ーーと彼

初まりの中の破滅


自分はどうやら人に認知されないタイプということに気づいたのはまだ中1の時だ。クラスメイトにも先生にも顔を覚えてもらえない。名前など意味の成さないただの言葉の羅列だった。そして、自分に似た人を見つけると、嬉しいような悲しいような不思議な感情を持つのだった。

「ーーいこう。」

否、自分を呼ぶ声がする。確か次の授業は理科だったか。教室ではなく、理科室でやるようだ。
中2になった今、自分を認知することのできる人間に出会った。個人的には奇跡に近いようなものだった。

「ーー。どうしたの?次理科だってば。移動しないと間に合わないよ?」

彼は無邪気な笑顔で笑いかけてくる。彼はいつでも笑顔だ。それに対してなんと自分はカンジョウがないのだろう、と思ったりするこ
とがある。無表情。冷酷。残虐。
自分に対する言葉はそれだけでそれだけですべてを語り尽くしていた。

彼は人気者だ。そう言ってしまえば聞こえはいいだろう。しかし彼も自分と同じような性質を持っていた。

「人から見られる」

人から見られるぐらいならいいじゃないか。自分も最初はそう思った。しかし行動するにつれ彼の性質の本質がみえてきた。彼は見られすぎるのだ。どんな場所でも時間でも否応なく見られてしまう。彼は一度だけこう漏らしたことがある。

「見られている。いつでも監視下にあるんだよ。僕は。社会という、人間という名のモノにね」

いつも明るい雰囲気を出している彼には珍しい自嘲だった。


お互い対になるもの同士でいることはまわりからみるととても異様な光景でもあった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

それは突然巡ってきた。
ヤツが現れはじめたのだ。
ヤツとは「特殊心理現象発生関連生物0501」という名の特殊イキモノ。50年ほど前に一度大掛かりな駆除が決行され、すっかり成りを潜めていた。

「どうして0501が!もう消えたんじゃ!?」

報告書を読み珍しく怒っている彼は苦々しげに呟いた。

「学校になんか入られたらひとたまりもないよ。学校は集団行動の頂点にも立つところだ。もし一人でも感染した状態だったら。ヤツら特有の伝播であっという間にみんなパーさ。」

彼と自分は「特殊能力特別任務機関」というものに入っている。任務というよりこのようなヒューマンウイルスの駆除を任される。

ヒューマンウイルスとは人間の間のみで感染する病気みたいなものでかかると心理状態が酷くなり元の性格を取り戻すのに10年以上かかる、と言われているものもあるものだ。

ああ。今回のも難しそうだ。前回は確か0901型だったか。装備の支給がそろそろくるだろう。いつでも自分はこんな感じだ。たまには彼のように.......。いや、やっぱ遠慮しておこう。

そうこうしていると、彼は早速作戦の計画を練っていた。

「うーん。ココをこうしたら、ココに隙間がなー。北を好むウイルスだったけ。じゃあココに重点的に配備するかなー。」

計画を練ったら陣を張らなければならない。それで、ウイルスの侵入を防ぐのだ。

「ねー、ーーはどう思う?」

彼がいきなり振ってきた。まあこの学校の管理を任されているのは自分と彼なので当然のことだが。

「北が外せないのは、当たり前だな。あと玄関や入り口から侵入するらしい。絶対に窓などからは侵入しない。」

「へぇー。やっぱーーは物知りだね。」

「50年ほど前の大掛かりな駆除に関する書籍を読んだことがある。」

うーん。書籍ってくる時点でなんか違うんだよなー.....。

みればうんうん唸りながら計画を練り直している。

しばらくして、できた!と急にこちらを向いてきたので少々焦った。自分は彼から計画表を受け取ると目を通した。

「いいんじゃないか?」

そう思う!?やっぱ頑張ったかいがあったよー、とニコニコしながこちらを見てくる。きっとこういうところも後押しして彼の能力をさらに強くしているに違いない。


何も起きないまま一週間が過ぎ、「もう大丈夫だろう」と気が緩んできたところにヤツらは不意打ちで現れた。


響き渡る悲鳴。
止まないサイレン。
その場に座り込み泣き出す女子生徒。
笑顔で自分の腕をカッターでさしながら近づいてくる男子生徒。
再び悲鳴。
止まったサイレン。
逃げようとする生徒たちに無惨にも襲いかかるウイルス。
職務を忘れ一目散に逃げ出そうとする教師。

