忘却という善行

忘却という善行

「忘れるな」と頭のいい人は言う。
確かに仕事や学問に於いては記憶力が良いに越したことはない。
但し、万事が万事につけ記憶力がいいのも厄介である。
特に人間関係においてはそうである。
大抵の人間は支離滅裂で、発言した内容をほとんど憶えていない。
それ故、その場その場で忘れてしまうほうがうまくいくものである。
実に人間というものは根っからいい加減なもので、自分の立場を守るため嘘もつくし、
己のことは棚上げにして平気で他人の悪口や陰口を言うものである。
さらに始末の悪いことに、言葉の暴力で相手を死に至らせることもある。
それが最も恐ろしい。
誰も火中の栗を拾いたくないが、運悪く拾ってしまうことがある。
それは本当にわずらわしいことだ。
もし巻き込まれたら出来るだけ早い段階で脱出し、忘れるに限る。
なぜなら人間とは不思議なもので、危害を加えたものはそのことを全く憶えていない。
つまり傷つけられそうになった時に対処しなければ、後に遺恨を残すことになるのである。
取りあえずそういう時は、天災に遭ったと思いさっさと忘れるに限る。
昔のことわざに「恨みや憎しみは骨を腐らせる。」ともある。
努めて忘れ、笑顔を取り戻そう。そうすれば、新しい道へと一歩を踏み出すことも出来る。
また忘れるという行為は、人間が新たな変革を模索する時にも大きな役割を果たす。
既成概念というしがらみを解き放つには、記憶をリセットすることが重要となる。
一度頭の中を空っぽにした時、新しい発想が生まれてくるものである。
つまり、忘れるという行為は人間が前に進むために無くてはならない貴重な行為なのである。
だから、これからも前に進んでいくためにすすんで忘れよう。
新しい一歩を踏み出すために。

忘却という善行

忘却という善行

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-02-14

CC BY-NC-ND
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