ミントクッキー
実験的な作品です。
デジタル時計は4時30分を示していた。母さんも弟も起きるのはまだまだ後だ。私はベッドから抜けだした。
私はリビングの棚の奥からミントクッキーの箱を取り出した。そして灯油ヒーターの電源を入れた。これで家に帰ってくるときには部屋は温かいだろう。スニーカーを履いて、マフラーを巻いて、家を出た。
4月になったが空気は冷たい。雑草は霜で白くなっている。深く息をしようとしたら鼻の奥がつーんとした。
しばらく歩いて、カーブミラーのある曲がり角を曲がると猫がいた。黒や茶、がまだら模様をつくっている。
あんたも好きなの?
私が一枚、放ってやると猫はすぐに食いついた。でも、平べったいクッキーは食べづらいようだった。ポロポロと食べかすがアスファルトに落ちた。
ふーん、あの子なら上手に食べるのに。
クッキーに夢中になっているその子を尻目に私はまた歩きはじめた。
中学校の駐輪場についた。ふと三日前のことが思い浮かんだ。ここで私は人生初めて失恋した。
「ねえ、好きな男子いる?」ゆかが笑いかけてくる。私は動揺を隠そうと頑張ったけどむりだった。数分の押し問答で藤田広という名前をはいてしまった。その時のゆかの表情は、なんとも言えないものだった。私は瞬間的にすべてを悟った。今も忘れることが出来ない。そしてこれが私の失恋の記録。
しようがない。この子が相手なら逆に少しもぬか喜びもしないですむもの。むしろ、よかったんだ。私なんかと比べるまでもなく、彼女は、先生からも、周囲の友だちからも、女子からも、男子からも、進学先からも、恐らくこれから先の人生であう人からも、好かれ、尊敬され、救いの手を差し伸べられ、いややめよう、こんなことを考えた所でなんになるの。藤田くんへの思いはもう忘れてしまおうときめてじゃない。
私は中学校の校庭のフェンスの扉を開け、雑木林を進んだ。
ここには、普段誰も入り込まない。近所の小学生たちはもっぱら町の大きな公園とかで遊ぶし、もし冒険を試みてもこんな深くまで来ることはないだろう。
黙々と私は歩いた。そして到着した。
大きな杉の木がある。
その根本には大きく、えぐったような空間がある。
そこに私は毎朝、ミントクッキーを届ける、あの子が好きだから、いろんなものを与えてきたけど一番喜んだ様子で口に運んでいたから。
藤田くん。
私はクッキーを一枚放ってやる。
ミントクッキー
叙述トリックが使いたかったのでかいてみました。
最近で言うヤンデレというやつでしょうか?
深みのない設定ですが、少しでも楽しんでいただけたのならさいわいです。