あのひと (と)

フィルム

先生みたいだった

勉強の仕方や問題の解き方を
とても細かく教えてくれたの

正直、
会いたいから
相談がある
アドバイスが欲しい、なんて言ったの

それなのにあのひとは
いつにもまして真剣に話してくれた

もちろん役に立ったけれど
ずっと私はあのひとをちらちらと
垣間見ていたの
ごめんね?

個人的なこともたくさん話した

あのひとのこと
なにも知らないの

好きな色も好きな食べ物も
どんな本を読んで
どんな音楽を聴くのかも

たくさん知りたかったのに
私は自分のことばかり話してしまった
まるで話を聞かない女だった

いつもの私なら
うんうんと話を聞いてくれる子
をできるのに

知って欲しくて
私をもっと知って
気にして欲しくて

帰りの電車で気が付いた
話しすぎた後悔

それでもなんだかしあわせで
たった3時間一緒にいられたことが
うれしくてうれしくて

次に会う予定なんてなくて
誘ってくれるわけもなくて

私は何度もあのひととのシーンを
繰り返すの

いっそのこと
擦り切れてくれれば
色褪せてくれればいいのに

どうして
より鮮やかになっていくの?

あのひと (と)

あのひと (と)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-20

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