あのひと (ろ)

細い目

初めてあのひとを見た日
大切な発表会なのに遅刻してきた

そのくせシャーペンを回したり
下を向いたままで動かないから
てっきり寝てるのかと思ったの

そのあとの居酒屋で
斜め前に座ったあのひとの目は
細くて
笑うと見えてるのかわかないくらい

笑いながら話しかけてくれた時
私はなぜかなつかしくなった
小学生の時に大好きだったあの子に似ていた

服も顔もふつう
むしろダサいのだと思う

それでも
トイレに立って戻ってきて
あのひとの隣に座ったとき
わかったの

私の右腕と
あのひとの左腕が触れる
その距離のあたたかさ
安心感

ふわっとした
ほわっとした
そんな気持ちになった

厭らしさのような
性的な匂いのしない触れ方だった

好きだとは思わなかった
安心感の方が大きかったから

でもその帰り道に気が付いた

もう一度会いたい、と

白く淡いふっくらとした頬に
細い目で
しっかりと私の目を見てくれる

あのひとに

あのひと (ろ)

あのひと (ろ)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted