発祥の地 第四部
BALLARD:
男は朝から体調が悪かった。
本を読もうとした。ページを開いた。しかし文字は彼の内部に入ってこなかった。文字は窓の外に並ぶ高層建築のように、ただそこに存在していた。
彼は文学コンプレックスについて考えた。
お笑いコンプレックスについて考えた。
自分が何者にもなれないという予感について考えた。
そして、何者かになることを要求する社会の建築構造について考えた。
職場は彼に向いていなかった。
しかし、彼に向いている場所など、どこにもなかった。
BURROUGHS:
職場を切り取れ。
給料を切り取れ。
上司の声を切り取れ。
「就職しろ」
CUT。
「給料を上げてほしい」
CUT。
「約束を破って申し訳ない」
CUT。
「何のオマージュなの?」
何のオマージュでもない。これは命令の複製だ。人間は命令を記憶し、記憶を自分の声として再生する。監視カメラは必要ない。監視カメラはすでに頭蓋骨の内側に設置されている。
BALLARD:
昼食のテーブルには二人の男がいた。
一人は初月給で友人に食事をおごる約束をしていた。もう一人は次の政権について話していた。
彼らの間には、アメリカの恐怖と日本の労働市場が横たわっていた。
テーブルの上の食器は清潔だった。
しかし、会話には何か腐敗したものが混じっていた。
男は自分の労働が自分のものではないことに気づいた。
BURROUGHS:
労働狂牛病。
給与明細。
嘘発見器。
チューリング。
テープはマス目に分割され、二方向に延びている。
一方向は労働へ。
もう一方向は監視へ。
金を返せ。
金を返せ。
金を返せ。
誰が金を持っている?
悪魔のプロポーズを受けた社員が、会社のアルゴリズムに結婚を申し込む。
BALLARD:
窓の外では、選挙カーが通過していた。
男は政治に関心がなかった。
しかし政治は男の生活に関心を持っていた。税金、給料、医療、食事、住居。それらはすべて政治の内部に配置されていた。
彼はサウナに行きたかった。
汗をかけば、何かが身体から排出されると思った。
だが、社会の命令だけは排出できなかった。
BURROUGHS:
サウナを解体しろ。
牛乳を解体しろ。
人生は牛乳。
牛乳は人生。
賞味期限切れの人生を誰が購入した?
約二十分程度の露出。
五パーセント以上、十パーセント以下の風景。
核攻撃。
放射能。
学校給食。
子供たちの校庭。
CUT。
ここでテープが燃える。
BALLARD:
校庭の土壌が汚染されていた。
大人たちは安全について議論し、自治体は基準について議論し、専門家は数字について議論した。
子供たちは校庭を必要としていた。
この単純な事実だけが、会議室の外に取り残されていた。
男はその文章を読んだ。
彼は怒っていた。
怒りの原因は、数字の不確かさだけではなかった。誰が決定し、誰が危険を引き受け、誰が責任を負うのかという問題だった。
BURROUGHS:
国家は巨大なテープレコーダーだ。
「問題ありません」
「問題ありません」
「問題ありません」
録音された安全性。
再生された安心。
消去された子供たちの声。
誰かが再生ボタンを押す。
誰かが停止ボタンを壊す。
BALLARD:
男は自分の部屋に戻った。
本を読む気力はなかった。
世界を変える気力もなかった。
ただ、窓の向こうにある風景を見ていた。
そこには、まだ名前のついていない都市があった。
都市は男を拒絶していたのではない。
男を必要としていなかった。
BURROUGHS:
必要とされない人間。
必要とされない文章。
必要とされない文学。
しかし、テープは回り続ける。
「俺にはこの労働が合っていない」
CUT。
「絶対に負け組で終わる」
CUT。
「本を読もうかと思った」
CUT。
「その気にもなれませんでしたね」
停止するな。
文章はまだ終わっていない。
発祥の地 第四部