でその後の記憶がない。
深い睡魔に襲われた理香は髪の毛を切り終わるまで眠ってしまった。

そして、夢を見た。

それは中学の時、好きだった祐樹君が転校してしまうことになり、お別れ会をやった時の夢だった。

調度、冬休みに入る時だったのでクリスマス会も兼ねてのお別れ会で私は勇気を振り絞って告白しようと決めていたのに…
最後まで告白できず、帰り道を泣きながら帰った事。

その時一緒に取った写真を大切に手帳に挟んでいつまでも眺めていた事。

そんな懐かしい夢だった。

遠くで
「理香ちゃん、起きてよ」
という声がして我に返った。

はっと目を開けるとそこに中学の時の私がいた。

まどろみの中、今がいつで、どこにいるのか分からない。そんな感覚だった。

やがて、目が覚めてきて自分が美容室にいて髪を切っていたことを思い出した。

それにしても、バッサリ髪の毛を切った自分は、本当に中学の頃に戻ったようだった。

しかも、あんな夢を見ていたのだから、夢と現実が混乱するのもしょうがない。

不思議な気分にまだ、ぼんやり顔をしている私を前田が心配して覗き込んだ。

私は
「大丈夫だよ。私、夢を見ていたの。懐かしい中学時代の夢。
そして、起きたら、まだ中学の時の自分がいて不思議な気分だったの。
だって中学の頃の髪型とそっくりだったから」

「大丈夫?何度か起こしたけど、まったく起きなかったから最後まで起こさなかったけど、切りすぎたとかない?」
前田は本当に心配になって聞いてきた。

「本当に平気。すごくいいよ!ありがとう。」
前田に渾身の笑顔で応えた。

「良かった。急にショートカットにしたいなんて言うし、急に寝ちゃって起きてくれないし、すごい俺不安だったんだから」

「本当にごめんなさい。そして、本当にこの髪型素敵だよ。10歳は若返った感じ」

「10歳は言い過ぎでしょう」

「ううん、本当に中学生の時の髪型にそっくりだったから、10年前にタイムスリップした感じなの。だから今日は中学生料金でいい?」

前田は、理香のおでこに手を当てて
「お客様。熱は、ないみたいだけど、どこかで頭を打っていませんか?」

鏡越しに二人は目が合い、大爆笑した。

やがて、セットも終わり、支払いを済ませて店を出た時には、もう街は、夜になっていた。

理香は、表参道を原宿駅に向かって歩き、そして山手線に乗り込んだ。
吊り革につかまってふと窓が鏡になって自分が写っているのに気付いた。
まだ、自分が自分でないような感じでボンヤリと眺めていた。

新宿で私鉄に乗り換え、家に着き、集合ポストを開くといくつかの郵便物の中に紛れて、綺麗な便箋が挟まっていた。

その便箋を手に取り、ふと見ると切手が貼っていなかった。
宛先も差出人も書いていないその便箋を開けてみると中にクリスマスカードが入っていた。

そして、こんな言葉が書かれていた。

~本当に好きな人と今年のクリスマスに出会えますように。今年のクリスマスがあなたにとって素晴らしい日になりますように。   天使達より~

「何、これ?」

独り言が自然に出てきた。

こんな夏の真っ盛りに何の悪戯だ?
その時はそうとしか考えられなかった。

「最終電車」8月15日

もう、夜の11時を過ぎたというのに、日中の暑さが残りビルの屋上に設置されたデジタルの気温計は33度を示していた。
祐樹は疲れ切った身体を引きずって駅へと向かっていた。4月に希望だった部署に異動になったが今までと仕事内容が全く変わってしまい、残業続きにそろそろ、身体も悲鳴を上げ始めていた。
週に3日は終電で帰る毎日でしかも、プレッシャーがのしかかる。やり甲斐はあっても、無理をしている感じは身体と心を憔悴させていた。
駅の改札をくぐり、ホームで電車を待っている間も汗が身体中から溢れ出して来る。やがて、電車がホームに入って来た。

車内は、お盆休みということもあって空いていた。そして、ドアが開いた瞬間に車内からの冷気が祐樹の汗ばんだ身体に当たり、心地良かった。
車内に入り空いているシートに座るとホッとした。
やがて、電車が走りだすとホームの明かりが過ぎ去り外が暗くなって向かいの窓が鏡の様になり祐樹を写しだした。
自分自身を眺めて疲れた顔をしているなと思った。
まだ、26才だというのになんておやじ臭い顔だろうと思った。
じっと、自分の顔を眺めていたら睡魔が襲って来て、いつの間にか眠ってしまった。

そして、懐かしい中学時代の夢を見た。

ずっと好きだった理香と自分の転校でお別れ会をしてもらった時の夢だった。
あの日、最後まで自分の好きだという気持ちを伝える事が出来ず、いつまでも後悔していたことが思いだされた。
あの時恥ずかしさから、何も言えなかった自分に情けない気持ちになった事が今のことの様に感じられた。

そんな夢を見ている間に電車は終点の駅に着いていて、祐樹は駅員に起こされ寝ぼけながらホームに降りた。
寝ぼけながら、改札口を抜けて乗り換えの私鉄の最終電車に乗った。祐樹は懐かしさを感じていた。

あの時、一緒に撮った写真を思い出していた。
大事にアルバムにしまっていたあの写真。
しかし、10年以上もたった今、祐樹の脳裏には、理香の顔はよみがえってこなかった。
いつの間にか、あんなに思っていたことを忘れてしまう。
人間の気持ちなんてそんなものなのかもしれない。
でも、今の祐樹は、無性にあの写真が見たくてしょうがなくなっていた。
あの写真はどこに行っただろうか。祐樹は、考えを巡らした。
仕事を始めて一人暮らしを始めた時に大切なものを実家から持って来たがその中にあったかさえわからなかった。
早く家に帰って押し入れの中のダンボールを探したいと思うと電車の動きが遅く感じた。

やっと、駅に着いた祐樹は急いで自転車に乗り自宅へ向かった。
そして、集合ポストから郵便物をとり階段を二階へ上がり、鍵を開けて部屋に入った。
部屋は一日中閉め切っていたので蒸し暑かった。
祐樹はエアコンのスイッチを入れ、着ていたスーツを脱ぎ、下着だけになったが自転車で飛ばし過ぎたので汗が流れた。
そんな事は関係なくクローゼットを開け、アルバムが入っているダンボールを探した。
ダンボールは押し入れの奥の方にあった。
やっとの思いで取り出し中を見てみるが目当ての理香との写真は見つからなかった。
やはり、実家に置いて来てしまったらしい。
疲れ果てた、祐樹はその場に寝転んでしまった。

