畑で会った青年


夜の街を歩いている。一人暮らしの女性の年金の話を公民館で聞いてきた後だった。
暗い道は誰も歩いていなかった。寂しい気持ちでいると、私の体がふわふわと舞い上がり、どんどん高くなっていった。
下に見える風景は、みたこともない田舎の畑の風景だった。
やがて朝の光が照らし始め、私は平らな黄金の屋根の上に舞い降りた。
畑に大きなつがいの鳥が人間の言葉で話しているのが見えた。すると違う方向から、大きな黄金の鳥が親しみの表情で歩いてきた。
「帰り道がわからないから、案内してほしい」と私が言ったら、大きな鳥は「いいよ」と快く言った。大きな鳥は見る見るうちに青年の姿になり、私とならんで山道を歩き出した。
「僕の車に乗っていくといい」
鳥なんだから、飛んで案内してほしいと思ったが私は彼の車に乗った。
それから私は彼の話をいろいろと聞いた。彼の日常の話、親の話、聞いていながら、温かいものに包まれていくような気持ちだった。

いつのまにか、また畑に来ていた。
今度はまるで何かのツアーに参加してるかのように、多くの人がいて、どこから声が聞こえてきた。
青年は、よくこのツアーに参加していると。若く見えるけど、実は私よりも10歳は年上だと。
私たちのそばに夫がいた。そして娘が、青年に走りよってきて抱きついた。
私はやさしい気持ちになり、彼に「夫がいるんです」といった。
するとおだやかだった彼の顔は、みるみるうちにあきらめたような、悲しい顔になった。
今まで並んで歩いていたのに、彼の歩調がどんどん遅くなり、私から離れていった。
後ろを気にしていると、昔仲良しだった女友達に背中を突かれた。彼女達と昔の親しみを取り戻すかのようにじゃれ合い歩いた。あとで青年に名刺でも渡さなければ、と思いながら。
振り返ると、青年はいなかった。


目が覚めたのはまだ夜明け前だった。
畑にいた大きな鳥の美しさと、あの青年の愛しさが目覚めた後もしばらく消えなかった。

畑で会った青年

畑で会った青年

畑に舞い降りた大きな鳥は、1人の青年の姿になり、私と歩み出した。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-10

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