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暗黒の線量
私は、あの数字をいまでも覚えている。
一万分の一。それが、0.1マイクロシーベルトになるのだと、誰かが説明した。時間を一年に延ばすには一万倍すればよい。三・八マイクロシーベルトならば、年間三十八ミリシーベルト。説明は正確で、声には少しも動揺がなかった。まるで船の位置を報告する航海士のようだった。
だが、海には数字で測れないものがある。
放射線は、目に見えない。人間の身体に入り込み、細胞の奥で何かを破壊し、あるいは修復されるのを待つ。一本のDNAが傷つき、もう一本が残されているならば、身体はまだ自分自身を救うことができるかもしれない。しかし、二本が同時に損傷したとき、人間は自分の内部にある暗い海図を失う。
私はその説明を聞きながら、奇妙なことを考えていた。文明というものもまた、一本の鎖が切れただけならば修復できるのではないか。しかし、貨幣と権力と欲望が同時に傷ついたとき、われわれは何を頼りに航海を続ければよいのだろう。
大正大学の批評精神が、何かを語っていた。スカラシップという言葉が、貧困の上に白い旗のように掲げられていた。春を知らない八十九歳の男が、童貞であることをまるで国家の秘密のように守っていた。遠くで誰かが憲法を叫び、別の誰かがCEOの解任を告げていた。私は彼らの言葉を聞いていたが、誰一人として同じ海を見てはいなかった。
美佐江は言った。
「because my penis is very small and very angly」
その言葉の意味を私は理解しなかった。理解する必要もなかったのかもしれない。人間はしばしば、自分の孤独を説明するために、もっとも不適切な言葉を選ぶものだ。
太陽は男だと、誰かが文書全体の中心をペニスの皮で包んだ。私は笑わなかった。太陽が男であるか女であるかを決めることは、海の上で風向きを決めるよりも難しい。ましてや、その中心に何かを据えたところで、暗闇が退くわけではない。
ルイサは車を盗んだ。彼女は車が欲しかったのだ。理由はそれだけだった。人々は彼女を非難したが、彼女を非難する者たちもまた、別の種類の車を盗んでいた。彼らは貨幣を盗み、時間を盗み、他人の人生から必要な部分だけを切り取っていた。
「これはてめえのペニスで俺のじゃねー」
硬貨がそう叫んだ。私はその声を聞いたとき、貨幣が初めて自分の所有者に反抗したのだと思った。九百万でも、九千万円でも、人間は自分の身体に値札をつけることができる。しかし、値札をつけられた身体が、その価格を承認したことは一度もない。
遠くでフェラーリが走っていた。二十のジャズが流れ、浦和レッズの名前が誰かの口からこぼれた。サメンスという言葉が壁に貼りついていた。私はその意味を尋ねなかった。港町では、意味を尋ねないほうがよい言葉がある。
ヘッドホンを置くことが恥辱であると、どこかの機械翻訳が告げていた。コンクリートはいつもサンドイッチにされ、ゼリー状にされた水の記憶が人間の頭蓋骨に残っていた。音楽は枕のデザインを知的財産権の患者に囲まれ、横浜の乾いた風の中で、細いワイヤーのように震えていた。
私はその文章を読み返した。そこには意図があったのかもしれないし、なかったのかもしれない。だが、意図の不在は必ずしも自由を意味しない。船が羅針盤を失ったとき、それは自由になったのではなく、ただ漂流を始めただけなのだ。
「俺は許せねえ」
その声だけは、はっきりしていた。
何を許せないのか、誰も説明しなかった。戦争で死んだ者たちか。医師の沈黙か。身体の中で修復を待つ細胞か。あるいは、何も知らないまま船に乗せられた人間そのものか。
最後に、男が私に尋ねた。
「孔雀みたいか? 俺のセンズリ……そうか。」
私は返事をしなかった。
夜が明けるころ、海は何事もなかったように静かだった。だが、静けさは無罪の証明ではない。船体の内部では、見えない亀裂がまだ広がっているかもしれない。われわれは陸地に着くまで、それを知ることができないのだ。
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