けものびとたちのまいにち
もりのくまさん
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ツキ「ルゥ!またビビってんのか?」
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ルゥ「ツキ君、だっけ?ここにきてまだ少ししか・・・」
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ツキ「そんなのなれろ」
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ルゥ「がんばるけど」
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ツキ「怖い?」
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ルゥ「・・・ああ」
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ツキ「ガゥォォォ!!」
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ルゥ「ひゃあ!!?」
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ツキ「はははっ!!なさけねえ!」
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ルゥ「だって、君の牙も爪も怖いし・・・」
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ツキ「そうか?俺にとっちゃお前も立派なもん持ってると思うけどな・・・あと気持ち悪いから『君』なんて呼ぶな・・・それにお前の耳かっこいいと思う」
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ルゥ「ツキのは・・・かわいいって言っちゃいけないんだよね?」
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ツキ「それは言ってるのと同じだ、この!」
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ルゥ「やめて!痛いって・・・!ってあれ?もしかしてしっぽも丸い・・・」
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ツキ「うっせ!!!丸くて悪いか!小さくて悪いか!!こんなフサフサのつけやがって!!!」
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ルゥ「やめろって!!!」
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シャン「仲良くなってるなってる」
おれは
なんだこれ・・・こわい・・・
だいじょうぶだいじょうぶ
呟きながら進む
ここはどこだろう
もう、帰る家はない、おばばの家は取り壊されてた
歩いた
たまに走った
なにかに追いかけられたからだ
足が遅い奴で助かった
木に登った
それから木の上を伝っていこうと決めた
怖い
でもだいじょうぶ
そうしてあてもなくぶらぶらひたすら動いた
なにをすればいいんだかわからなかった
お腹がすくまで
ウサギとキツネときのみとその辺の草、おばばといるときに食べたやつ
今日は湖の近く
ひさしぶりに火をおこして料理をしてみた
なつかしい
料理なんてめんどくさい手間必要ないのに、とってきてすぐの方が新鮮でおいしいのに、味付けだってなにもしてないのに
そのうち新しい景色を楽しめるようになった
いつだか街に出た時、こっそりぼうしを盗んだ
おばばが教えてくれた
おきゃくさんとはなしてるときならいけるって
服は着てたけどぼろぼろで人がいっぱいいるところは歩けなかった
路地に入ると似たような格好の人がいた
ちょっと堂々と歩いてみる
全然ばれなかったけど
新しいぼうしを取られそうになった
「ぬすんだのか?」
ニンゲンの子ども
俺と変わらない格好
「うん」
ひさしぶりに会話
「そのぼうし、どうするんだ?」
ぼうしはかぶるものだ
俺は耳を隠すためだけど
「かぶるため」
「売らないのか?」
「売るの?」
「当たり前だろ?金になる」
その子はそして俺のぼうしを取ろうとする
なんだか街にいるのが嫌になった
「あげるよ。もういらない」
「?」
俺の耳を見てその子言った
「・・・つけ耳か?」
「ほんものだよ」
「お前金になる」
俺は
俺は逃げた
ぼうしを投げて
また森に入った
木の中の穴で眠った
その日の夜は雨だった
目が覚めても雨だった
おばばが傘を買ってくれたことを思い出した
大きな葉っぱを一枚
傘をさした気になった
ぴちゃん
なんだかおもしろくなってわらった
なんだかかなしくなってないた
雨の中傘を捨てて
走った
俺の身体がオカシイ
なんだか息が苦しい
ふと濡れた腕を見たら毛むくじゃらだった
そのまま走って
気が付いたら完全に獣だった
水たまりの中の俺は
怖かった
なんだこれ
だいじょうぶだいじょうぶ
俺なんだから食われない
いや、そうじゃなくて
なんだこれ
笑おうとしたらすごい牙だった
漏れた声は低くて
顔を触ろうとしたら爪も長くて
そして
お腹がすいていた
なにをたべようか
そう思った
ニンゲン
それだけはぜったいに嫌だ
俺は四つん這いで走るスピードも全然違う
あっという間に鹿を一匹仕留めた
おいしい
ふと昨日のご飯を思い出した
おばばの顔を思い出した
頭が痛くて痛くてたまらなかった
胸が苦しくて苦しくてたまらなかった
俺、ずっとこのまま?
