夕焼け。こやけ。 第三話
おはようございます。第三話のお届けです。スーパーで同じアパートの住人飛石ヤスヲと会う岸井。飛石からは漁港の臭いがした。老人問題。お楽しみに!
第三話
「夕焼け。こやけ。」
(第三話)
堀川士朗
生前、母からもらったトランジスタラジオの電源を久しぶりにつけた。
プツプツと雑音ばかりで局を拾わない。
でも、捨てられない。
振ったり、叩いたりはしない。
だって大事だから。
亡き母の言の葉をふと思い出した。
『後ろを向いてちゃ駄目よ。人生は前にしか進まないのよ』
コンビニのレジで一万円札を出して六千円のおつりを受け取る。
財布におつりを入れる前に、しばらく眺めてしまった。
ゲシュタルト崩壊した。
何だこの紙は?
え?え?え?
模様や数字や記号の羅列と知らない人物のデザインの薄っぺらな紙。
こんなもののために人間は、汗水流して働かなきゃいけないのか。
無常を覚えた。
十面荘101号室の住人飛石ヤスヲさんがスーパーマーケット『マルクス』にいた。
買い物をしていた。
レジの一人前にいた。
話しかける。
カゴに満載した商品はカートでからからと運ぶのだ。
でも一袋分多かったみたいだ。
近寄るとヤスヲさんは漁港の匂いがしていて、目やにが付着していた。風呂にも入っていないのだろう。
独居老人は悲しい。
つらい。
切ない。
いつまでその生活が維持されるのか分からない。
帰り道は同じ十面荘だから、私は飛石さんの荷物を半分持ってあげた。
お礼を言われ、
「ありがとう優しいかわいいお嬢ちゃん。俺があと五十年も若かったらほっとかないんだけどな。あんたはかわいいね!HAHAHA!」
と高らかに笑いながら言った。
昔はパンクスだったのだろうな、飛石ヤスヲさん。
切ねー。
老人問題……。
また大場いろはと会った。
親友だからだ。
大場いろはは自信に満ちた顔でこう言い放った。
「まあ私は無職だけど、こないだ地球連邦同盟の総司令官に抜擢されたばかりなんだけどね。火星と闘うんだー」
「?」
「おっ。ととととと。これはまだ機密事項だった。彼氏にも言ってない」
「うん……それ彼氏には内緒にしといた方が良いよ」
いろは大丈夫だろうか?
猫国は今、旧正月。
上の階のヤンだかヤングが国に帰っている。
静かだ……。
その間、室内のオブジェ製作もお休み。
上が静かだ。
ヤンひとりいないだけでこんなに静かか。
二週間くらいで帰ってくるが、一生帰ってくるなと思う。
一生、里帰りしててほしい。
私の部屋は六畳と四畳半二間あるが、こたつとエアコンの付いている居間は冬でも暖かいが、寝室の四畳半の方はこの季節とても寒い。
窓も小さくて光があまり当たらず、まるで避暑地のようだ。
だから『軽井沢』と呼んでいる。
軽井沢の四畳半は寒い。
冷え性の足先が本領を発揮してしまうので、冬場の軽井沢には寝る時以外はあんまり居ないようにしている。
また、いろはと電話した。
ほんといろはの事好きだよな私も。
百合(ゆり)るか。
いや。
安直に百合らないのが私たちの友達としての矜持。
電話で愚痴をこぼす私。
会社の愚痴を。
「正直転職も考えてるだ」
「え」
「会社じゃFAXもろくに使えねーのかよって小言の毎日なんよ。もうオワコンなのにFAX……」
「FAX?って何?FUCKする事?」
「違う!FAX!電話みたいな仕掛けで紙に書いたものを別の場所に転送する機械!」
「え!?そんな事が可能なの!?この二十一世紀の科学力で!一体どんな仕組みで媒体、媒体、紙媒体を遠方に飛ばすというの!?」
「本当に知らないんだ……」
「すげー!FAXすげー!」
いろはは自由に生きれば良いよ。
FAX知らなくても生きていけるから。
地球連邦同盟の総司令官に任命されたらその仕事して火星人と闘えば良いし。
雨が降ったら、雨に打たれて泣けば良いし。
子猫が可愛かったら、笑えば良いんだよ。
だから、大丈夫だよ。
続く
夕焼け。こやけ。 第三話
ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう。