幻奏者

まぼろしの壱

ある時ふと流れた音。
あなたは聴きましたか?
そしてそれは本当の音でしょうか?それとも幻聴?
それは誰にも分かる訳がないのです。
だって流した本人すら覚えていないのですから。

そこは高原で、ゴツゴツの岩肌が剥き出しになっており、ところどころに草が生えていた。それは軽く山の様でもあった。
空は雲一つない晴天で、草に付いた朝露が太陽の光を反射している。
そんな高原に、太陽の登る方から二人のものが歩いてやってきた。
一人は布で全身を覆い、頭や顔までも深く覆って隠している。年齢はわからないが杖をつき、下を向き腰を曲げながら歩いている所を見ると歳をとったものであろうか。
もう一人はすぐに若い娘だと分かった。
娘は布で体を覆っているが肩から先、ひざから下は何もつけておらず、手首につけた黒い輪が目立っている。娘はその上からもう一人がかけている布を短くしたようなものを羽織っている。肘がやっと隠れるほどの長さで、頭を覆うもついているが使用しておらず、顔は完全に見えている。
娘はくっきりとした目鼻立ちに紅い眼をしていた。さらに髪は白より銀に近い色で短く整えられており、肩にかからないほどだった。とても綺麗な娘だった。
その娘は老父を引っ張るように歩いている。
「爺や!早く早く!」
娘が発した声はとても透きとおる声だった。
「お嬢様!早すぎます。もう少しゆっくり行きましょう。」
その声に対応して聞こえた声は少し枯れ、男のものだとすぐに分かった。爺やという事は老父なのであろうか。
爺やと呼ばれた男は少し息を切らしながら娘に必死について行く。
すると娘はさっきまでつかんでいた男の手を放し、男に腹を向け背の方向に歩み始めた。
「お嬢様、転びますぞ!」
男は焦ったように娘に静止を呼びかけたが、娘は話を聞かずに後ろに進む。
そして------。
あだっ!と悲鳴をあげて娘は男の視界から消えた。
男はあーあと頭から被った布をとった。

娘は、転びながら気づいた。
自分が躓いたのは岩ではないことに。
そして、すぐに起き上がると
「なんでそんなところで寝てるのよ!」
と躓かせた相手に向かって怒鳴りつけた。
すると、その相手は、「ん……」と声をあげながら起き上がった。
目を擦りながら娘を見上げるところをみると、先ほどまで寝ていた様なのだが、娘は全く気にせずにさらに怒鳴った。
「私を転ばせるなんていい度胸じゃない!」
「なんのことだ?」
男の低い声で、娘の相手は質問をした。娘が怒っているコトには全く気づいていないようだった。
案の定、娘の怒りは頂点に達したようで

幻奏者

幻奏者

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-11

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  1. まぼろしの壱