苦労して探したが見つからなかった失望感と残業続きで疲れた身体はもう、これ以上動く事が出来なかった。
そんな身体をやっとの思いで起き上がらせ、冷蔵庫からビールを取り出し、飲んだ。空腹の身体にビールが流れ込む。
一息ついて、テーブルを見るとさっきポストから取り出した郵便物が目に入った。
沢山の折り込みチラシと一緒に一通の手紙が目に留まった。

それを手にとるとクリスマスカードのようだった。
宛名も切手も無かった。
そのカードを開くと「今年のクリスマスに本当に好きな人と巡り逢えますように。
PS、写真を忘れないでね!  天使達より」と書いてあった。 

「思い出の写真」8月20日

あの日以来、祐樹は、思い出の写真がどうしても見たいと思っていた。
そして、やっと訪れた休みの日、祐樹は実家に帰る事にした。

”あの理香との写真は、もう実家以外に無い。
何がなんでも、探し出す。”
と意気込んだ祐樹は、いつもなら昼過ぎまで起きないのに、今日は6:00に、目が覚めてしまった。
自転車に跨り、駅へと向かう。
途中、コンビニでパンとコーヒーを買い、食べた。
まだ、日差しも強くなく気持ちいい朝だったので、祐樹は自転車で実家まで行こうと思った。
片道15キロ程、川沿いの道を自転車を走らせた。
ゆっくりと景色を眺めながら走っていたが1時間程で実家に着いてしまった。

実家に着くとまだ、両親は遅めの朝食中だった。
久々に、しかも何の連絡も無しに帰ってきた祐樹に母親は、
「どういう、風の吹きまわし?」
と聞いた。
「いや、ちょっと探し物。」
と挨拶もつかの間、二階へと階段を登る祐樹の背中に向かって
「ご飯、食べたの?」
と母親が聞く。
「途中で食べた。」
と言った時には、もう自分の部屋のドアを閉めてしまっていた。
その後、何か言ったようだがよく聞こえなかったので、無視していると階段を母親が登ってきて、
「ちょっと、聞いてるの?せっかくだから、今日は、晩ご飯食べてきなさい。お姉ちゃん達も今日、遊びに来るっていうから。」
とドアを開けるなり言った。

「そう、ねーちゃん達も来るんだ。分かった。たまには、晩ご飯でも、ご馳走になりますか。」
と言うと満足したのか、下に降りて行った。
締め切られていた部屋は、暑く蒸していたので、エアコンを付けてリモコンで急冷にした。
これでやっと写真を探せる。
祐樹は、本棚の下の扉を開け、アルバムを取り出した。
懐かしい写真が沢山ある中、中学の時のあの写真を探した。

そして、5冊目のアルバムの中にやっとその写真は見つかった。

ずっと忘れていた理香の顔が目に飛び込んできた。

懐かしかった。
ショートヘアがよく似合う目の大きな理香。
いつも、笑顔でみんなに優しい彼女の事が本当に懐かしく思えた。

その写真を祐樹は、単行本に栞のようにしまった。
そして、祐樹は、札幌で過ごした中学時代までのこと、理香との出会いのことを思い出していた。

初めて理香とあったのは、小学生5年の春。
始業式の日に先生が
「新しい友達を紹介します」
と言った、その娘が理香だった。
理香は、父親の転勤で東京から引っ越してきたと話していた。

その屈託のない笑顔に祐樹は、かわいいなと、ほのかな恋心を感じた。
今までに感じたことのない気持ちだった。
それから、気づくと理香に視線を向けている自分がいた。
たまに、目が会うと「ドキッ」として、胸が痛い気持ちになった。

そんないつも明るく笑顔の理香は、あっという間に人気者になりクラスの中心に
いるような存在になっていった。

やがて、中学生になり、ますます人気者になっていく理香を祐樹はますます好きになっていった。
でも、付き合いたいとか、好きだと告白する勇気はまったくなかった。
さらに、理香のことが好きだと友達にも言い出せないでいた。

その反面、色々な理香の噂には、耳がダンボになるくらい興味があった。
中学になれば、放課後など友達同士で誰が好きだとか、誰が誰に告白して振られたとか
そんな話で盛り上がるとき、理香の話は良く出てきた。
その度にドキドキする自分がいた。

ある日の放課後、学年でも1位2位を争うイケ面の山田が理香に告白したと聞いた時の
祐樹はもう、山田に理香を取られてしまうという不安に心が押しつぶされそうになっていた。

祐樹は、もう、理香は山田に取られてしまったと考えただけで、この世が終わって
しまうときのように真っ暗になっていた。

しかし、そんなブルーな毎日を過ごしていたある日、山田が振られたと友達から聞いた祐樹は、逆に天にも昇る幸福感を感じていた。

中学の頃は、部活に勉強にやることがいっぱいあるけれど、祐樹にとっての
中学生活は、理香を中心に回っていた。

「本当に好きな人」8月20日

理香は、遅めの朝食を一人食べていた。
前の日に会社のメンバーと飲み、深夜の帰宅となり、少し頭が痛かった。
そして外では、騒がしいくらいに蝉が最後の力を振り絞って鳴いていた。

昨日の夜、会社のメンバーの中に不倫相手の山崎もいた。
この前会った後に髪の毛を切った私を見てびっくりしていた。
そして、それ以上に、私から別れの言葉が出たことに焦っていた。

いつもなら、昨日のような飲み会の後、二人は会社の人にばれないようにどこかで
待ち合わせ、理香の部屋へと向かうのだが、理香は飲み会の後、山崎に
「もう、終わりにしましょう。」
とメールした。

理香がメールを送ったと同時に、理香の携帯が鳴った。
紛れもなく山崎からで
「何を言ってるの?何かあったの?」
と問い詰めるような電話だった。

理香は冷静に
「もう、決めたことなの。これ以上、私たちが付き合っていたら
必ず、誰かを不幸にさせてしまう。
それは、私かもしれないし、あなたかも知れない。
もしかしたら、あなたの奥さんやお子さんかも、、、。」
そんな理香の強い決意にも、山崎は食い下がらなかった。

