あのひと (に)

理性

このリボンですぐわかった

ってあのひとは後ろからやってきて
私の髪飾りに触れた
どれだけドキッとしたか
あのひとにはわからないでしょう

もう終電だから帰ります

そう言って帰ろうとした私を

俺ももう帰る
いっしょに行こう

と言って引き留めた
そのくせまだ
みんなと話してたあのひとを置いて
私は先に店を出た
ちょっと残念な気持ちで

でもすぐにうるさい足音が聞こえて

このリボンですぐわかった

と言って笑ったの

駅までの200メートルほどなんて
ほんと一瞬なのに

あれほど幸せな一瞬は
なかったんじゃないかな

同じ資格を目指す私とあのひと

お前向いてると思うよ
すごくしっかり考えてるし
俺もいい刺激を受けてるよ

ほんとですか
そう言ってもらえると嬉しいです

そんな笑顔で返事をする私は
偽物だ

本当は弱くて不安でいっぱい

描き続けた夢に
近づけば近づくほど
自信を失っていった

そんな私に
そんなすてきな言葉をくれる

それだけで十分すぎるくらい

駅に着いても
少し話していて

でも私は頭の片隅で
終電を気にしていた

いつもそう
いい子でいることがふつうで
私を支配しているのは
理性だけになっていた

私の本当の気持ちは
どこ?

いつからか
自分の中で自分が迷子になっていた

でも
もうひとつ
頭のもう片隅にあったのは

あのひとの指輪

あのひと (に)

あのひと (に)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-14

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