恋の自覚

恋の自覚

「ねぇ、どうして嘘つくの?」
冬の暖かい日差しを受けながら、寝転ぶ私に恋人が問いかけた。
「嘘?」
私はうっすら目を開け、すぐ隣に座る恋人の顔を見上げたが、私が敬愛して止まないその人は、
まるで私などいないかのようにすぐ目の前の小さな庭をながめている。
洗濯物がなびく様子を私も見ながら、恋人の言ったことを考えていた。
もちろん私に隠し事などないし、できない。
「ついてるでしょ、嘘」
「何のことだか本当にわからないんだ」
内緒でギャンブルもしてなければ、夜遅くに帰ることもない。
今しているように、休日には恋人と穏やかな時間をとれるよう努力している。
「ばかだね」
そう言うと、恋人は私の髪をすいた。
久しぶりにされる感触は少しくすぐったかった。
それから尊敬する人は、私と少し距離を取って、また庭とむきあった。
スズメの軽やかな声に、カラスの重く通る声が重なる。
恋人は瞼を太陽に向け、気持ちよさそうに柱に寄りかかっている。
私は愛する人の真意がわからず、床についた左手の袖を引っ張った。
「ねぇ、どういうこと?」
せっつくように問う私とは異なり、ゆっくりと瞼を上にあげて目を開いた。
そして、私に向き直り寂しそうに笑った。
「わからないなら、いいんだよ。あーあ、そのまま気付かなければいいのに」
そう言うと、恋人は私の体の上に覆いかぶさりきつく抱きしめた。
「言いたいことができたら、すぐに言ってね。どんな話でもちゃんと聞くから」
「ん」
私が素直に返事をしたことに安心したのか、恋人は頭を軽く2回叩いて身を起こした。
体が離れたことで物寂しさを感じた私は、愛する人にすり寄り、膝に頭をあずけた。
好きな人が髪をすく感覚が気持ちよく、しばらくして私は眠りにおちた。
ある冷たい風の吹く冬の午後だった。

恋の自覚

恋の自覚

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-14

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