みんなが我を忘れていた。
そして止まらないウイルスの猛威。


「なんてことだ......。」

彼はその光景をみて呟いた。

「陣は完璧に張ったはずだ!なのにどうして......!」

パニックを起こしかけている彼に話しかけた。

「落ち着くんだ。これは仕方がないことだった。これは0501なんかじゃない。この様子からすると『特別発生障害特有生態生物0803-3』だ。危険度ランク最高指定。我々なんかの手に負えるものではない。」

彼は目を見開いた。

「そんなものがなぜここに.....?!」

「同感だ。とりあえず機関の特別駆除隊を呼ぶしかない。」


駆除隊は30分ほどで学校へとやってきた。

もう誰が誰だか分からないような人が運びだされていく。まだ意識のはっきりしている者でもウイルスに罹っていない者は一人もいなかった。


「.............。確認された限りでは..誰かがウイルスを持ち込んだ形跡が...ありました....。」

ボソボソと喋っているのは機関の調査員だ。クセなのかやたらと間が多い。

「.........。この学校は無期限の封鎖が決定されると思われます......。」


言われなくとも分かっていたが言われるとやはりキツかったのか彼が肩を落としている。

「........おい。」

みるに見兼ねて声をかけてみた。
しかし返事は帰ってこない。

「返事をしろよ」

間があいて彼から返事が返ってきた。

「...........。ーーはどうしてそうやって他人事みたいな態度がとれるの?クラスメイトだって何人ああなったか分からないのに。もしかしたら全校で無傷なのは僕らだけかもしれないのに!どうしてどうして.......。」

彼はそのまま地面に崩れて嗚咽を漏らしはじめた。

ああ。こういう時はどうすればいいのか。他の知識は大量にあるのにこんな時に役立つ言葉の一つも思いつけないなんてただのキカイじゃないか。そうだキカイだ人間の形をした感情さえも持たないキカイ。


ああ。もういっそのことすべてきえてしまえばいいのに。

セカイはなんて簡単なのだろう。
すぐにほどけてしまいそうなほど。



喧騒と悲哀のなか見上げた空は自分が知らない色をしていてこぼれ落ちた水に反射していた。

ーーと彼 「反転」


僕はあのときの記憶が曖昧だ。彼はハッキリと覚えているみたいだが、聞く気にもなれなかった。後から知ったことだが、僕は半壊した校舎を見ながら彼になんか言っていたらしい。そしてその後力尽きるように気絶。彼はその後空を見上げながら泣いていたらしい。しかし自分でもなんて彼に言ったのか覚えていないため泣いていた原因は未だ謎に包まれている。

