telephone#1
小さい頃、江戸の街を舞台に腰に木刀をさした銀髪の男が万屋を営みつつ街で起こる様々な事を解決したりしなかったりするマンガを読んでいたせいか、
「万屋」というものにあこがれを抱いていた。
ちょっと前に観た便利屋が活躍する映画をみて幼少期のあこがれを思い出した俺は、
映画館を出たその足で、万屋を始めた。
電話一本でなんでもやります。
今日もまた、電話が鳴る。
プルルルルル、プルルルルル
ガチャ
「もしもし」
『なんでそらはあおいんですか?』
間髪入れずに俺に質問をなげかけた電話の主は、明らかに幼児だった。
「もしもし、間違え電話かな?」
なるべく優しく、かつ丁寧に。相手は子どもだ。
『なんでそらはあおいんですか?』
二度も同じ質問をくり返しやがった。
「ここは全国こども電話相談室じゃないんだけど、まちがえちゃったのかな?」
相手は子どもだ。
『おじさんなんでそらがあおいかしらないの?』
「空がどうして青いのか知りたかったら、お母さんやお父さんに聞いてくれるかな?おじさん忙しいんだ」
なるべく丁寧に、かつ早く電話をきってくれるように子どもに話す。
もしこの子が大事な客のガキだったら大変だ。
『おじさんほんとはしらないからごまかしてるの?』
キレてもいいか。
ムカつくなこのガキ。
だがいつでも冷静沈着な仕事の顔を子どもだからといって崩すわけにはいかない。
「そんなことないよ」
『じゃあなんでそらはあおいんですか?』
堂々巡りとはこのことか。
俺は静かにgoogle検索画面に空が青い理由と打ち込んだ。
「なんで空が青いのか。それはね、空気には、酸素や窒素などの気体分子がたくさん存在しているんだ。だから無数の気体分子に太陽光があたっていることになります。空が青いというのは、私たちが空を見たときに青色の光が目に入ってきているということです。このことを考えると、空気中
の気体分子にあたった太陽光は、主に青色の光を散乱していることになります。どうして、青色の光はたくさん散乱されるのに、青色以外の光はほとんどほとんど散乱されないのでしょう。光が気体分子のように非常に小さい粒子と衝突するミクロな世界では、光の振る舞いは、我々の日常の経験とは大きく異なるのです。例えば、鏡は全ての色の光線を反射しますが、ミクロな世界では、波長の短い青色の光が他の色の光より強く反射し、散乱します。この現象は粒子が光の波長の約10分の1ぐらいになると現れます。この散乱はレイリー散乱と呼び、1940年にノーベル物理学賞を受賞したレイリー卿によって発見されました。青色の光は振動数の大きい光、すなわちエネルギーが大きい光です。したがって、青色の光が気体分子にあたると原子内の電子を上下にはげしく揺り動かします。その揺り動かされた電子の動きにしたがって再び同じ振動数を持つ青色の光が強く放出されることになります。この無数の気体分子から青色の光がバラバラに散乱しているのです。ところが、このたくさんの気体分子からばらばらに散乱した
青色の光を平均すると、お互いに打ち消しあってプラス・マイナスゼロなります。これでは空が暗くなり、青空は見えなくなってしまいます。どうして打ち消しあわないで空が青く見えているのでしょうか?気体分子がそれぞれ全くでたらめな動きをしているため、絶えず大気の密度にムラ、いわゆるゆらぎっていうものが生じています。このために散乱された光はお互いに打ち消しあわないようになります。晴れた昼間の空では、ゆらぎながら動いている無数の気体分子に太陽光があたり、太陽光の青色の光によって気体分子の電子を揺り動かし、その電子の動きで再び散乱された青色の光を私たちは見ています。それで空は青く見えているのです。それから、水が青く見えるのは、空が青く見える仕組みとは違います。簡単に言えば、水が赤色光をわずかに吸収するからです。水中で撮影した写真はやけに青色に見えるわけです。わかったかな?」
教えてgoo先生の言葉をあたかも自分の知識のようにとうとうと答えてやった。
なんて鮮やかな解答なんだろうか。
子ども相手でも動じない俺。
『ふーん。よろずやってたいしたことないんだね』
ガチャ
ツーツーツー
子どもの痛烈な一言と共に電話が切れた。
敗北感たっぷりな俺は、今日は早く帰って寝よう、と心に決めた。
telephone#1