幾度かの押し問答の後、理香は
「それじゃあ、私たちの関係を奥さんに言えるの?」
といった後、もう山崎は何も言わなかった。

何の言葉もなくただ繋がっている電話に理香は、
「本当に今までありがとう。」
とだけ言うと電話を切った。

その後、何度となく鳴る山崎からの電話に理香は出ることはなかった。
家に着くとシャワーを浴び、ふとあのクリスマスカードが目に入った。

そして、「本当に好きな人か」と独り言をつぶやいた。

もう、祐樹君のことが好きだったときのような恋はできないんだろうなと考えていた。

懐かしいあの写真を古いアルバムから探し出し、スケジュール帳の中に挟んでいたものを取り出して眺める。

あの頃のピュアな心がよみがえる。
そして、祐樹君は今、何をしているのかな?と考えていた。

理香の心の中には、祐樹君に会いたいという気持ちが芽生えていた。
そして、クリスマスに会えるのは、祐樹君であって欲しいと願う自分にほのかな甘い気持ちを感じていた。

そう、中学生のときずっと、ずっと好きで好きでたまらなかった祐樹君に
また、恋をし始めていた。

やがて、ほのかな睡魔に襲われ理香は眠りについた。

そして、気付くともう、お昼近い時間になっていたのだった。

「新しい仕事」9月5日

暦の上では、もう秋になった、残暑が厳しい9月に入り、祐樹は、先輩と一緒に客先の会社に企画会議のプレゼンに来ていた。

次回発売される新しい健康食品の宣伝広告の企画発表だった。
何度も経験している先輩のプレゼンを目にするチャンスに祐樹は、ワクワクしていた。

そんな時、先輩が
「この仕事でお前は俺から独立な。」
と言ってきた。

祐樹は、
「へっ?」
と聞き返すだけで話の内容が理解できないでいた。

「三度は言わないぞ。
次からは、お前一人でクライアントから仕事を取ってくること。
もう、お前に任せる仕事は決まってるから。」
だった。

嬉しい反面、心細くもあったが、折角のチャンスだし、頑張るしかないと思っていた。
そうとなれば、最後の先輩の技を盗むことに専念した。

あっという間に時間が過ぎ、
先輩の素晴らしいプレゼンで今回の企画も祐樹の会社が落札した。

その日の夜、先輩と飲みに行った時、祐樹が任される会社の部長さんと偶然出会い、挨拶をした。

何度もその会社の企画を担当している先輩は、親しそうに部長と言われている人と話をしていた。
そして、祐樹が今回の企画担当として紹介された。

そして、挨拶した祐樹に部長は、
「話は聞いてますよ。彼(先輩)からどうしても今回の企画は、君を担当に付けたいと言われてね。
それだけ、君を進めるものだから、素敵な企画を期待してますよ。」
と言われ、私は、
「はい、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします。」
と言うだけだった。

すると部長は、
「では、改めて正式にご連絡しますね。」
と言って立ち去って行った。

その二日後、私は、部長に挨拶と今回の企画について伺いに社を訪れた。

受付を済ませ、11階の打ち合わせスペースに通された祐樹は、エレベーターを待っていた。
そして、乗っていた人たちが降りるのを待って、エレベーターに乗り込んだ。

緊張していた祐樹は、そのエレベーターに理香が乗っていたことなどその時は、知る余裕も無かった。

そして、理香も同僚と話していて、乗り込む祐樹に気付きもしなかった。

そう、この会社は、理香の会社だった。

11階の打ち合わせスペースで祐樹はこの前会った部長を待っていた。
すると一人の女性が祐樹に向かって歩いて来た。

そして、祐樹に
「お待たせしました。今回の担当の阿部です。部長は、間もなく参りますので」
と言い、個室へと祐樹を案内した。

とても笑顔の素敵な人だった。

名刺交換を済ませて、部長が来るまでの間、彼女は祐樹に最近の自分に起こった出来事を話した。

彼女は、初対面だというのに気さくに自分の話しをし、そして本当によく笑った。

いつの間にか祐樹も彼女のペースに巻き込まれ、笑顔で話をしていた。

とても魅力のある綺麗というよりも、可愛いタイプの阿部さんに祐樹はすぐに打ち解けてしまった。

男はとても単純な生き物で、祐樹もその単純な生き物の一人だった。
阿部さんの笑顔にすっかり惹かれてしまっていた。

やがて、遅れて部長がやって来た。
さっきまでの和やかなムードは一転して、仕事モードに戻った祐樹は先日のお礼をして、すぐに本題のクリスマスのイベントの話題に入ろうとした。

そんな祐樹に部長は、
「焦ることはないよ。もっとリラックスして!」
と声をかけてくれた。

阿部さんも
「そうですよ。さっきの木村さん(祐樹の苗字)の方が素敵でしたよ!」
と言って笑った。

部長は、
「そうだよ。これから君とは長い付き合いになるんだから、もっと本当の君を知っておかないとね。そういう点では、この阿部さんはすごく人を打ち解けさせるのが上手いんだ。」

阿部さんは、部長に
「部長こそ、偉い素振りを見せることなく、私たちに付き合ってくれてすごいと思いますよ!」
と言った。

祐樹は、すごくいい雰囲気の会社だと思った。そして、この企画は絶対に成功させようと思った。

お互いを心から信頼し、お互いのためにがんばれる会社。ギクシャクしたこの世の中にもこんなすばらしい会社があるのだと改めて思っていた。

一通りお互いの話が終わり、仕事の話になった。すでに打ち解けあい仲間意識が芽生えていて仕事の話もとてもスムーズだった。

その仕事の具体的な内容は
『この冬に出る新しいコーヒーを売り出すためのイベントを行いたい。甘めのコーヒーでデザインも女性を意識した商品なので、20から30代のOLをターゲットに考えて欲しい』との事だった。

イベント本番は、12月24日クリスマスイブだった。

ふと、祐樹はあの不思議なクリスマスカードのこと、そして、理香のことが頭に浮かんでいた。

恋の芽生え 10月5日

祐樹は、今回のイベントのために、色々と資料を確認したり、多くの人から知恵を借りるために奔走していた。
12月まであと2ヶ月。クライアントからもらった資料を何度も繰り返し目を通し、イベントを組み立てていく。