結局学校は無期限の閉鎖に追い込まれ、僕らは隣町の中学に編入することになった。まあ仕方ないけど。

「........おい。またお前鶴折ってんのか」

え?と僕。確かに僕は今お昼調達のために行ったコンビニのレシートで鶴を折っている真っ最中。

「何か問題がある?」

「いや、別に。にしても毎回毎回鶴折ってんよな、お前」

そーかなー?といいつつ最後の仕上げに取り掛かる僕。

「お前っ....本当不器用だな」

「それは悪ーございました!」

今僕の前には羽の長さも左右で違う、シッポがやけに長い鶴が鎮座していた。

彼はその様子を見ていたがやがて自分もレシートで鶴を折り始めた。

「こんな感じか......?」

コトッと机に置かれた鶴は羽は左右対称、首がほんの少しの高めの完璧に計算されたものだった。

「なっ......!」

ゴメンよ僕の鶴。心の底から謝ります。

しゅんとしていると授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。

僕はクルッと前を向き授業の準備を始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

僕らはまとめて同じクラスに入れられた。2人だけだったし、そっちの方が好都合なのだろう。

入った日から僕たちは好奇心とほんの少しの敵対心の視線を容赦無く浴びた。

そろそろ一週間が立つ。だいぶみんなの視線が柔らかくなったと思う。

って思うのは僕だけか.......。

あの日以来彼は前に比べてだいぶん話すようになった。

表情はまだ乏しいが、無表情だったあの頃よりマシだ。

責任という重圧から解放され僕たちはのびのびと過ごしていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

当たり前だった、日常はいとも簡単に崩れていく。そう知っていたのに

ーーーーーーーーーーーーーーー

ある日、彼は機関から呼び出しを受けた。しかしバディを組んでいる僕はこなくていいとのことだった。

呼び出しから帰ってきた彼は何とも言えない表情で話し始めた。

「........機関の中に情報適切部っていうのがあるの知ってるか....?そこに研修生という形できてみないかと誘いを受けた。」

当然のことだった。他のメンバーたちに比べ知能も能力もトップを行く彼だ。こうなることは予想の内だった。

「よ、よかったなぁ!中学のうちから入れるなんてさー」

無理なことだった。今の自分に素直に相手を褒めるということは。

それ以上何も言えなくなり教室から飛び出した。

トボトボと無人の廊下を歩く。
今は放課後。ほとんどの生徒が部活動に勤しんでる時間帯だ。

僕は考える。

いつもこうだ。近くなったと思ったら離れていく。

今まで当たり前だった光景が当たり前ではなくなる。

知っていたはずなのに。

なぜ?

自分の内側にある自分は問いかけてくる。

ナゼ?

知らない........僕は......いつものことじゃないか....なんで今更.....!

僕は頭を抱えた。

ソレハココガオオキナブンキテンダカラだヨ?

目の前のもう一人の僕はカタコトでしゃべりながらも近づいてくる。

やめろ!やめてくれ!

キミガいなくなればアノコもマヨワズにスンダンダヨ?

ああぁ...ぁああああああああああ!

声にならない叫びは自分の中でこだまして消えていった。

そして僕は倒れた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「......っ!おいっ!」

うっすらと目を開ける。そこには彼がいた。

「ココはどこ?」

「どこって学校だよ!お前が廊下で倒れているのが見つかってちょっとした騒ぎになったんだぞ!」

「そうか........」

こうして改まってみると次々に蘇る記憶。もう一人の自分との対峙。

いつも以上におかしい僕に気を使ったのか、彼はそれ以上しゃべらなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

おかしい。今日の彼はいつも以上におかしかったな。あの日以来だ。
そう考えながら自分は帰っていた。こういう時の言葉のかけかたが分からない。少しはあの日から成長したかと思ったが。どうせ変わりはしないのだ。キカイはキカイのまま。感情をもたずに成長する。

それでも少しぐらいなら笑えるようにはなったと思う。

あの日みたあの空。
自分としての意思を持って以来初めて泣いた。
けど、認めたくはなかった。
きっと自分は一時の情に流されているだけだと。
そう信じたかった。

だけど現実。
変わるわけがなかった。

そう割り切った途端、なぜか無性に寂しくなった。悲しくなった。孤独を感じるようになった。

原因は自分でも分からない。
自分が持っている情報を総動員してさえも分からなかった。

なぜなのか

..........なぜなのか

ーーと彼 「回転」


光輝くタブレット型端末に私はツーと指を滑らせた。キーボードを出現させると現在の状況をできる限り簡単にして打ち込んでいた。今や手軽なソーシャルメディアとして有名なTwitterだ。少し間があくとメールがきた。Twitterをやっているのになぜか連絡はメールで寄越してくる不思議なやつ。
アプリを閉じメールBOXへと移動。メールを開くとそっけなく仕事の内容が書かれていた。

私、伊藤 空穂はとある機関に所属している。そして私は今仕事の真っ最中。私に課せられた仕事は2人を見張ること。学校にはさすがに大の大人は入り込めないため私が監視を代わりに行っていた。

え?なんで私は名前を最初から出してんのにあの二人はぜんぜん出てこないって?説明したいのは山々なんだけど、機密に差し障るためゴカンベンください。あえて言うと、「存在するはずのない“存在”」だからかな?

「二人。行動。パターン。掴め。」

で、これが今回送られてきた内容。二人の行動パターンを掴めぐらい、ふつーにうてばいいのに。
ま、仕事には関係ないか。

実はなぜあの二人を監視しなければならないのかイマイチ分かっていない。とりあえず言われるままって感じかな?

にしても監視対象に名前がないなんてかなり監視しづらいな......

