あのひと (は)

偶然

さっきレジュメで見たけど
いい名前だね

あのひとは言ったの

単純にうれしかった
ちょっと珍しい名前ね
とは言われるけれど
褒められることはあまりないから

その時すごく嬉しかったでしょう?
がんばったんでしょう?

ってあのひとは
私の欲しい言葉を
すぐに言い当てるの
まだ2回しか会っていないのに

こんな大勢で
がやがやしている居酒屋の
両端に座っていた私とあのひとは
気が付くと隣同士にいて

そして言ってくれたの
悩んで迷って考えても苦しい時に

まさに今欲しい言葉を
さらって言ってのけるの

泣いてしまって
なんでそんなこと言うんですか!
泣いちゃうじゃないですか!
と叩きながら
私はすでに泣いていたの

私のことを
すべてお見通しな物言いで

細い目の奥は
ちゃんと私をとらえて
真剣さとやさしさを
放っていたの

どうしてこんなにも
私をわかってくれるのかなんて
舞い上がって

もちろん
そんなのはたまたまかもしれない

年上だから
なんとなくわかるだけかもしれない

それでもね
その偶然を
奇跡だと思ってしまう
その直感を
たまには信じてみたいの

恋は墜ちるものだと
よく言うけれど

あの時わかった気がする

こんなに穏やかに
隣にいたいと思えるのは
初めてだったから

あのひと (は)

あのひと (は)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-14

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