いくつかのアイデアをノートに書き写し、それをまた手直ししていく。

代理店の企画担当について、初めて自分が担当する仕事に責任感と絶対に成功させたいという強い気持ちが
祐樹の中で日を追うごとの大きくなっていった。

そして、クライアント先の阿部 由貴も今回の仕事を部長から担当するよう言われ、祐樹からの質問や依頼された資料を集める
毎日をすごしていた。
今回の商品は、阿部にとっても、社内の企画段階から色々と関わっていたことだったので、忙しい毎日だったがやりがいを感じていた。

そして、もうひとつ大きくなっていくことがあった。

それは、打ち合わせのとき初めて会った、祐樹のことだった。
彼と初めて会った時、由貴は一目ぼれをしてしまった。
それは、部長も気づいたらしく、打ち合わせの後
「阿部さん、今日の打合せは、妙にテンション高かったけど、もしかして、木村君のこと気に入っちゃった?」
由貴は、自分の心の中を見透かされたようで、自分でも顔が真っ赤になるのがわかった。
「いや、それは違いますよ。この商品に私は、色々と関わっていたから」

「よし、それならこのまま、君がこのイベントを担当してもらおう。」
部長は、有無を言わさず、私を担当にしてしまったのだ。

それから、ことあるごとに祐樹と電話やメールのやり取りができることに仕事とはいえ、喜びを感じてしまう自分が
いることに気づいていた。



由貴は、日を追うごとに祐樹に対する気持ちが大きくなり、やがて恋に変わっていくこと感じていた。

「偶然の出会い」 10月25日

阿部由貴は、祐樹と一緒にクリスマスに行うイベントの仕事が忙しくなってきて、金曜日も終電で帰宅途中だった。
ちょうど、目の前の空いた席に座って、うとうとしていたら、日頃の疲れからか、眠ってしまった。
目が覚めると自分の降りる駅を思いっきり、乗り過ごしてしまっていた。

慌てて降りたその駅は、新宿駅で、もう折り返しの電車はなかった。
週末の新宿駅は、飲み会帰りの沢山の人でごった返していて、これからどうしようと考えてしまっていた時、
背中を叩かれて振り返るとそこには、祐樹が立っていた。

「阿部さん、どうしたの。こんな遅くに。」

由貴は、突然目の前に現れた祐樹に驚き、そして偶然にも出会えたことに嬉しさが膨らんでいった。

由貴は、祐樹に乗り過ごして、これからどうしようかと考えていたことを告げると祐樹は、
「一度、俺の家に一緒に行って、車で送ってあげる。」と言ってくれた。

由貴は、嬉しい反面、迷惑だと断ったが祐樹は、
「こんな夜中に女性が困っているのは見過ごせない」と、由貴の手を引いて、自分の乗る電車に乗せてしまった。

由貴は、偶然のこの出会いが嬉しくて、そして祐樹の優しさに心がときめいて、眠気も吹っ飛び、祐樹との会話を楽しんでいた。
祐樹は、そのテンションの高さに圧倒されながらも、由貴との会話は、本当に楽しいと感じていた。
やがて、祐樹が住む駅に着き、二人は電車を降りた。

「少し歩くけど、大丈夫?」

「平気です。なんか、木村さんに会って、元気出てきちゃいました。」
と笑顔で返す由貴を祐樹は素敵な人だと感じていた。

二人で話が盛り上がりながらだったので、気づけば、祐樹の家についていた。
今、車の鍵取ってくるね。

その言葉に由貴は、
「あの、木村さんの部屋ってどんな感じか見てみたいんですけど」
といたずらっぽい顔で言った。

祐樹は、その言葉にしどろもどろになりながら
「えーっ、いや、部屋散らかってるし、こんな夜中に女性を部屋に入れるなんて、、」
言葉に詰まっていると

「えーっ、木村さん、なんか変なこと考えているんですか?」
と祐樹の顔を覗き込むように聞いてきた。

「いや、そんなこと決して考えてないよ。そうじゃなくて、世間一般のことを言ってるだけで、決してそんなつもりは、、、」
さらに焦っている祐樹がいた。

「やだ、冗談ですよ。木村さんがそんな人だなんで思ってないですから、ごめんなさい。変なこと言ってしまって。
でも、どんな部屋なのかは、本当に興味あります。」

その言葉に祐樹も少し落ち着いて
「そう。じゃあ、寒いし、お茶でも飲んで行く?」と言って由貴を部屋に案内することにした。

由貴は、本当に嬉しそうに
「はい、本当にわがまま言ってすみません。」
と言いながらも、木村の後について二階へ階段を上って行った。
祐樹は、ポケットから鍵を取り出して、鍵穴に差し込みドアを開けた。

「なんか緊張しちゃうな、本当に散らかってるし、女性を部屋に入れるなんて初めてだから」
由貴は祐樹のその言葉に何故か嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。

今、祐樹には、付き合っている彼女がいないことが分かっただけで、パッと目の前が明るくなった感じがした。

由貴は、「どうぞ」と促され、部屋に入った。
とても、シックにまとまった部屋でまったく散らかってる部屋ではなかった。

「全然、綺麗じゃないですか。私、兄がいて、その部屋を想像してたから。木村さん、凄く綺麗にしてますよ。」

「そうなの。それなら、よかった。それより、阿部さんのお兄さんの部屋を今度見てみたいな。」

「いや、足の踏み場もない位、散らかっていて、お見せするなんて恥ずかしくてできませんよ。阿部さんが兄の部屋に来たら、
変な病気にかかっちゃいますよ。私近い将来、兄の部屋から新型のウィルスか何が発見されると思っている位ですから。」
真剣な顔で由貴が言った。

少しの沈黙の後、二人は顔を見合わせて笑った。

その後、由貴は、一杯のコーヒーをご馳走になり、車で送ってもらった。

「あ、ここです。」由貴の言葉に祐樹が車を止めた。
「本当にありがとうございます。このお礼は絶対させてくださいね。」
由貴は、また二人で会える絶好のチャンスだと思いながら言った。

