知らないもの⑨
「どういうこと?」
「人で言う、精神不安定、情緒不安定かな。」
遠くを見るような良の目は優しく、私の知っている幼馴染の良ではないような気がしてしまった。
すんすんと鼻をすする音はきっと雪妃ちゃんのだろうと思いながら、外に出た。
相変わらず綺麗だ。
「おや、まぁ、妃雪様の御付きのものかな?久しいねえ、こんなに真近で見れるなんて。」
妖怪だろうか、お婆さんの見た目だ。
優しそうにしわしわの目尻を下げる。
「妃雪様の体調はどうですか?」
ニコニコと笑いながら言うそのお婆さんは見ているだけで安らいだ。
「はい、少しお疲れのようですが、大丈夫だと思います。」
「あら、そう、ならよかったわ。」
そういい、失礼しましたね、とお婆さんは去って行った。
「彩奈?」
後ろから名前を呼ばれる。
良だ。
「これから儀式始めるからおいで。」
真剣な顔でそう言われる。
あまり人のいない、多分いるのは雪妃ちゃんの御付きの人だろう。
1人だけ知らない人がいる。
後で名前を聞こうか。
「これから儀式を始める。」
咲紀くんが言うと、カーテンの中から雪妃ちゃんが出てきた。
さっき泣いていた雪妃ちゃんとは思えないくらい、凛々しい。
一歩前に出て、私の前へくると、大きく息を吸った。
その途端、私の意識は飛んだ。
夢を見た。
とても残酷な。
目の前で大切な人を失う夢。
知らない人なのに大切な気がしてならない。
誰だろう。
そう思いながら。
だけど、この風景みた事がある。
ついさっきまで観ていたような。
「ん・・・」
「彩奈!」
良が私の目の前にいた。
「良?」
「よかった。無事終わったよ。太腿をみてみな。」
言われるがままに太腿を見る。
そこには宝石のようなものがついていた。
「普通の人間には見えないから大丈夫だよ。」
そして、「もう少し寝てた方いいよ。」と良は言った。
「うん、雪妃ちゃんは?」
「妃雪さんも休んでる。かなり体力消耗したからな。」
「そっか、ねえ、良。さっきね、夢を見たの。目の前で大切な人が死んでしまうの。
でもそれが誰だかわからないの。」
「っ・・・」
良は眉間に皺を寄せ、私から目を逸らした。
「今はそんなことより、ゆっくり寝ろ。明日まだやることがあるからね。」
元の笑顔に戻り言った。
「うん。」
知らないもの⑨