ひまわり

今日娘を保育園へ迎えにいったとき、園庭の花壇に背丈20cmくらいのスペード型の葉の苗を見つけた。
娘が物珍しそうに眺めていた。
「これなんだろう」
「ひまわりだ」
私は答えた。そうだ、ひまわり。少し貧弱だけど、この葉の形はまちがいない。

小学校4年生のとき、家族とともに名古屋の戸建に住んでいた私は、お庭でひまわりを育てていた。
ひまわりはよく陽のあたる庭でぐんぐん伸び、夏になると、私や母の背丈を追い抜き、ピザみたいに大きな花を咲かせた。
茎も竹の棒みたいに太く濃く、緑の葉もまるで団扇みたいで立派だった。茎の先端についた大きな焦げ茶の円のまわりをまぶしいくらい黄色い花びらがぎゅっとひしめくように縁取っていた。
私は毎日ひまわりの成長を見るのが楽しみだった。そして、ひまわりと一緒に生きていることを誇りに思っていた。

夏休みの図工の課題で、私はこのひまわりの絵を描いた。大きな重たい頭をもたげるように立ち尽くすひまわりの逞しい茎や葉、鮮やかな黄色い花びらの一枚一枚を丁寧に力強く描いた。私を見下ろすひまわりの頭上に広がる空を、青ではなく、オレンジや黄色や緑や、いろんな色で描いた。
ひまわりの居る世界を、ありふれた世界にしたくなかった。そして出来上がったとき、9才の子供の私にしては、とても夢のある、芸術的な世界を描けたようで、満足だった。

あの絵はどうしたのだろう。成長して、私の目に映る世界の色が変わったとき、急にその絵が陳腐にみえて、捨ててしまったのだろうか。

いつも私はこんなだった。
いつも、そのときそのときを一生懸命、走って生きてきたくせに、新しい景色が目に入ると、古い景色とともに、古い自分を捨て去ってしまった。
一生懸命だった昨日までの自分を、見限るように。

死ぬ程嫌いだった、過去の私が、急に愛おしく思えてきた。
そして同時に、どうしても受け入れられなかった、過去の人たちのことも、愛おしくなった。

ひまわり

ひまわり

ひまわりと一緒に生きていることを誇りに思っていた、小学校4年生の夏の物語。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted