ハイリ ハイリホ(39)(40)
一―十八 パパ・二―十八 僕
一―十八 パパ
竜介の心配そうな、だが、俺の耳には、雷よりもやかましい轟音が響き渡る。同時に巻き起こる声の風のせいで、俺の体がふきとばされそうだ。風速四十メートル。絨毯の毛に必死の思いでしがみつく。傍らにあるせんぎりキャベツと輪ゴムが俺の友達で、隠れ場所だ。
「竜介、パパはここにいるから安心してくれ。それより、あまり、話しかけたり、動き回ったりするのはやめてくれ。お前の一挙手一投足がパパの命に大きく左右するんだ」
力の限り、声が涸れるくらい大きな声で叫んだつもりだが、竜介の耳に届いたかどうかはわからない。蚊が飛んで来る時のブーンという音ぐらいには聞こえて欲しい。しまった。蚊と同じ音だと、潰されてかねない。思ったとおり、竜介の両手が俺の頭の上で雷のように鳴り響く。
俺は、蚊じゃない。お前の、パパだ。こんなに小さくても、威厳がなくてもお前のパパだ。両手の爆音と、それに伴って発生した強風が、再び、俺を襲う。このままでは、俺の命は風前の灯火だ。空の道標として胸をはっていたのはいつの頃だったろうか。
その時、再び、俺の歴史が動いた。ずんずんずんずん。身長が伸び始めた。成長が収縮に勝った瞬間。もう少し、命の炎を燃やしたい俺の気持ちが天に通じたのか。降り注ぐ慈愛に満ちた成長ホルモンか。だが、もう二度と天にまで背は伸びたくない。俺の視線は、横たわっていたソファーに、テーブルに、竜介の顔に、いつも身だしなみを確かめる窓ガラスの高さに戻った。ありがたいことだ。合掌。
二―十八 僕
朝早くから家を出て、汗にまみれて仕事をする中で、お客様に怒鳴られたり、上司に叱られたり、様々なストレスの洪水の海で、初期の目的を達成し終えた後、疲れ果てた体を癒すため、家に帰る。この一日に繰り返しが、この世に生まれ、生き抜いて、やがて、死を迎える人の一生だ。だから、パパ、疲れたら帰って来てよ。僕が笑顔で迎えてあげるから。おかえりなさい、パパ。
「パパ、パパ、お帰りなさい」
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