あめあと

あめあと

♯1 出逢い

 思えば、それは必然だった。
 
 築2年のアパートに引っ越しをしたのは、ほんの一月前のことだ。
 社会人も三年目になると、少し余裕が生まれてくる。
 実家から会社までは約一時間半。残業をして終電で帰るには、少し遠い。また、今年は給料の見直しがされ、自分一人くらい養えるだろうと考えた。そんな理由から、会社から約20分のちょっと辺鄙な街に住むことを決めたのだった。

 いざ一人暮らしを始めたはいいものの、一人の時間の使い方を知らなかった。
 仕事終わりに夕食を摂り、さみし紛れにテレビをつける。
 そんな毎日がいつまでも続いていくなんて、思ってもみなかった。
 自由とは孤独を伴うのだろうか。そんなことを考えずにはいられなくなる。
 
「寂しい、かも」

 口に出せば尚更、それが襲ってくる気がした。

 そんなとき、友人にすすめられて、無料通話のできるアプリをダウンロードした。
 彼と出会ったのは、それがきっかけだった。

 突然、わからない相手からの電話がきた。

 怖い、と思わなかったわけではない。
 それに、好奇心が勝ったのだ。
 無意識に私は、通話のボタンを押していた。

「もしもし」
「え、あ、もしもし?」

 驚いたような、困ったような声。

「あれ? たくやじゃないの?」

 それが、始まりだった。

あめあと

あめあと

ネット社会で、匿名でのコミュニケーションは、簡単に相手を傷つけるものだと問題視されている。 でも、顔が見えないからこその繋がりが生まれることもある。 体験談を交えた、フィクション。 いろんな人に読んでほしいな。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-20

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