知らないもの。⑧
「あ、ちなみに俺ら以外にもちゃんと見護り役はいっから安心しろよ。
妃雪の身体中に宝石のようなもんが埋め込まれてるんだ、それはそいつと契約した証だ。
近々お前も行かなきゃなんねえな。次の満月だから、3日後ってとこか。」
宝石?
私が考え込むと咲紀くんはニッと笑いシャツを脱ぎ左腕を私に見せた。
そこには綺麗な宝石のようなものがついていた。
紅く燃える炎のような。
「これが契約した証だ。夏生や良、他の奴にもついてる。
毎代最後は御影だ。」
鋭い目はなんとも言えず、怖かった。
「まあ、彩奈、3日後を待つといいよ。」
良はニコリと笑った。
-3日後-
夜の8時を回った。咲紀くんの部屋に集まり窓の外を見つめる。
満月は大きく、柔らかい光を放っている。
「妃雪はもう行ってるだろう。」
「彩奈、今から俺がいいよって言うまで絶対目を開けるなよ。
まだ狐の血が濃くなってから日が浅いから、人と間違えて喰われるかわもしないからな。」
喰われる、その言葉で背筋が凍るような感覚に陥った。
「瞑って。」
目を閉じた瞬間から何とも言えぬ気持ちの悪い感覚が体を襲う。
何が起こっているのかは全くわからない。
どれほど経ったのだろうか、全く時間の感覚がない。
「開けていいよ。」
目を開けると、ものすごい景色が広がっていた。
雲の上にいるような、真っ白い床に、光で溢れている世界。
目が眩む。
「すげえだろ。ここは狐以外にも妖怪がいるんだ。それも殆どが格上なやつら。
妃雪は天狐なんて呼ばれる存在でもあるからな、かなり慕われてるだろうな。」
咲紀くんは自慢気に話した。
「咲紀、俺たちも早くいかないと、また遅刻ってどやされるぞ。」
夏生くんが冷たい声で言う。
「彩奈、ここでは俺らは狐の姿が混じる。あまり驚くなよ。」
少しずつ良の顔は白くなっていく。
「咲紀?夏生?良?」
背後から男の人の声が聞こえた。
柔らかく物腰のいい声。
「ん?あぁ、柚木!久しぶりだなあ。前のは確か2年くらい前か?」
「あぁ、その位だな。お、その子か?御影の。」
「あぁ。妃雪はもう来てるのか?」
「そうみたいだ、上が騒いでるからな。咲紀、早く行ってやれよ。今回もかなりきついらしいからな。」
騒いでる?
何故?
「そうか、まあいつものことか。」
そう言った瞬間咲紀くんの頭に耳、お尻に尻尾が生え、着物のような服になった。
白に赤と金を貴重とした服だ。
「うし、行くか。」
咲紀くんに続き他の人たちも耳と尻尾が生えていく。
私にも。少し驚きながらも私は一歩ずつ前に進む。その度に足が重くなる。
「彩奈大丈夫か?顔色悪いぞ?」
良は私の顔を見て言う。
「足が、重くて。」
「・・・もう少しだ。頑張れ。」
そういい、私の腕を引いた。
もう少しかな。何度も何度も思う。
ついに足が縺れた。
「あ、」
「彩奈!」
みんなが駆け寄ってきた。
「チッ、やっぱり持たねえか。急ぐぞ。」
意識は朦朧とし、ついには途切れた。
「ん・・・」
目を覚ますとひどい頭痛と吐き気だ。
ベッドの上にいるのだろうか。
「お、目覚めたか。やっぱりなりたてはかなり辛かったよな、無理させた、ごめん。」
咲紀くんは申し訳なさそうに眉を下げる。
「ううん、大丈夫。
雪妃ちゃんは?」
「妃雪も少し休んでる。天狐の血が混ざってるとは言え、人だからな。
しかも俺たちのも一緒に受けてるからかなりだろう。」
少し怖い。
そう思う。
ーチリンー
「!?」
「咲紀・・・」
隣の綺麗なカーテンが揺れ、開いた。
中から、真っ白な尻尾に、真っ白な狐耳。そして艶艶と輝く髪の毛。
宝石のように光る瞳。雪妃ちゃんだ。
「さ・・・き・・・」
雪妃ちゃんは咲紀くんの胸の中に倒れた。
「さき、さき、さきぃ・・・」
ボロボロと泣き出す。
まるで何か大切な物を失くしてしまった子どものようだ。
「落ち着け、妃雪。大丈夫、俺はどこにも行かない。」
「いやぁ、いやあ。行っちゃいやあ。」
泣き喚く雪妃ちゃんの頭を咲紀くんは撫でた。
いつの間にか周りには夏生くんや良がいた。
「妃雪、大丈夫だ。俺はお前の横にいるから、大丈夫だ。」
咲紀くんはゆっくりゆっくりと子どもをあやすようにぽんぽんと頭を撫でる。
「彩奈、ちょっとおいで。」
私は良に呼ばれ外へ出た。
夏生くんや、さっき会った柚木さん、他に知らない人も数人いる。
「あれは、妃雪さんがここへ来た時必ずなるんだ。
知らないもの。⑧