一応仮の名前はあるみたいだけど。

ーーーーーーーーーーーーーーー

そんなことを考えているうちに午後一番の授業がはじまった。

英語か........ふぁ...眠いなぁ

チラッと二人の方を向く。

ーーはかなり涼しげな感じだ。比べて、彼はかなり切羽詰まっている。

あり?ーーと彼だけじゃ読者さんに伝わらないか.......

ま、そこはガンバってくださいませ。



ーーは窓の外を見たまま帰ってこない。

一方彼はよほどついていけてないのか先生と教科書を必死に見比べている。

あまりにも温度差があるのでクスクス笑っていると目つきが鋭くなった先生に当てられた。

センセイそんな顔してたら将来シミとシワだらけになりますよー。

内心茶化しながら答える。

「can。 助動詞です。」

はい、よくできました。と悔しそうな先生の声。

先生私に勝とうなんて100年早いですよ?ま、その頃にはあなたいませんけどね。


チャイムが鳴り響き、やっとのことで授業が終わる。私は二人にすばやく目をやった。ーーは疲れ果てている彼を慰めている真っ最中。その光景はどこか親密さを含んでいてそこだけ異空間のような気がした。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「最近見られてるって思わないか?」

そう彼が切り出してきたのは、放課後。この教室には二人しかいない。いつも少し駄弁って帰るのが通例となっている。

「そうか?」

特に表情を変えずに答える。いつも好奇心の視線をあび続けているため、もう感覚が麻痺している。

「いや、好奇心云々のレベルじゃなくてさー。ほら、あの監視するような..........」

確かにそう思えばそうのような気がして気が気ではなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

僕は知っていた。あの視線の主を
。向こうは知らないかも知れないけど。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「ーー?まだー?」

「はーいお母さん!今いくよぉ!」

まだ小学校1、2年生のとき僕は夏休みを利用して家族で祖父母の家へと遊びにいった。

都会の中心部に住んでいた僕ら家族にとって、田舎の祖父母の家に遊びに行くのは毎年の恒例行事だった。

ある日、僕は3つ年上の姉と一緒に昆虫採集に出かけていた。次々にカブトムシやクワガタなど、王道的な昆虫を次々捕まえていった。

もっといいものを!という思いを胸に抱き、森の奥へ奥へと進んでいるときだった。

「.........っ!離してっ!」

女の子の声が聞こえた。びっくりしてあたりを見回すと、大きな男の人の囲まれている女の子が見えた。

「おとなしくしろと言ってるだろうが!」

男の人は急に怒鳴りつけると暴れる女の子を担ぎ上げどこかへと連れていった。

そのとき、一瞬合ってしまった視線。虚ろなあの視線を僕はずっと忘れることができなかった。

今の中学校に編入してきて初めて空穂という女の子と目があったとき僕は記憶の海の奥深くに眠っていたあの日のことをまざまざと思い出した。あの視線も。間違いないと思った。あの夏連れていかれた女の子に。

結局のところ僕にそんなことを面と向かって聞く勇気はなく、なんとなく保留になっている。

ーーと彼 「過去」

はあ。私はため息を漏らす。いつもなら絶対に吐かない弱音もこぼれそうになる。こうなった原因は分かってる。昔を思い出したからだ。過去、古、往来。今でこそ明るく振舞っているが昔は私もーーと対して違いがなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

ウーンウーン ウーンウーン

真冬の夜中に鳴り響いた、サイレンは村のみんなを驚かせた。それもそのはず、このサイレンは山火事があった場合のみに使用されるとても大事なサイレン。もし、本当ならば避難所へと逃げなければならない。

この村は八方すべてを山に囲まれていた。もしそこのどこかで火事があったら木から木へと燃え移っていく。昔にも同じようなことがあり、住民はみんな過敏になってうた。


当時小学校2年生だった私はこと時のことをはっきり覚えている。

「ねえ?お母さん?かじなの?」

「ちょっと待ってね空穂。お母さんたち確認してくるから。お兄ちゃんと一緒にいるのよ」

「うん、わかった!空穂待ってる!」

「いいこね。それじゃ行ってくるね」

これがお母さんたとかわした最後の言葉。結局火事は放火。無人になった家に盗みに入るのが目的だったらしい。おかげで、関係のない人たちまで殺された。バッタリと犯罪グループに会ってしまった人とか。