「お礼なんて。そんなこと考えないでいいから。」

「いや、それじゃあ私の気持ちが収まりません。絶対、お礼させてくださいね。」
きっぱりと言う由貴の言葉に祐樹は、
「わかりました。では、近いうちに。」と言った。

由貴は、嬉しそうに笑いながら、ドアを開け、車を降りた。
そして、少しいたずらっぽく
「家にも寄ってきますか?」と誘った。

祐樹は、冗談と受け取らず慌てて、
「それこそ、こんな時間に女性の部屋になんて、」とドギマギしていたので

「木村さん、冗談通じないなー。今のほんのジョークですよ。」と言って手を振って別れた。

そんな出来事でますます、祐樹に心惹かれた由貴は四六時中、祐樹のことで頭が一杯になっていた。

「予期せぬ出来事」 10月25日

理香は、会社の同期仲間4人で食事をしていた。
お給料日に同期仲間が集まって食事会をするのが恒例になっていて、毎月幹事役が
場所を決めてみんなで会食することになっていて、今回は、理香が幹事で新宿駅西口の
高層ビルにある中華料理店を予約していた。
最上階にあるこのレストランからの夜景と斬新なシェフが作る創作の中華料理が人気の店で
理香は、3ヶ月前からこの店を予約していた。

窓際の4人席で一通りの食事が済んだところに、料理長が挨拶に来ていた。

「いかがでしたか。お口に合いましたでしょうか。」

デザートの杏仁豆腐を食べながら、理香は
「本当においしかったです。この杏仁豆腐も他では食べたことのないくらい、プルプルでびっくりしてます。」

「この杏仁豆腐も、当店の特製で女性の皆さんに大人気なんです。」

「3ヶ月楽しみにしていた甲斐がありました。」

「今度はぜひ、皆さん彼氏とクリスマスにでも来てください。その時は、私もサンタクロースの格好でお迎えしますよ」

「痛いところついてきますよね。私たち、彼氏がいないから、金曜日の夜に女4人で食事会なんですからね。
 そんなにクリスマスに来てほしいなら、私たちに素敵な出会いをプレゼントしてくださいよ~っ。」
ちょっと、酔いの回った美樹がシェフに言った。

「そうなんですか。こんな素敵な女性をほっとくなんて、世の中の男達は、何をしているんですかね。
私が皆さんと同じ職場だったら、仕事も手につかないけどなー。」

「本当にお料理もお世辞も上手ですね。やっぱり、男性はシェフくらいの大人の男性がいいな。気の利いた会話ができない男は
最低だもん。シェフ、私と付き合って下さい」
理香は、美樹とシェフの会話を聞きながら、ふと山崎のことを思い出していた。

理香が山崎と不倫することになったのも、山崎の会話がとてもスマートでそして、楽しかったからだった。
今まで同年代の人としか付き合ったことのなかった理香には、大人の山崎との会話は、新鮮でそして、心休まる感じがして、気づけば山崎の虜に
なっていた。

でも、一人になったときの寂しさと公にできない関係は本当の恋ではなく、心から喜べないことに気づき理香は、終止符を打ったのだ。
そんな山崎は、その後も何度となく、理香によりを戻そうと連絡してきた。

自分のまいた種だし仕方ないと思いつつ、その度に心も体も疲れ果ててしまう理香だった。
このことだけは、ここにいる同期にも言えないで、一人で悩み続けている。
何度となく、このメンバーに話を聞いて欲しいと思ったが、何の解決にもならないからと気持ちを抑えてしまっていた。

会計を済ませ、店を出た4人は、新宿駅へと向かっていた。そして、お互いの家へと向かう電車に乗るため別れた。

理香は一人電車に乗り、携帯を開いた。さっきのお店で何度となく電話がかかって着ていたことはわかっていた。
そして、それが山崎からということも。
電話がつながらないから、メールも入っていてメールを開くと
「理香、今日はどうしても話をしたい。札幌には戻らずに東京にいるから連絡が欲しい。」と綴られていた。
気持ちが沈み、急に疲れが出た感じだった。

電車を降りた理香は、定期を取り出し、改札を抜けたところで目の前に山崎が立っていること気づいた。
一瞬だが目が合ったが、気づかない振りで足早に歩き始めた理香の肩に山崎が手を差し伸べた。

理香は、無視したまま、歩き始めたが、山崎の力が強く、止まるしかなくなってしまった。
「やめてください。何なんですか。こんなの卑怯です。」

「卑怯なのは、理香のほうじゃないか。一方的にメールで別れを切り出してきて」
山崎は、周りの目を気にしてできるだけ、声を抑えて話していた。

その逆で理香の声は、周りに聞こえるくらい大きいものだった。
「それは、仕方ないことじゃないですか。会ったところで私の気持ちなんて受け入れてくれる訳ないんだから。」
理香の声で今の電車で一緒に降りてきた何人かの人がこちらに振り向いた。

「少し、静かに話してくれないか。」
山崎は、理香に言った時、理香は体を震わせながら、

「どうして、わかってくれないの。私の気持ちをどうしてわかってくれないの。
山崎さんは、帰る人がいるじゃないですか。その人たちを傷つけたくないの。
どうして、ねえ、わたしの...。」
もう、最後の方は、言葉になっていなかった。そして、理香の瞳からは、とめどなく大粒の涙が流れていた。

今まで我慢に我慢を重ねてきた気持ちが堰を切って、流れていくようだった。

その姿を見て山崎は、
「そんなつもりじゃないんだ。冷静になって話し合おう」
と理香をなだめてみたが、山崎が話せば、話すだけ理香の感情は逆に逆立っていった。

途方にくれる山崎の隣で、声を上げて泣き続ける理香。
やっと落ち着き始めた理香に山崎は、話し始めた。

「俺、離婚する。どうしても、理香を失いたくない。正式に離婚したら、改めて君に会いに来るつもりだから。」

その言葉を聴いて、今度は、理香は体中の血の気が引くのを感じた。
理香が招きたくなかった最悪のことが起きようとしている。
私のせいで、山崎の奥さんや子供達が悲しむことになろうとしている。

理香は、鳥肌が立ち、寒気で全身が震える。声にならない。立っていることも無理な状態になっていた。

「もう、理香に悲しい思いはさせないから。」そう言いながら、理香を抱き寄せようとする山崎を
思いっきり突き飛ばして、
「もう、私達は終わったの。もう、私はあなたに戻るつもりは、ないの。もう、私に関わらないで。」
理香は、山崎を憎しみいっぱいの顔で睨みつけた。

その顔に山崎は、ひるんでいた。
こんなはずじゃなかったと思っていた。
理香に離婚のことを伝え、理香と一緒になると伝え、喜ぶ理香を想像していた山崎は、まったくの予想外の出来事に
混乱していた。

「もう、帰ってください。そして、二度と私にそんな話をしないでください。」
理香の心の叫びを感じた山崎は、あきらめるように理香の元を離れ、電車に乗って帰っていった。

