Son!!!

『放射線を持った男』
――地下室の住民票――

朝、目を覚ますと、僕の顔からエクボが一つなくなっていた。

小学校の高学年の頃から、そこには確かに小さなくぼみがあったはずだ。指で押すと、皮膚の下に硬い鉱石のようなものが埋まっている。母はそれを病気ではないと言った。父は星に似ていると言った。

しかし、星を父に与えた記憶はない。

役所へ行って事情を説明すると、窓口の女は僕の顔を見ないまま、番号札を渡した。

「エクボの消失ですね」

「そうです」

「原因は放射線でしょうか」

「わかりません」

「では、原因不明ということで処理します」

女は書類に判を押した。

僕は自分の身体が、すでに役所の所有物になっていることに気づいた。

外へ出ると、電車の窓に僕の顔が映っていた。エクボは戻っていた。ただし、そこには小さな黒い穴があり、穴の底から誰かがこちらを見ていた。

その男は僕によく似ていた。

男は口を動かした。

「母ちゃんを大事にしろよ」

僕は返事をしなかった。

駅前の広場では、放射線量を測定する男たちが、白い防護服を着て行列を作っていた。彼らは自分たちの身体を測定しているのではない。身体がまだ自分たちのものであるかどうかを測定していたのだ。

一時間あたりの数値が表示された。

僕はその数字を見て、急に勃起した。

理由はなかった。

理由がないということだけが、僕に残された最後の自由だった。

地下室へ降りる階段の途中に、竹丸という男が立っていた。

「ここから先は住民票が必要だ」

「僕は住民です」

「証明しろ」

僕はポケットを探った。出てきたのは、明日のお弁当の包み紙と、競馬で負けた三万円の領収書、それから母親の古い写真だった。

竹丸は写真をしばらく眺めていた。

「この女は誰だ」

「母です」

「ならば通っていい」

地下室には何百人もの人間がいた。彼らはみな、自分の身体から放射線を取り除こうとしていた。ある者は皮膚を洗い、ある者は記憶を洗い、ある者は自分の名前を洗っていた。

壁には大きな文字で書かれていた。

身体は公共物です。使用後は必ず返却してください。

僕はそこで初めて、自分がまだ生きていることを疑った。

帰宅すると、母の作ったベーコンとピーマンの炒め物がテーブルに置かれていた。

食べようとしたが、箸がなかった。

窓の外では、東京の星が一つずつ消えていた。

父に与えた星だったのかもしれない。

僕は皿を持ち上げ、裏側を確かめた。

そこには小さなエクボが一つあった。

誰かが僕の顔を使って、食器を製造していたのである。

Son!!!

Son!!!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-11-06

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain