タイトル未定

ああ、今日は厄日だ。それも人生最悪と言っても良い。まさかこんなことになるなんて思ってもみないじゃないか。特別なことなんてない、当たり前のことしかないって。いつものようにくだらない一日が過ぎて終わるはずだった。ほんの数分前までは。
 ちょっとした出来心だったのに。誰もいない路に向かって、今いる公園のベンチから飲み終わった缶ジュースの空き缶を投げただけ。そう、ただそれだけ。カーンカーンって甲高い音を上げて空き缶が転がってそれで終わり。もちろん後で拾うつもりだった。むしゃくしゃしていたんだ。家のこと姉のこと、そして小学校のこと。辟易としたこの鬱蒼な思いを投げただけ。
 ドーン! ともう一度、目の前で小さな爆発が起こる。もうもうと黒煙が上がり、すでに周囲には野次馬がたくさん集まって「消防車を呼べ」とか「一体何が起こったんだ」とか「事件だ、事件」とか様々に騒ぎ立てている。そして、アタシは彼らから見れば野次馬の一人でしかない。
ぼけっと突っ立っていたら近くにいた近所のおばさんに「危ないから子供は早く逃げなさい」と言われた。いや、こういったことに大人も子供もないだろう。危ないことに変わりはない。大人だから子供だからっていう括りは嫌いだ。近くにだらしのない中身のない大人がいるし……。
 近所のおばさんに逃げなさいと言われても、アタシの足は微動だにしない。逃げられるわけがない。この爆発の当事者なんだ。
ここで逃げてしまえば、もしかしたら逮捕状が裁判所から発行されて、警察によって実家のラーメン屋が家宅捜索、家族離散、アタシは少年院に連れて行かれて人生お先真っ暗に違いない。そこまで考えると冷や汗がだらだらと流れ落ちる。
自首した方が良いかな。やっぱりした方が良いよね。だって、人ひとり殺してしまったしたんだから。逃げて捕まるより、きっぱり自分の罪を認めて出頭した方が世間的に見れば、まだ心象は良いはずだ。あーあ、思いのほか早く終わっちゃったなアタシの人生。特別なことがこういう形でやってくるとは。本当についていない。神様の賽子の出目がよくなかったんだ。
めらめらと燃える火が一段と大きくなる。どんっとさらにもう一回大きな音がした。もしかしたらスクーターのエンジンが爆発したのかもしれない。
はあ……。目の前の真っ赤な炎が忌々しくて仕方ない。もうどうでも良いや、自首しよう。そう考えてアタシは近くにある交番に向かうことにした。爆発現場に背を向けて歩き出す。
すると、通りの向こう側から消防車のサイレンが聞こえ始める。消防がやってきたということは近いうちに警察もやってきて実況見分が始まるはずだ。その前に自白してしまおう。重い足取りで少しずつ交番に向かって前進する。
そんな時。
「きゃああ!」
 背中の方で悲鳴が上がった。えーと、なんで今更悲鳴なんだろう。タイミングがおかしいんじゃないだろうか。あ、もしかして焼死体が出てきたのだろうか。アタシが言うのもなんだけれど、ご冥福をお祈りします。アーメン。
 基督教信徒ではないけれど、一番分かりやすいかと思い、振り向いて胸の前で十字を切ろうとし……。
「待てや! ごらああああああああああ!」
「えっ」
 振り向きざまにアタシの目に映ったのは常人離れしたジャンプをして、思いっきりギター(だと思う)を振りかぶった人型生物(多分、女性)の姿だった。
「人殺しかけといて逃げるとは良い度胸してんじゃねえの。歯、食いしばれ!」
「え、え」
「おらああああああああ!」
 瞬間、頭を思いっきりギター(何度も言うけれど多分)で殴られて数メートル先に吹き飛ばされる。
なにこれ。なんだこれ。意味分かんないって。え、アタシ死ぬのか。そうか、死ぬのか。人殺すどころか自分が死んじゃうんなんて思っても見ないって。はは、もう乾いた笑いしか出てこないや。なんだよ神様。こんな仕打ちすることないんじゃない? くっそ。待ってろよ。天国着いたら絶対泣かす。良いか? 待ってろよ!
 この間数秒。でも、アタシにはすごくスローに感じられた。そして気が付いたら冷たい地面に叩き付けられてごろごろ転がってアタシの意識は断絶した。

タイトル未定

タイトル未定

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-19

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