理香は、呆然と駅のロータリーを抜け、深夜までやっているコーヒーショップに何とかたどり着いた。
コーヒーを頼み、席に着き深呼吸して、ブラックのまま一口飲んだ。
もう、何も考えたくなかった。

何本の電車が通り過ぎただろうか。やがて、最終電車がやってきて、出発した。

その電車には、祐樹と由貴が乗っていて、同じ駅に降り立ち、笑顔でそのコーヒーショップの前を通り過ぎていった。
二度目の急接近をしていたことを二人は知ることもなかった。

やがて、コーヒーショップの閉店時間になり、理香は、店員に閉店することを告げられ、仕方なく自分の部屋に戻ることにした。

「確信」10月28日

理香は、金曜日に家に着いてから、一睡も出来ないで朝を迎えた。
山崎の言葉が心に突き刺さり、自分を責めてしまう。
どうして、こんなことになってしまったの。私の浅はかな、軽い気持ちがいけなかったと自分を責めてしまう。
夜が明けて、ウトウトしては、ハッと目が覚める。
体が重くて、気持ちが沈んで行く。
そうして、理香は週末の二日を過ごし、月曜日、出社しようと思ったが本当に体が動かない。
やっとの思いで出社したが、全く仕事に手が付かない。
同僚からも顔色悪いと言われる始末。やっとの思いで午前中を乗り切った。お昼は全く食べたくなかったが、同期の美樹に誘われ、社食に向かった。
サラダとスープだけの食事を見て
「理香、大丈夫?金曜日は、あんなに元気だったのに。何かあったの?」と心配してくれた。

理香は「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。」と言って作り笑いを浮かべた。

「全然、元気じゃないよ。本当に何かあったなら、相談に乗るからね。」その言葉に山崎とのことが、喉元まででかかった時、美樹が話を遮った。
「ねぇ、そういえば、この社報見た?ねぇ理香、一緒に参加しない?
どうせ、お互いにクリスマス暇でしょ。」そう言って、出したチラシには、クリスマスイブに新商品発表会のイベントがあり、協力者を公募する内容だった。
理香は、ふとあのクリスマスカードが頭を過った。そして、祐樹の笑顔がパッと浮かんだ。本当にすぐそこにいると思えるくらい、鮮明に。
「ねぇ、理香?聞いてるの?」
ハッとして、美樹を見た。
そして、
「やろう。このイベント私、参加する。」と美樹からチラシを奪って言った。そして、美樹と二人でお昼を食べたその足でマーケティング部へイベント参加の申し込みに行った。
そこで受付をしたのは、阿部由貴だった。
「本当にやってくれるんですか?」
半ば諦めていた由貴は、二人の申し込みに喜んでいた。
部長も顔を出して、
「クリスマスイブにお手伝いしてくれるなんて、本当に助かるよ。ありがとうございます。」とお礼を言った。
二人は、簡単な当日の仕事内容を聞いて、お互いに自分の部署に戻った。理香は、少しだけ、気持ちが楽になった気がした。そして、それよりも何よりも、あのクリスマスカードのことが頭から離れられないでいた。
あの夏の日、誰かのイタズラだと思ったあのカードの言葉が現実になる。そして、その人は、祐樹君だと確信していた。

「告白」11月2日

週明けの月曜日に由貴は、祐樹に電話をして先週のお礼を改めてした。そして、お礼の食事は、いつ会えるかを確認すると二人の都合がなかなか合わず、やっと次の土曜日に会うことで約束した。

それから、由貴は、土曜日が待ち遠しくて、待ち遠しくて毎日を過ごした。
冷蔵庫にかけてあるカレンダーに丸印を付けて、毎日寝る前にその日にバツ印を付けてニヤニヤしていた。

ベッドに入ってからは、お礼の食事は、どこがいいか考えなから、眠ることが毎日となっていた。


そして、とうとう、待ちに待った土曜日の朝が明けた。

祐樹は、昨日の夜、急に由貴から連絡があり、待ち合わせ場所を上野駅に変更と言われた。
「お礼の食事は、内緒です。楽しみにしていてくださいね。」
そう由貴に言われたことを考えながら、待ち合わせ場所に向かっていた。

由貴は、朝の5時から起きて、今日の準備をしていた。いつもなら、朝の弱い由貴だったけど、今日は、目覚ましより早く起きていた。そして、準備した荷物をまとめて、家を出た。
いつもより足早になっていたから、待ち合わせの9時より15分も早く着いてしまった。

その由貴に続いて5分前に着いた祐樹は、もう待ち合わせの場所にいた由貴のいつものスーツ姿と違ったミニのワンピース姿にドキッっとした。

由貴は、大きなカバンを持って待っていた。
祐樹は、どうしたのこんな大きなカバン?
と聞くと
「実は今日のお礼の食事は私が作ったお弁当を二人で動物園で食べようと思うんです。」と少し照れながら言った。

祐樹は、その笑顔に圧倒された。
そして、由貴のことを一人の女性として、素敵な人だと感じていた。

祐樹は、由貴からバックを受け取り、何年ぶりかの上野動物園に向かって歩き出した。

この日は、小春日和で暖かく、二人は動物園での休日を楽しんだ。
祐樹は、何年ぶりのデートだろうと考えていた。
その時の彼女はとてもおとなしい人で、目の前の由貴と違い、会話が途切れてしまい、お互いが気まずい思いでいたことを思い出す。

でも、今の目の前にいる由貴は、とても明るくて元気な女性で楽しい時間が続いている。
こんな気分で女性といられることに祐樹は、心から楽しんでいた。

ぐるりと動物園を回って時計を見ると11時15分だった。ちょうど、ランチを食べるのに良いテーブルとベンチがあった。
祐樹は「ちょっと早いけど、あそこで阿部さん手作りのお弁当を食べないですか。」
と言うと、
「私も、もうおなかすいちゃって」と二人の意見があったのでお弁当を食べる準備を始めた。カバンの中には、三つのボックスがあって、おにぎりとおかずとデザートに果物が入っていた。
祐樹は、おにぎりを頬張りながら、おかずの卵焼きを食べた。卵焼きは、甘い味付けで祐樹は、
「俺の好みにもバッチリだよ。本当に美味しい。朝から全部作ったの?」と聞くと
「今日は、5時起きで木村さんのために作りました。」と両手を広げて話す由貴。
二人の会話は弾み、あっという間におにぎりとおかずがなくなった。
デザートのフルーツは、柿だった。
甘い柿で祐樹は、驚いた。