もう・・・あの時みたいに・・・
嫌だ
獣になるのは、
そう思ってるうちに俺は眠っていた
目が覚めたら
元の俺だった
耳が長くて
しっぽがついてて
爪も人より長くて
鼻が利く
耳もいいし遠くの音もよく聞こえる
足も速い
ジャンプが得意
牙で仕留めることもできる
俺は
俺はルゥ
おれは・・・
だいじょうぶ
俺はルゥ。この名前は母さんがつけてくれた。俺の母親は俺を産んですぐ死んだ。父親は知らない。俺は村のおばばに引き取られた。母さんは俺をかばって撃ち殺された。俺が知っているほとんどのことは村のおばばに全部教わった。何故俺をかくまってくれたのか?そのわけも全部教えてくれた。
「おぬしは何の罪もない。おばばは昔しきたりに縛られて取り返しのつかないことをしてしまった。繰り返したくないんじゃ。たとえおぬしが獣の子であっても」
そうだ。俺は獣の子なんだ。おばばは俺の父親を知っている。でも教えてはくれなかった。
俺はしばらくして一人になった。だっておばばがいなくなったからだ。俺に一つの呪文を残して。
「いいか、ルゥ。いろんな思いがあふれてどうしようもなくなったら呟くのじゃ。『だいじょうぶ』とな。おぬしはだいじょうぶじゃ、もうだいじょうぶなんじゃ。本当にいい子に育ってくれた」
怖いしすぐげんこつするおばばがあんなににっこりと笑ったのを俺は初めて見た。
だいじょーぶ
そう呟いて俺は一人洞穴の中
おばばの家にはもういけない
人がいっぱい来て
怖くて森に逃げ込んだ
おばばが俺をひっぱたいて教えてくれたことを俺は思い出した。
やっとわかったんだ。
なんで木登りができないと死ぬのか。
なんで俺の力が弱いと食べられるのか。何に食べられるのかは知らないけど。聞きたいのかって言ったおばばに食べられそうで怖くて聞けなかった。
なんで森に入っちゃいけないのかも。危ないからとは言わなかった。死にに行くのかと言われた。
なんでしっぽを手みたいに使えるようにしないといけないのかも、
なんでおばばがさぼってて俺が料理しなきゃいけないのかも、なんで生で食えって言ったのかも、食べたらおいしかった。そう言ったら嬉しそうにしたのも、
なんで泣いたら怒るのかも、
なんでこんなげんこつで死んだりしないって言ったのかも、ほかにも、ほかにも、
なんでおばばが怖かったのかも
なんでおばばが優しかったのかも
そうか・・・
俺はこれから一人なんだ
そして、俺はもう一人でもだいじょうぶなんだな、おばば
そうだよ
俺はだいじょうぶだ
_____なあ、おばば
風の日
ガタガタ
「怖いよシャン・・・」
「ルゥ、だいじょうぶ。ただの風だから」
ヴォォォォォォウオオォォォ
「だって唸ってるよ・・・!?食べられちゃうんだよ・・・」
小さな小屋の中。鳥人のシャンと獣人のルゥがいた。
「お前は食われるかもしれないけど、俺はだいじょぶだろ?」
「いや!シャンのほうが食われるだろ!!?それにシャン、いつも言ってるけどもっと女の子らしくしろよ・・・」
「お前こそ男らしくしろ!」
「だって・・・」
「ほらもう女っぽい」
「う、」
風は止まない、どころかさらに強くなる一方だ。
「なんだよ、俺より小さいくせに」
「だから?」
「う、」
「それに俺は風なんかちっとも怖くないね」
ガタガタガガガガガガガガッ!!メリ・・・バキッ!!
シャンのその声に反応したかのように、強く強く風が吹いた。小屋はガラガラに崩れていく。
「シャン!!!」
体の小さなシャンはあっという間に宙へ浮いた。しかも驚いて変身を解いてしまった。
「きゃぁぁぁっ!!!」
小さな小鳥は風にのまれそうになる。
「くそっ!」
ルゥの腕が体が、毛むくじゃらになっていく。頭には角が、体は倍以上に大きくなった。しっぽのフサフサの毛玉はそのままついていた。しかし手足の爪が鋭く伸びていく。
「シャン!!!!」
叫んだ声は先程とは程遠い低い声。開いた口には鋭い牙が見えた。
ぱく
小鳥は獣の口の中に。ルゥはそのまま腕と足を振るい、風の陰になるところを探した。
石の壁を見つけ、そこに横たわる。口をあけ、小鳥がとととっと出てくる。
「ルゥ・・・?ルゥ!?」
シャンが声を上げる。くちばしで必死につつくと、巨体がゆっくり動いた。
「シャン・・・だいじょうぶ?」
「ルゥ、早く戻りな!」
「・・・風・・・」
「何?」
「・・・風が止むまで」
「何言ってんの!お前は俺たちと違ってその恰好の方が辛いんだろう?」
ルゥはゆっくりと座り体を丸め、さらに風を防ぐ。
「・・・男らしいだろ?」
「・・・・・・」
小鳥は鳥人の姿になる。
「シャン、そのままでいいのに・・・」
「バカ!!!」
背伸びをしてグーで角の間を殴る。そのまましゃがみこみ、ルゥのフサフサの体に抱きついた。
「女の子っぽいよ、シャン」
「うるせぇ」
「・・・」
「・・・腕があるっていいな」
「・・・ん?」
「抱きつける」
「・・・・・・ん」
「し、殴れる」
「ん~・・・それはちょっと・・・な」
今日は風の日だった。ちょっと怖い日だった。
・・・・・・ちょっといい日だった。
けものびとたちのまいにち