ボクと幸せになりませんか
DK 学パロ 生徒×教師
誰もいなくなった教室で、一人小テストの採点をする。
教室に差し込む夕陽とか、綺麗に整頓された机の列、外では運動部の生徒たちの掛け声。
シンとした室内にペンを走らせる音だけが、静かに響く。
いつもはお喋りと笑顔で溢れてる教室も、今はすっかり大人しくなってまた明日の喧騒を心待ちにしているようだ。
ただ、自分はこんな空間は嫌いじゃない。
一休みして、また、明日。
生徒たちの笑い声で溢れるのを待つ静かな教室。
これを切り上げたら、サッカー部の方へ顔を出さないと。なんて考えながら慣れた手は次々と解答用紙を捌いていく。
紙面に連なった名前が自然とその子の顔に結びつく。
「お...満点なんは...寺地か。やりよんなぁ。」
いつも自分の授業を熱心に聞いてる彼の顔を思い出す。本人は気づいてないだろうが、
昼休み後の授業では上手に居眠りしてるのも分かってる。
いつもすました顔の彼がぼんやりしているのは、年相応で可愛らしい。
「あー...赤点やん。誰や?」
解答用紙の8割を白紙で提出してるのは
「西村君かぁ...まいったなぁ。」
無口で大人しい窓際の彼は、昼寝の常習犯で補習の常連。
サボリは日常茶飯事なのに定期テスト前になると職員室に助けを求めてくるからついつい構ってしまう。
「せんせぇ、ごめんー。次はちゃんとするから~。」の言葉に何度騙されただろう。
一抹の虚しさを感じながら次の解答用紙に手を伸ばすと、外から声をかけられた。
「せーんせ。」
そのよく知った声に顔をあげると、逆光の中でもハッキリ分かるくらいの笑顔で窓から乗り出して手招きをしていた。
「安東やないか、どないした?」
招かれるままに、教卓から窓へと歩み寄る。
部活の休憩中なのか、剣道着に身を包んだ姿はいつもの学ラン姿よりずっと大人びて見える。
にこにこと人懐っこい笑みを浮かべて早く、早くと急かす。
「なに?」
「はい、これ。」
よっぽど強い力で握りしめていたのか、白い折り跡の付いたクリアファイルを差し出された。
「え、提出物?」
急ぎの課題か何かあったのだろうかと記憶も振り返っても思い出せない。
「そんなんちゃうわ。ええから、先生、早よ中身見てや。」
急かされるままにクリアファイルの中を取り出すと...
「なにこれ。」
「婚姻届。」
「は、誰の?」
「俺と、せんせの。俺んところはもう書いてるから、あとはせんせの所だけな。」
手元のうっすら茜色に染まった小豆色の紙と、満面の笑みの安東を見比べる。
夕陽に照らされたその顔が、キラキラ極彩色に輝いているのはきっとクリアファイルが反射するせいだ。
だから、自分お顔が熱くなったのもきっとクリアファイルの反射のせい。
プリズムみたいに光ってるせい。
安東は固まる俺の手をファイルから離すと、自分の口元へ。
薬指に感じる、一瞬の熱。
いたずらっ子みたいな笑顔と、真剣な大人の瞳。
ゆっくりと色を無くす空と反対にどんどん赤くなる俺の頬。
「せんせ、ボクと幸せになりませんか。」
反射的に頷きそうになったことと、一回り近くも年下の男に揺れたのは秘密。
「あほ...。」
喉から絞り出した声が震えてたのは、こいつがあんまり嬉しそうに笑ってるからだ。
ボクと幸せになりませんか