メンヘル・ジャンキー

肉体関係だけの薄っぺらい元彼を、皆垣ミキヤは死ぬほど愛していた。

崩壊

「あたし、頭おかしいの。」
みんな、あたしがそう言うと逃げて行ってしまう。
あたしのことが好きだと言ってきた人も、オーバードーズ、リストカット、過食嘔吐なんかの癖を告白すると、まるで汚い物でもみるような酷い顔をして去って行く。
あまり公になっていないことも追加するとすれば、タバコや異常なまでの元彼依存、セックス依存だってある。
あたしはそういう人間だ。それを言うだけで壊れてしまう。
無理もないと思うけれど、仲のいい友達でもするりと逃げてしまうのには少し幻滅した。
所詮、そこまでの関係。
あたしはそう割り切って過ごすようになった。

あたしがこうなってしまったのは、いつからだっただろうか。
いつから、というほど昔のことではない。
最初のオーバードーズが始まったのは、3ヶ月前のことだ。
それは、あたしが恋人と別れたときのこと。恋人というのは語弊があるかもしれない。
彼はあたしを殆ど愛してはいなかったし、暇つぶしの性人形として遊ばれていて、いつか終わりがくることくらい自覚していた。
それでもあたしは、緑色のベースを弾く彼が大好きだった。
何をされても、どれだけ裏切られても。あたしを好きだと言ってくれる人が現れても、揺らぐことはなかった。
自分の執着心が異常なほど強いことは分かっていたから、彼に捨てられるのがとても怖くて。
でもやっぱり彼はあたしを捨てた。その時から崩壊は目に見えていた。いや、その前からも。
あたしにも、感情なんて無かったのかもしれない。
あたしの別れを告げられた瞬間、蘇ってきたのは甘い言葉や彼の仕草なんかじゃなくて、彼の体温、息遣い、腰遣い、絶頂を迎える前に名前を呼ぶ色香のある声。
あたしが彼の何を求めているかと言ったら、愛情なんかじゃなくて肉体だったんだと思う。
がっしりとしたかっこいい彼に抱かれる自分。
ただそれだけが、幸せだと思える瞬間で、同時に存在価値の証明でもあった。

依存性の高い人間が、存在価値の証明を失うということ。
それは、その人間の世界の崩壊を意味する物だと思う。
実際、その存在証明を失ったあたしは狂いに狂った。自分でもわけのわからないくらい。
多くの精神病患者は、こんなふうに我を無くしていくのだろう。
あたしはあの時、本当に死んでしまおうと思った。世界のすべてを恨んだ。
恨みを込めた異常な精神は、腕を切りつけ、大量の薬を飲み込んだ。
普通に考えれば、あまりに外れた行為。

メンヘル・ジャンキー

メンヘル・ジャンキー

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-02-15

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