私たち兄弟も親を亡くした子供として扱われた。かわいそうに、まだ下の子なんかあんなに小さいのに.........。

哀れな視線を送ってくる人たち。
みんながみんな私たちに心配という名の自己満足。

いい加減イライラしていた。
そのせいもあったと思う。

「ねえ、そこのお嬢ちゃん」

ありきたりな誘い文句で話しかけてきた人。何も考えずについていった私。

平たく言うと誘拐された。
でも、おかげで大学まではすべて保証してくれることになった。

"機関"に入る変わりに

ーーーーーーーーーーーーーーー

はっきり言って自分がなぜ機関に入ったのか覚えていない。どうやらすごいショックなことがあって他の記憶もろとも吹き飛んだらしい。

唯一覚えているのはとにかく赤、あたり一面が真っ赤なところだけ。

そして自分には親がいない。
正確にはそう教えられてきた。

空穂という少女をみたとき、何かが引っかかった。なぜかは分からなかったが。

このねじ曲がった性格も消えてしまった記憶のせいなのかまったく見当がつかなかった。

「お前が気にすることじゃない。」

一度気になって聞いてみたことがある。返ってきたのは冷たい返事。予想内だったので反発はしなかった。

ときどき、みる夢。
赤い背景の中、少女がわらっている。
必死にその子に手を伸ばす僕。
届かない。
とどかない。
赤い色が濃くなってきて、ほとんど少女は見えない。
それでも、届くと信じ、手を伸ばす。

ああ、また届かない
嗚呼、また伝わらない
アア、また消え去っていく

いつも通りに。

ーーと彼 「逆襲」

どーも人間のみなさんコンニチハ。泣く子も黙るヒューマンウイルス「0501」です。前回とある学校を標的にさだめ、襲撃したけど、あえなく失敗。人間どもの反撃を受け、たくさんいた仲間も今は4分の1まで減ってしまいました。グスグス。
さあ、また俺らに新たな指令が下されました。
「特定のターゲットの感染」
俺らは不特定多数をバッーと感染させることもできるし、一人に狙いをさだめて、感染させることもできるのです。うん、俺万能!もう「逆襲の0501」的なゲーム発売されないかな?もう大ヒット間違いなしなのに。

さあて、ちょっとくらターゲットの通っている、学校にでも行ってみますかね。

ーーーーーーーーーーーーーーー

僕たちのクラスは賑やかなほうだ。男子はいつもふざけてたりするけど、みんな笑顔だからそれはそれでいいことにしよう。女子もみんな好き嫌いなく談笑したりしていることをみると、やっぱりいいクラスだなと思う。

彼も案外このクラスは嫌いではないようだ。

ぼすっ!

「ギャー、制服が真っ白ー!」

「はははははははっ!」

ちなみに彼らが今やっていることは、ドアに黒板消しを挟んでおいて、ドアを開けたらそれが落下してくるという昔ながら?のイタズラだ。

僕は笑いながら後ろを振り返った。

「ねえ、今の見た?めっちゃおもし........。ーー?どうしたの?」

イタズラの感想を言おうとしたが、途中で止まってしまった。

彼が震えている。
顔を真っ青して震えているのだ。
「あぁ........ああぁ......」
と、時折うめき声も発しており緊急事態だと言うことは一目で分かった。僕は震える彼の背中をさすりながら、クラスに叫んだ。

「なんかーーが具合悪そうだから、保健室連れてくわ!」

みんなびっくりしている。それでも誰も保健室行きを止めなかったので、僕は彼と共に歩きだした。

ーーーーーーーーーーーーーーー

ああー、あいつかなあ?えーと.....うん、間違いない。にしてもうるさいクラスだな。教室の前方では黒板消し落として遊んでるし、女子は談笑に夢中だし。イライラしてくる。はやく仕事終わらせて帰ろう。

俺はとある学校の教室の上の方を浮遊していた。ターゲットを見つけ出すためだ。思いのほか早く見つかり、よかったと安堵したばっかりだった。

そして早速仕事に取り掛かる。

ターゲットの近くまで急降下すると、口を目指して超特急。あいた隙を狙ってウイルスよ行ってこーい!とばかりにウイルスを撒き散らす。

1分もたたないうちにヤツに変化が現れはじめた。

「..................頭いてー」

よしよし、効いてきたかー?やっぱ即効性のあるやつ使ってよかったな。よし、そろそろ帰るか!にしてもあの顔どっかで会ったことがあるんだよなー?どこだっけ?.........。

思い出したぁ!あの日俺らの半分以上が消え去ってしまったあの事件の学校の陣張ってたりしてたヤツらだ........!こんなところでノコノコと生きてやがる!クッソ!俺は怒ったぞ.......!

