Happy Birthday to me

「1月ってさ、なんか始まったと同時にメインイベント終わりってかんじして好きじゃないのよねー」
と語る友人は、私をこのダイニングバーに呼び出してから小一時間ずっと愚痴を言っている。
正月休みも終わり、新年会ラッシュを抜けて仕事も安定してきた1月下旬。正月ボケから抜けたおっさん連中がいろいろ文句を言い出して最近何かと忙しい。私は何も悪くないのに何故こうも毎日頭を下げなきゃならぬのか。
加えて、友人の愚痴大会だ。
今日ばかりは少し、期待をしてたのに。
何を隠そう今日は私の誕生日だ。
もう誕生日がおめでたい歳でも無いが、それでも誰かに祝って欲しいと願うのはわがままでは無いと思う。友人からは祝おうなんて気配すら感じないが。

散々愚痴を吐き出してすっきりしたのか「明日早いから」という理由で彼女は早々に帰って行った。飲み代が割り勘なところが彼女らしい。
ダイニングバーを出て、時計を見る。23時10分。金曜日だからか、まだ街は賑わっている。
歩きながら電車の時間を確認しようとしてケータイが鳴っているのに気づいた。
ケータイはLINEの新着を知らせていた。
〔焼き鳥たべたい〕
発信先はいつのまにか友だち登録されていた大学時代のサークルの先輩だった。
顔は覚えてるけど、先輩が卒業してから連絡をとったことは一度もなかった。サークルに居た頃も連絡なんて取った事無かった。それが、何故。
多分いつもなら無視していたであろうそれに返事を出したのは誕生日のテンションのせいだろう。
《お久しぶりです》

23時30分。
私は焼き鳥チェーン店に居た。
「つき合わせちゃってごめんね、安達さん」
目の前で謝る彼は、先ほどLINEで焼き鳥食べたい発言をかました本人である。
「いえ。でもびっくりしました。瑞野さんから連絡くるなんて」
「友達に送ったと思って間違っただけなんだけどねー」
「LINE誤爆するほど疲れてらしたんですか」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
数年ぶりに会うのに思ったより会話が弾んだのがおもしろかった。
そういえば男性とプライベートで話すのは久しぶりだ。いつもは会社関係の人と仕事の話ばかり。
・・・そう考えると誕生日を祝ってくれる人がいないのなんて、当たり前か。

なんとなく、腕時計を確認する。
時刻は24時12分。
「終わったな」
ぼそりとつぶやくと瑞野さんには聞こえていたようで、何事かと聞き返された。
「あぁ、今日が終わっちゃったなと思って。誕生日だったんです」
「えっ嘘まじで?おめでとうございまし…た」
「あははっおめでとうございました、新しいですね」
「もう日付変わる前に言ってよー俺でよければお祝いするのにー」
「もう祝われる歳でもないですよ」
「じゃあさ、お祝いしよう」
「これから?」
「これから」
「…瑞野さん、モテるでしょう?」
「えっ?」
思い出した。こういう人だった。
昔からこういうことがさらっと言えたり、できたりする人だった。
苦手だなと思って自分から話さないようにしていたんだ。
それが。
「是非、お願いします」
「お祝い?」
「お祝い」
「店、出よっか」
さらっとおごってくれて、そのまま手を引かれて歩き出した。
誕生日のテンションって、すごい。

翌朝、目を覚ました私の目の前には見知らぬ天井が広がっていた。

Happy Birthday to me

Happy Birthday to me

seasons#1月

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-21

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