白い小花の植木鉢

白い小花の植木鉢

#twnovelにて呟きました。

白い小花の植木鉢

日当たりの良いベランダに、小さな鉢を置いた。小さな花が、所狭しと色を競っている。
昨日誕生日だからと、彼が置いていったその鉢をつくづく眺めていると、花の隙間で何かが光った。
花をかき分け取り出したそれは、お伽話から飛び出して来たような可愛い鍵だった。どこの鍵だろう?

金色で、小さなこの鍵は、何の鍵だろう?あれこれと思い浮かべるが、思い当たらない。
何かヒントはないのかと、鍵が出てきた花の鉢を持ち上げると、ぺらりとメモが落ちてきた。
丁寧に折り畳まれているので、ゆっくり広げる。
文字はなかった。縦に長い、赤い三角の天辺(てっぺん)に、三日月が書いてある。

赤い三角の上に三日月。
この図には見覚えがある。
部屋を移動して書斎へ行き、机の上の東京タワーのオブジェへ向かう。
東京タワーを見に行ったとき、綺麗な三日月がタワーに刺さるように輝いていたのだ。
オブジェをひっくり返すと、「あ」と書かれた紙と楕円形の中に歪んだ円、更に真ん中に黄色い円。
よく彼が言う言葉を思い出す。
「朝が幸せなら、1日が幸せだ」
そうなれば嬉しいと、私はよく彼の好きな目玉焼きを作った。

大きな円、その内側のいびつな円、更に内側の黄色い円…三つの円は目玉焼きの絵だ。

キッチンを探し回って見つけた、フライパンの中にあった紙は二枚。「い」と書いてあるものと、また絵が書いてあるものだ。

四角の中に人。

これも解る。
四角の中に人が書かれた図を片手に、バスルームへ向かう。
「二時間もお風呂に入ったら、ふやけちゃうじゃない」とは彼の言葉だ。
これはきっと、お風呂に入っている私の図だ。
バスルームに入って見回すと、タオル掛けに紙を見つけた。
一枚は「し」と書いてある。もう一枚は四角の中に人。但し今回は、人の頭が小さな四角の上にある。

寝室へ向かう。枕の下に見つけた、二枚の紙。
「て」と書かれた紙と、花の絵が書かれた紙。
「次が最後ね」花の絵を見たので、誕生日プレゼントに貰った鉢へと目線がうつる。
一文字だけ書かれた紙は、「あ」「い」「し」「て」。
鉢には夕日が当たり、土を覆い隠すくらい咲き乱れる花を照らす。

慎重に小さな植木鉢の土を掘ると、手のひらに収まるサイズの小箱が見つかった。
そっと箱を取り出す。土をゆっくりと払うと、その下には「る」と書かれた紙があるのが目に入った。

「あ」「い」「し」「て」「る」の、文字が揃った。

小箱には鍵が掛かっている。最初に見つけた鍵を使う。
金色の、お伽話に出てきそうな可愛い鍵。
カチリと小さな音がして、箱が開いた。

中は、空だった。

愛してる、と言いながらも箱に何も入れなかった理由は知っている。
彼は、私が彼の元を去ろうとしているのに気づいたのだ。
私は去る。
愛し、共に歩むべき人を見つけたから。
その相手に指輪を入れてもらえ、という父なりの承認だ、と私は受け止めた。

20年男手一つで私を育ててくれた父へ、感謝の言葉を呟く。

白い小花の植木鉢

#twnovelは140字で完結するのがルールかな?とも思いましたので、一つづつの140字である程度まとまりがあるように呟き続けました。

ここに載せるにあたり、多少文章に変更を加えています。

白い小花の植木鉢

「彼」が誕生日プレゼントにくれた花の小鉢。 「私」はその鉢の中に光るものを見つけたことから、 ちょっとした冒険をします。 家の中で起きる、小さな幸せの記録。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-12

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