許さない。
仲間の分まで。
許さない。
あんなにして!
許さない。
許さない。
許さない。



小さく呟くと俺はもう一度急降下し、ヤツらに近づいてあっりたけのウイルスをプレゼントした。

ーーと彼 「垂直」

「はあはあ」

僕は疲れ始めていた。いくら男子とはいえ同じぐらいの体格の男子を背負い保健室まで連れて行くのは、結構な重労働だ。もう息がきれ始めている。

「ーー?大丈夫?」

「...............」

返事はない。意識はあるようだが、朦朧としている。はやく連れて行かなければ。僕は自然と歩くスピードをあげた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

彼らが保健室へと行った。私はその姿を後ろから眺めていた。崩れ落ちそうなーーを必死に支えながら歩いている。この様子だと保健室へと行くのはかなりキツイはずだ。

騒がしかった教室はいつのまにか静かになっており、みんながみんな二人の行動に注目していた。

「なぁ、手伝いに行った方がいいのかなぁー?」

誰かが声をあげた。それにつられみんな行った方がいいと言っている。

私は負けじと声をはりあげた。

「でも、たくさん一気に行って邪魔とかなったら、それこそ迷惑じゃない?ここは代表が何人かいくとかした方がいいと思うよ?」

行こう行こうと騒がしかった教室が急にシーンとなった。

「確かにそうだな」

誰かがつぶやいた。みんな賛成の意を示してかコクコクと頷いていた。

結局、私と学級委員が行くことになった。二人の後を必死に追いかける。追いついた頃には二人ともグッタリだった。そんな二人を支えて私たちは保健室へと到着した。

手短に事情を話すと、私と学級委員は廊下に放り出された。もう教室に帰っていいらしい。私は後ろ髪を引かれながらも保健室をあとにした。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「さあて、どうするっかね」

養護教諭の私「神空 緑」の前には二人の男子生徒が座っていた。一人は意識を朦朧とさせ、もう一人はグッタリとしている。と、急にグッタリしてる方が顔をあげた。

「せ、先生....急にすみません...」

「いいや、大丈夫なんだけど....どうしたの?」

「僕が後ろを振り返り話しかけようとしたら、すごい顔色が悪くて....話しかけてもほとんど反応しなくて...」

「それでとりあえず保健室にきたわけね。」

「......ハイ」

「じゃ、とりあえず寝かせましょうか、そっちの方を.......?」

私は彼に触れた。体が異様なほどに冷たい。それに、目の焦点はあっていない。私は脳内の知識の箱をひっくり返していた。

「もしかして......」

保健室にある「ヒューマンウイルス大百科」という名の辞典をめくった。

「これだ......!」

『特別発生障害特有生態生物0803-3』危険度ランクは一番高く、罹ってしまったらもう一生の終わりとも噂されるウイルスだ。

どうしてっ、こんな危険なウイルスが?私の中は疑問で埋めつくされていた。

ばたっ!

急にーーが倒れた。それをみた彼も倒れる。私はとりあえず二人をベットへ寝かした。

「ど、どうすればいいの?」

と、その時保健室のドアが開いた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

私は保健室のドアを開けた。中には緑先生がいるはずだ。事情を話して機関に回収してもらおう。

「っ?空穂さん?ど、どうしたの?」

「緑先生。彼らは今どこに?」

「えっ?そこのベットに.....。それより、空穂さん今保健室はちょっち立ち入り禁止なの。ごめんな...」

「ウイルスに感染してる、可能性大。しかも、危険度ランクMAX。知り合いに、ウイルスの治療を専門にしてる人がいるよ?紹介しようか?」

「おっ、お願いします」

「じゃ、電話借りるねー」

空穂は、電話を凄まじい勢いで使い始めた。内心、ホッとしつつも私は焦っていた。

このまま、空穂さんに頼っていいのだろうか?それにウイルス専門にしてるお医者さんなんか聞いたことない...。

「緑先生?きてくださるそうです!あと、10分ぐらいで」

「.....そう」

私はもう諦めていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「.......やけに遅かったな。お前にしては珍しいな、0803-3。」

