風花の舞う頃に

今日の気温は-1度らしい

もう3月になるというのに、一向に姿を消す気がない白い塊が家の周りまだたくさんある。
日に日に姿が大きくなってるのでは?と錯覚することもある。
早く無機質な地面にお目にかかりたいものだ。

東京ではすでに暖かくなってきていると友人は言っていた。
北の大地はプライドが高いのだろう。
人は北海道と聞いたとき何を思い浮かべるだろう。
まぁ十中八九「雪」という返答があるだろう。

北海道イコール雪という方程式がなぜか人には浸透している。
その方程式を守るために北の大地様は無理に雪を降らすのだろう。

まったく迷惑な話だ。
僕は寒いのが苦手だし雪なんて尚更嫌いだ。
でもなぜかこの季節の電車が好きだ。

ホームでは電車の到着時間よりも早くに並ぶ人の列が分を追うごとに増えていく。
彼らは寒いホームから暖かい車内に入りたいのだろう。

そんな彼らの待つホームに札幌方面行きの電車がやってきた。
僕の一つ前に並ぶスーツを着たサラリーマン。
彼は肩をすぼませ寒そうにして、ドアが開くとともに暖かい車両に消えていった。

車両にはまだいくつか誰も座らないイスが残されていた。
でも僕は温かさを保つイスに座る気など毛頭なかった。
ましてや車両に入ることすらしない。

車両と車両をつなぐ少し広めなスペースが僕の空間だった。

そこの端で壁にもたれかかりiPodで好きな曲を聴きTwitterを見る。
これは僕にとって目的地に向かうまでの良い暇潰しになる。

気温-1度の風が入り込むこの出入り口付近のスペースは駅に着くたびに現実を教えてくれる。
それは車両のイスに座ってる人達は忘れてしまう現実だろう。
駅に着きドアが開いたとき流れ込む体を震わす冷たい風を感じることで、外は寒いという現実を再度教えてくれる。
だからこそ目的地に着いた時ドアから出るとそれほど驚かないのだろう。

車両に消えたサラリーマンは体をブルっと一震わせると肩をすぼめて階段を下りて行った。
ホームには電車が起こした風により舞う雪が風花のように散っていた。
その風花の向こうでこちらを見る女の人がいた。

面影を持つひと

そんな事実は決してあるわけがない。
寒さが僕に見せた幻だろうか。
風花の向こうの女性から目を離せず、人ごみの中で立ち止まる。
その僕の姿は、他人からすれば異常なのだろう。
でも僕はどうしても彼女から目を離すことができなかったのだ。

なぜなら彼女は、十年前に自らの命を絶った幼馴染の顔をしていたからだ。
他人の空似なのだろうか。
しかしその現実を直視できないでいた。
もしかしたら・・・とあり得るはずのない現実を求めてしまう。
決してあり得ない事だがあり得てほしい。

そう強く思っているうちに彼女は電車の中に消えていった。
おぼつかなく震える足でいくら追いかけても間に合うはずがない。
無情にも幼馴染の顔をした彼女を電車は連れ去ってしまった。
そこから十数分間僕はその場を動けないでいた。
右ポケットでは先輩からの呼び出しコールが静か何度もに僕を呼んでいた。

それから僕はまるで魂が抜けたようにふらふらした足取りで先輩と合流した。
先輩には遅れてすいませんと一言だけ言い。
それ以外の事は一切話さなかった。
それを悟ったかのように先輩はああ、そうか。よし行くぞ、と僕の肩を軽くたたいた。
それからのことはあまり覚えていない。

気が付くと帰路についていた。
一日中あの幼馴染に似た女性を思い浮かべていた。
あれは本当に別人なのか、若しくはあの悲惨な現実はただの夢だったのか。
この時、僕の期待は後者の方が大きかった。
一番あり得るはずのないことなのに。

家に着くと母さんのおかえりと言う声にろくに返事もせず、パソコンの電源を入れた。
そこから僕がしたことは、ただひたすらあの幼馴染の自殺についてだ。
体中に嫌な汗をかきながらただひたすらページをスクロールしていた。
だけど、やはり現実は無情なのだ。
僕の異変に気づいたのか母さんは潤んだ目をしながら、必死にページをめくる僕の手を止めた。

風花の舞う頃に

風花の舞う頃に

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-14

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