全てを平らげて、満足した二人。
由貴は、急にお礼も終わってこれでお別れになるのかと思ってしまった。

そんな由貴のちょっとさみしげな仕草に気づいた祐樹は、
「どうしたの?急におとなしくなったけど。」

由貴は、「この前のお礼も終わっちゃったし、このデートも終わりかと思うと淋しくて。」

いや、こんなにしてもらったからには、今度は俺がお礼しないと。良かったら、晩御飯一緒にどう。」
その言葉に由貴は、本当に嬉しそうに笑いながら
「ヤッター」
と言った。そんな由貴の素直な気持ちが羨ましいと感じる祐樹だった。

そして、ふとあの中学生の時に由貴のような素直な気持ちがあったら、理香に告白できていたのかな。と思ってしまった。

「あの、木村さん?木村さん!」

「えっ?ごめん。ちょっと考え事してた。」

「やだ、話しかけても何も言ってくれないから、何か怒らせちゃったかと思って、、、、。」

「ごめん、そんなんじゃないから。
さぁ、どこか行きたいところある?」

その言葉に、もう笑顔の由貴は、
「それじゃあ、私、海が見たいな」と張り切り声で言った。

「これから海か、冬だから日も短いし、砂浜のある海は難しいな。だったら、浜松町から隅田川の船に乗って、浅草まで行こうか。」

そい言って二人は電車に乗り、浜松町に行って、隅田川までの遊覧船に乗った。少し寒かったけど、二人は甲板に出て、いろんな話をした。

そして、あっという間に浅草に着き、浅草寺へお参りをして仲見世通りをぶらぶらと歩いた。

相変わらず、元気な由貴が
「また、お腹空いてきた。」と言った。

「それじゃあ、この辺りでオススメのもんじゃ焼きのお店に行こうか。」と祐樹が誘うと

「私、もんじゃ焼き食べたことない。あれってどうやって食べるんですか」という言葉で二人はもんじゃ焼きを食べに行くことで決まってしまった。

扉を開けるとすでに混み始めていた店内の奥の二人席について、ビールともんじゃ焼きを祐樹は、頼んだ。
乾杯して鉄板に具材で土手を作りもんじゃ焼きの汁をその土手の中に流し込んだ。

お店のお姉さんがもんじゃ焼きの食べ方をレクチャーしてくれた。
小さなヘラを上手に使い綺麗にまとめ上げたもんじゃ焼きを由貴に食べさせてくれた。

「美味しい!阿部さん美味しいですねー!」
由貴は、初めて食べるもんじゃ焼きに夢中になった。
二人は、もんじゃ焼きをつまみにビールをお代わりした。

ほろ酔い気分で店を出た二人。会話は、まだまだ途切れない。

祐樹は、由貴を家まで送ると言った。
由貴の住む街なら、ここからタクシーであっという間だった。
由貴をタクシーから降ろして、タクシーを出発させようとした時、由貴は、家に寄って行ってくださいと言った。今日は、そんなに遅くないし、それに、どうしても、さっき話した曲を聴いてもらいたい。と駄々を言った。
祐樹は、由貴の押しに負けて、由貴の部屋に行くことになった。
女性の部屋に入るなんて初めてのことでどうしていいかわからなくて、
ただ勧められたソファに座って、辺りを見回すしかなかった。
由貴は、紅茶を用意してくれた。
そして、CDを取り出して、かけてくれた。
「この曲聴いたことないですか?」
祐樹は、
「知ってるよ。クリスマスソングの中で一番好き。」

「よかった。私も大好きな曲です。今度のイベントでこの曲かけたいな。」

「うん、イメージもピッタリだし、早速使えるように手配してみるよ。」

祐樹は、隣に座った由貴を見てそう答えた。

目と目が合った瞬間、笑顔だった由貴の顔が真剣な顔になっていた。
そして、由貴は、祐樹の胸に飛び込んで
「やっぱり、私木村さんが好き。好きになっちゃった。こんな気持ち初めてなの。」

祐樹は、ただそれを受け入れるだけで、体が動かないでいた。
声もうまく出ない。
その時、パッと理香ことが浮かんだ。
それはどうしてなのか、わからないけど理香の笑顔が頭の中に広がっていた。
そして、冷静になれた。
祐樹は、由貴の肩を持ち、話しかけた。
「阿部さん、ありがとう。その気持ちすごく嬉しい。だけど今、僕には、その気持ちを受け入れることは出来ないんだ。この仕事をしっかり成功させたい。そして、僕には、ずっと告白できないでいる人がいる。
その人とのことに決着つけないといけないんだ。」

由貴は、祐樹をじっと見つめながら
「ごめんなさい。勝手にこんなこと言って。
でも、この気持ち本当ですよ。木村さんの気持ちが整理できたら、ちゃんと返してくださいね。それまでは、私もクリスマスのイベントを成功させることだけ考えます。」
祐樹は、
「今日は、ありがとう。また、来週からよろしく。」
と言って、由貴の部屋を出た。

「再会」12月2日〜12月25日

祐樹は、由貴から告白されてから、この仕事に少しためらいが出てきていた。
そして、そのことを部長にすぐに気づかれてしまった。
部長は、祐樹を打ち合わせの後、呼び出した。
「何が阿部君とあったかは、私の知ることではないが木村君、仕事とは、どんなことがあっても、最後まで責任持ってやり切らなければならない。ただ、それだけだ。何があってもだ。簡単なことだよ。仕事は仕事。なっ。」と言うなり、部長は、祐樹の肩をパンパンと叩いた。
祐樹は、部長のその言葉に
「はい、この仕事は、何があっても成功させます。これは、阿部さんも同じ気持ちだと思ってます。」
と返した。
「それなら、良し。」とだけ部長は、言って席を立った。
阿部と祐樹は、最後のイベントの詰めを行った。あの日以来、由貴は、祐樹に何もなかったように振舞っていた。逆に祐樹の方が何処かぎこちない態度をとってしまっていたみたいだ。それを部長は、鋭く見抜き、アドバイスしてくれた。
そして、その日以来、祐樹も仕事に全力をつくした。

そして、とうとうイベント当日クリスマスイブを迎えた。
会場となる代々木公園の会場は、イベントが始まる夕方から沢山の人が集まってきていた。

由貴は、裏手でサンタクロースの帽子を被りながら、イベントの当日の仕切りをしていた。
その中には、理香と美樹もいて、二人もサンタクロースの帽子を被り、イベントの手伝いをしていた。