「もう、0803-3なんて言わないでくださいよー。せめて0501でお願いしますよー!」

「まあ、いい。ところで感染させることはできたか?」

「ああ、それはもうバッチリとさっ!」

「そうか。なら上がってよい。」

「ほいほーい」

俺は二人を感染させたあと機関に帰還していた。そして、今報告を一通り済ませたところだ。
ちなみに俺たちのように名前の番号をカモフラージュ用に二つもっているウイルスは少なくない。俺たちに場合は正式には0803-3だが、カモフラージュは0501だ。俺は0501の方が気に入っている。



そして思い出す、あの二人のこと。

さあ、今頃どうなっているのやら?

俺はその様子を想像し、けたたましく嗤った。

ーーと彼 「平行」


その後、空穂さんが呼んだお医者さんが到着し、彼らは運ばれていった。
でも、何でその言葉を言ったのか、今でもわからない。

「あの!私もつれてってください!」

はあ?という風に見つめられ私は少し焦った。

「まぁ、いいよ」

「あ、ありがとうございます!」

「はやく」

「はい!」

その後そのウイルスのお医者さんの車に乗り込み私達は病院へと向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーー
その後私達は無事に病院へ到着した。

「............私立仁別病院。」

「どうしたの?」

「ここってウイルス専門の科ってあったけ?」

「ふふふ」

空穂さんは笑い返してきた。本当にこの子は訳が分からない。

「こちらへどうぞ。」

みると、銀色の髪に銀のフレームのメガネ、そして真っ黒の執事のような服を着た男の人が立っていた。まるでアニメから抜け出してみたみたいだ。

「あぁ、どうも」

「じゃあ、先生。私はこれで」

「あ、うん。気をつけてね。」

「はーい」

空穂さんが帰り私がボッーと待っていると、急に部屋が暗くなった。

ガチャ

「!」

いきなり、響いた音にびっくりし、顔をあげるとちょうど私を囲むように男の人たちが立っている。
その手には拳銃が握られている。

「な.....なに?」

「ここはどこか分かっていっってるのかな?お嬢さん。」

気がつくとドンドン壁に追い込まれていた。

「あれー?もうおしまい?つまんないなー」

ガチャと一人の男が私の前に銃を向ける。

「ひっ!」

もうおしまいだ。ああ、さようなら、みなさん。できることならもっと素敵な最期を迎えたかったなー。

「なかなか素晴らしい演技ですね」

急に割り込んだ声の方を向くとさっきの銀縁のメガネをかけた男の人が立っている。

「まだ、演ってるのですか?」

私はちっと小さく舌打ちすると銀縁のメガネ、桜宮 涼の方へと向き直った。まわりで銃を構えていたやつらはポカンと口をあけている。

「仕方ないじゃない。帰ってきた早々こんな茶番にまきこまれたらさー」

「でも、付き合ってくださったじゃないですか」

「ふふふ、まあそうね。ところであの二人は?」

「一命はとりとめましたよ」

ほっと息をはく。

「こら、あなたたちも挨拶を。こちらにいらっしゃるのは機関長ですよ?」

へ?という間の抜けた返事のあとシュバッと敬礼をかます。

「も、申し訳ございません!そのような方とは存じ上げておりませんでしたので............」

予想どうりの反応だったので、あえて無視した。無視されておどおどしていたが、自業自得だ。ざまあみろ。

私は涼の方を向くと着ていた白衣を投げた。涼はぽすっと華麗に受け取るとどこかへ去っていった。きっとクリーニングにでも出すのだろう。

私はエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。

うぃぃぃぃいいん

モーター音が聞こえなくなると目の前で扉が開く。

降りて少し進むと暗証番号を求められた。私は少し考え番号を打ち込む。あっていたらしくギィイイ!と不愉快な音を立てながら扉が開いた。
私は中へ入るとまっすぐ進みロッカールームへと向かった。

