君と世界と。

私は神。世界創世の力を持つ、絶対の神。


朝…いや、昼?

窓から差し込んでくる光が、まぶしい。時計を見る。…11時?
なんとなくテレビをつける。お昼の情報番組がのんきな音声を放出していて、ちょっと顔をしかめる。この手の番組は苦手だ。
外から聞こえるクラクションにも、携帯電話の着信音にも、飽き飽きしていて、いらっ。この世界も、ずいぶん住みにくくなってきた。
…いやだなぁ…そろそろ、移ろうか…?最近どんどん飽きっぽくなってる。いやだなぁ…、私ったら。

もったいないけど、しょうがないよね?

あーあー、また一から作り直し。
でもまあ、案外楽しいからいいか。

でも、心残りも…ある。

そんな私の心を呼んだかのように、この家のチャイムが鳴る。
「おーいっ、マスター?」
「…朝から騒々しいな。」
私の名を知らない、黒髪の少年が玄関横の窓から顔をだす。身長は私よりずっと高い。別に特別な感情を抱いているわけではない…けど、それは…私に興味を持ったはじめての人。
彼は呪われた子。山奥にとらわれていた、嫌われ者。私が作り出してしまった世界の、犠牲者。
彼を失ってしまうのは、さびしいかもしれない。
マスター、は私の呼び名。私の名を彼に知らせたくても、無理。私には名前がないから。そして、彼の名前も知らない。そういう、あいまいな関係…。

「どうしたんですか?…ねぇねぇ…、マスター?」
「…キミは、もしも世界が滅ぶとしたらどうする?キミは必ず逃げる。そのとき…どうする?」
「…へ?…ううーん…?」
無邪気な表情で(彼は童顔なのだ)首をかしげて、考え込む。その答えで、決めよう。抽象的だから、意図は伝わらないはず。
「えー…それ、絶対逃げなきゃだめですか…?それに、マスターはどうするんですか?」
うん。そういうと思った。彼は、家族も友達もいないから…私しか心配する人がいない。そうだと思った。何に対しても真剣で、そういうところは嫌いじゃない。 うん。決めた。連れて行こう。無茶は承知だ。
「キミ、行こう。私は神だ。私と一緒に、新しい世界を作ろう。」
「…へ!?…何言ってんですか!?マスター!?」
きょとんとした表情は、本当に純粋で…何も理解できていない事を意味する。
「本当の事だ。この世界は私が作った!嘘だと思うのなら…そうだなそこを見ていろ、えいっ」
―――バキキキキィッ!
窓から見えるここから少し離れた地面が、音を立てて真っ二つに割れていく。
他愛もないことだけど、少年は驚きを隠せない表情で呆然とその光景を見つめていた。
「わかったか?」
「え…と、多分…。」
「信じてくれたか?キミは、私が作り出してしまった世界の被害者だ。私がこんな形の世界を作らなければ、キミは嫌われ者にならずにすんだ!…それを怒るなら、精一杯怒れ。」
私が、怒声を構えて目をつぶっているのを、少年はまたさっきよりも驚いた表情で目を見開いていた。
「マス…ター…?…怒らないですよ?」
「…は?」
私は、恐る恐る瞳を開ける。
「マスターが…ほんとに神様でも怒りませんよ?…だって、意図したことじゃないんでしょう?この世には、必ずいいことがあれば、悲しい事もあるものなんですよ?」
「…キミに、うれしい事はあったのか?」
「はいっ!」
少年は、やけにうれしそうに笑う。子犬みたいに、無防備で…素直な笑顔。

「マスターに会えたことですっ!」

「…!!」
この少年は、多分私よりも聡い。私が生み出したこの世界の住人に、私が超えられた?…でも、この少年の笑顔を見ていると、納得なきがした
。「じゃあ、なおさらだ。…一緒に行こう?」
「嫌です…。」
少年は、悲しそうな顔で、けれどなおも笑い続ける。
「…!?何でだ!?キミをもっと楽しい世界に連れて行く!約束する!」
「この世界が…いいです。」
譲ろうとしない。絶対に…。何で?もっといい世界のほうが…いいじゃん。
「こんな世界壊して、もっと楽しい世界に…!!」
「駄目ですっ!!」
彼は、もう泣き出していた。どうして?理解できない…理解できない…!一緒にいたい。キミも同じじゃないの!?何で…何でこの世界にとどまろうとする!?嫌な事をされたこともあったんじゃなかったのか…!?
「僕は…、この世界がいいです!この世界で、マスターに会えたんですよ!?このままここにいましょうよ」
「この世界が…そんなにも、いい?」
「ええ、だって綺麗じゃないですか。空も、森も、動物たちも、人の築いた文明も。」
「…ぁ…。」
私は改めて、窓の世界を見つめる。確かに、彼の言うとおり…輝いている?
…私は、何度も世界をやり直しすぎて、それに気づけていないだけ?
彼はきっと、ほかの世界を知らないからそういうことを言う。もっといい世界は、いくらでも作れるのに。


でも…彼が望むこの世界を、愛しているこの世界を…私も…愛せるかな?


私は、無言でうなずいた。しばらく見せていなかった微笑を見せて。



初めて、世界を…好きになれた。

君と世界と。

君と世界と。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-15

Copyrighted
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