祐樹は、コンサートを行うステージで打ち合わせを行い、最後の大仕掛けのイベントを取り仕切る為に色々な関係者と打ち合わせを行い、裏手でに行き、由貴達の状況を確認してとてんてこ舞いしていた。
そんな祐樹の本当に真横にサンタの帽子を被った理香が立っていたが、二人とも仕事に追われて気づきもしなかった。
やがて、部長が現れ、祐樹に声をかけた。
「もう、ここまで来たら、何も焦ることはないよ。木村君は、ドーンと構えてれば、それでいい。」と言ったその時、祐樹の元に係員がやって来て
「すみません。サンタクロースの担当がインフルエンザになって来れなくなってしまいました。
今、後任を探しているのですが、急なことで間に合うかわかりません。」
と焦った声で伝えた。
祐樹は、困ってしまった。クリスマスに皆にプレゼントを配るサンタクロースがいないんじゃ話にもならない。もう間も無く、イベントも始まってしまう。
部長は、「木村君出番だよ。」と言った。
祐樹は、「私はまだ、色々と打ち合わせや」という声を遮り、
「さっき、言ったじゃないか。もう、君がいなくても、このイベントは、動くから、君はサンタクロースになってこのイベントを盛り上げてくれ。」
部長のその言葉で祐樹は、自らサンタクロースになることを決断した。

スーツの上からサンタクロースの服を着て、顔にサンタの眉毛やヒゲを付けていく。
会場は沢山の人で大盛況だった。
新商品の紹介、そしてイベントに呼んだバンドのコンサートも無事に進んでいた。
由貴は、いつの間にかいなくなった祐樹をさがしていたが、見つからなかった。

祐樹は、サンタクロースになってからも、あれこれ心配は、していたがもう何もすることができないでいたが、部長の言う通り、イベントは、何の問題もなく、時間だけが過ぎて行った。

やがて、クリスマスイブの夜が深まり、イベントは、午前0時販売開始の告知に花火を打ち上げる準備に入っていた。
あと10分でその時間になる。

サンタクロースの格好をした祐樹も袋に沢山の新商品のコーヒーを詰めていた。
時計は、23:59。あと1分でクリスマスになる。

会場は、カウントダウンの声が上がった。
「5・4・3・2・1・メリークリスマス!」
会場に響き渡る声と共に空には打ち上げ花火が上がった。
祐樹サンタは、集まった人たちに新商品のコーヒーを袋から取り出してプレゼントした。
由貴も理香も、サンタクロースになってみんなにプレゼントを配ってる。
全てのプレゼントを配り終え、花火も終わり、イベントは、無事に終了した。

祐樹は、サンタクロースの姿のまま、その余韻に浸っていた。

由貴は、祐樹がどこに行ってしまったのか心配しながらも、今日手伝ってくれた二人とイベントの成功に喜びを分かち合っていた。

全てのプログラムが終了し、来場者がどんどんと家路へ戻っていく。
イベント会場は、係員だけになり、全員で後片付けをしているとステージの方から声がした。

「あのー、サンタクロースさん、宣伝用に写真撮りたいのでこっちに来てくれますか?それからそこのサンタの帽子を被った女性陣も一緒にお願いします。」
その声にサンタクロースの格好をした祐樹も、由貴も、そして理香もそれぞれの場所からステージに向かった。

ステージに今回のイベント仲間が集まったのに由貴は、サンタクロースが祐樹だと気がついていない。

そんな由貴が面白くて、由貴に向かって、
「阿部さん。お疲れさま。」と祐樹は声をかけた。

由貴は、その声に驚きながら、
「木村さんなの?」と言った。

「やっと、気づいてくれたね。急遽、ピンチヒッターでサンタ役にさせられてた。」
と言う会話に理香は、体が動かなくなっていた。

やっとの思いでサンタクロースの肩を叩く。
そして「木村君、木村祐樹君なの?」と言った。

その声に祐樹は、鳥肌が立った。
そして、振り返って、目に飛び込んできたのは、理香だった。

二人は見つめあったまま、言葉が出ない。
そんな二人に美樹が
「二人は知り合いなの?」と聞いた。お互いに見つめあったまま、頷いた。
美樹は、「やだ、すごい。クリスマスに再会なんて、感動だよ」と大声で叫んでいる。

祐樹は、サンタの眉毛と髭をとった。
そして、中に着ていたスーツのポケットから理香との思い出の写真を取り出して言った。
「本当に会えたんだね。あのクリスマスカード、本当だったんだ。」
理香は祐樹の言葉に
「私もクリスマスカードが届いたの。その日からずっと祐樹君のこと思ってた。絶対会えるって信じてた。」そして、帽子を取ると中学生時代のショートカットが似合う理香がそこにはいた。

隣にいた由貴は、二人を見つめながら、あの人が木村さんの言ってた人なんだな。すごく素敵な人だし、この人なら私、木村さんを諦められる。と思った。

そして、ふと空を見上げると、そこには、笑顔の天使が二人を見つめていた。


〜天使のひとり言〜
やっと、出会えたな。
本当に一苦労だったよ。
これで僕も少し休めるかな。

天使のいたずら〜クリスマスの奇跡~

本当に好きな人って、本当はすごく近くにいるんだけど、なかなかその人のこと気づかないことが多いのかな。
そう、サンタクロースの格好をした祐樹に誰も気づかないみたいに。
いつも、近くにいて、当たり前の存在になりすぎちゃって。

皆さんにも、そんな人がいるんじゃないですか。

天使のいたずら〜クリスマスの奇跡~

初恋の人を覚えていますか。忘れないでいたら、クリスマスの夜に不思議なことが起きて、出会うことができるかも。 幸せになりたい、そう願っていれば、今までの悲しみも消えてなくなるさ。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-22

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Copyrighted
  1. プロローグ 天使の独り言
  2. 「決心 」7月10日
  3. 「最終電車」8月15日
  4. 「思い出の写真」8月20日
  5. 「本当に好きな人」8月20日
  6. 「新しい仕事」9月5日
  7. 恋の芽生え 10月5日
  8. 「偶然の出会い」 10月25日
  9. 「予期せぬ出来事」 10月25日
  10. 「確信」10月28日
  11. 「告白」11月2日
  12. 「再会」12月2日〜12月25日