ガチャ

扉を開けると所狭しと服がかけてある。私はその中からくたびれた黒い白衣を手に取る。黒いけど形は白衣。割と気に入っている。

ロッカールームを出てさらに奥にある、機関長室を目指す。私の真の職場でもあり、自宅でもある。

扉を開けるとそこには先客がいた。

「.........涼」

「お久しぶりでございます。緑様。最近こちらに帰ってきませんでしたので、心配しておりましたよ?難しい時もあるかと思いますがきちんとこちらへ帰ってきてください。」

私は涼の言葉を聞きながら中央にある机に椅子に腰掛けた。

室内を見渡すとすべて黒で統一されている。後ろを振り返れば全面ガラスなので景色を見ることぐらいはできるが、ここにいるのは大抵夜なのであまり意味がない。

「で?どうなの?実験は」

実験とはヒューマンウイルスに関するちょっとしたものだ。ヒューマンウイルスと聞けば誰でも顔をしかめるが、ここではナチュラルな単語だ。臆することなく口にだす。

「だいぶ結果がでてきております。個体No.39はもうじき実験の全行程を終了します。他の個体はまだ何とも言えませんが。」

「そう。ところで、あの二人を感染させたのあなたでしょう?保健室にきた時はびっくりしたけど。」

「はい、いかがでした?なかなかの強度で。科学者どもが泣いて驚いておりましたよ」

「たくっ..........。考えてやってよね。」

「はい、かしこまりまりました」

彼はそう言うと部屋から去っていった。

ーーと彼 「ねじれ」


私は一人部屋に残された。
人生とは妙なものだ。
大火事にまきこまれたと思ったら、いきなり謎の組織のトップだ。
最初こそ戸惑ったもののやっと慣れ始めた。

今勤めている学校は我が組織が作りあげた実験用の学校。公立となっているが政府が一枚かんでいる。

さて、種明かしでもするか。

私は内線を使って空穂を呼び出した。本来彼女のような人間は立ちはいることのできない場所。

5分もしないうちに部屋に現れた。
私をみて息をのむ声が聞こえる。

「緑先生......?でもここは........?」

「空穂さんいらっしゃい。私は神空 緑。学校の保険医と機関の機関長。よろしくね」

彼女はひどく驚いている。
まあ、当たり前か。
今まで保険医として接してきた先生が自分の属する機関のトップだったなんて。誰が思うだろう。

私は本題に入る。

「で、お願いがあるんだけど。今、空穂さんあの二人を監視してるでしょ?期間は今週いっぱいだったけど、延長して欲しいの。できるわよね?もちろんあなたたちの秘密は守るわよ?」

「............分かりました。続けさせていただきます。」

「頼むわよ。」

「はい。」

彼女にそれだけ告げると帰らせた。もうこれ以上ここにいるのはまずいだろう。

私は机に向き、パソコンを立ち上げた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

私はびっくりしていた。だってあの緑先生が。まさか。ありえない.....。

驚きながら、自室へと帰っていくと、途中で呼び止められた。

「空穂さん。」

みると涼さんが立っている。いつの間に現れたんだ。一体。

「なんでしょう?」

「しっかりお願いしますよ?まああなたに選択権はありませんが」

「そのぐらい分かってます」

「では、どうぞ自室へ」

私は部屋へと歩き出す。機関には、寮が備わっていて常時50人近くが生活している。

自分の部屋に帰り窓を開ける。いつのまにか夜になっており、心地よい風が吹き込んできた。

「ーー..............。」

私は名前をつぶやく。聞こえるはずのないつぶやきは夜空へと吸い込まれ消えていくはずだった。はずだった。

「なんだ?」

「えっ!ちょっとなんでいるのよ!あなたウイルスは?元気なの?」

そこには私がつぶやいた名前の主が立っている。

「やっぱお前も機関所属だったんだな。まああやしいとは思っていたが」

「そっ、そうよ!なんか悪い?」

「いや。別に」

私はかなりあせっていた。

私は彼のことが好きである。
もう気づいたらこうなっていた。
今の学校で任務をこなしながら隣の学校の彼のことをずっと気にしていた。
止まれなくなっていた。
全部全部わからない。
もう全部知らない。
どこで知り合ったとかそういうのはまったくなく
気づいたら。

気づいたら。

さあ、この感情をどうしようか?

ーーと彼

ーーと彼

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 初まりの中の破滅
  2. ーーと彼 「反転」
  3. ーーと彼 「回転」
  4. ーーと彼 「過去」
  5. ーーと彼 「逆襲」
  6. ーーと彼 「垂直」
  7. ーーと彼 「平行」
  8. ーーと彼 「ねじれ」