発祥の地
『面接受かってた高校、あるいは沈黙の書き言葉』
第一撃 転職という名の陰謀
現場は遠い。現場という言葉だけが家の中を徘徊している。冷蔵庫のコンプレッサーが国家機密を吐き出し、コーラの泡が失業保険の受給資格を審査する。転職、転職、転職。履歴書の裏側には別の履歴書があり、その裏側には採用担当者の幼年期があり、さらにその裏側にはフロリダ州ではないフロリダ州の軍事衛星が旋回している。
「ちょっと待った」
誰が言ったのか。ボンヤリした通り魔か、労働組合の幽霊か、あるいは三万円の月給を百万に換算するために雇われた計算機の中の小人か。
マイカーは聖歌を歌う。聖歌はガソリン価格を告発する。平和を強調したつもりだったが、無職女の原動力は平和ではなかった。彼女は昼寝した。昼寝は資本主義に対する最後のストライキであり、枕は国際通貨基金の議長席だった。
線路沿いに声が立っている。
「お金くれ」
「テニス選手だって稼いでるじゃねえか」
「俺にはなんで金くれないんだ」
ニュース速報が割って入る。誰もいない。誰もいやしねえ。リーグ戦は始まる前に終了し、ボスは逃亡し、選手は全員サイボーグになった。スポンサーのロゴだけが生殖を続ける。
第二撃 身体はフレームワークである
フレームワークDIコンテナに収納された肺。ブラウスを脱がせろ。ミドルネームが凶器になる大統領。大統領にまたがる歴史の女。ユダヤ系であることをすすり泣く声。伝記は電気ショックの形式で出版され、読者は自分の記憶を返品する。
身体はすでに建物である。建物はすでに患者である。患者は手術室で核弾頭をサウナに持ち込んだ。汗が出る。汗は放射能を含む。放射能は文部科学省の入力ミスによって金魚に変換され、二百グラムの金魚が聾唖の中で泳いでいる。
「お前、俺の力つくのか」
誰も答えない。
科学に疎いという罪。薬によって頭が回らないという証言。カフェイン錠剤を食いすぎた脳髄。空爆された土地の瓦礫をベタベタと叩く指。指紋は消えている。指紋の代わりにJavaのクラス名が刻印されている。
public static void main。
人間は起動しない。
第三撃 避難所の建築家
田んぼはどこだ。自宅はどこだ。牛はどこだ。
事務所で雑魚寝する女たちが、避難所の床に新聞紙を敷いた。競争していたわけじゃない。一時帰宅で面白いはずがない。神様を殺している犬猫のほうがまだ大事にされている。個人情報は善良な顔をして近づいてくる。善良な顔には歯がない。歯がないので噛みつけない。噛みつけないので信用される。
ランドセルの中に汀がある。汀の向こうには東側の貧しさがあり、貧しさの向こうには無料のレイブがあり、無料のレイブの向こうには黒人のキッズがいるシカゴの街がある。ウナギが言った。
「六甲のおいしい水・アヴェニューが走っている」
おじいちゃんは輸入業者だった。輸入されたのは幸福ではなく、幸福の包装紙だった。包装紙には原産国が記載されていない。
「なぜここにいるんですか」
田んぼは答えない。牛は答えない。家族はテレビゲームの中で生き延びている。
第四撃 最後の言葉の製造工場
もういい。これが最後だ。最語のせりふだ。最語の言葉だ。
言葉は工場で製造される。工場は繁華街を奪い合い、労働者は首をひねり、胴元は設備の不足を笑う。世界労働運動写真家は紫色のエラを通して排出される。彼は写真を撮る。写真は証拠になる。証拠は半分だけ本当である。
日本の天皇家へ電話をかける。
「結局、話は半分だけ本当です。生きるということは嘘つくことです」
受話器の向こうで、部族の写真が燃えている。アマゾン部族はすでに消滅したと報道されているが、報道した新聞社の編集部には部族のメンバーが勤務している。彼らはウェイトレスと間違えられ、キャバクラの空気に借り出され、意欲という商品名で販売された。
金がない。電車子供料金。なくなっているアマゾン部族。鏡を見たら、戦士のなくなっている連中だった。
第五撃 昼間の姿はスーツ姿
斜めに構えているのか、薬でボケっとしているのか、誰にもわからない。
病む目。荒いクラス。クラスで一番背が高い男。餌場。屋形船。スローブ姿。森から群れを渡す。リストラに備えて女の匂いを考える。深酒とタバコで洗い流す。シャワーを浴びる。幸福を感じない。
「少し眠るといい」
「目が覚めても一緒」
身もだえする宇宙。腰を振る太陽系。失踪した板の本の爆破層。ギョーザだった人間。人間じゃ当然。大学教育を受けた方がいい。だけど学費がない。奥さんが叱った。雲はいちごみたいでフワフワしていた。
天麩羅は美味しい。
子供用の咳止めシロップを一気に飲んだ男が、マルクスの『共産党宣言』を駅で大声で朗読する。これは無意味な行動です、と駅員が言った。駅員の胸には資本主義の社員証が埋め込まれている。
「買いたい物がある方に行く」
それですべての陰謀戦争は終わった。
しかし水面は腰を振って高まり、都市の夏休みは放物線を描き、誰かがまた怒り始めた。
第六撃 リミキサーの患者
派遣プログラマーで怒られて涙した記憶。初日。高速道路。買いたいものがある。職安で眺めたそれ。大量の情報、それは選ぶことが出来、人は人と話すことが出来る。
だが選ぶことが出来るというのは、選ばなかったものを永遠に失うという意味ではないのか。
リミキサーは一万ドル以上の機械を前にして、ふりかけはいらないと言った。ばぁばぁは文章を作っている。音楽は商品になり、商品は祈りになり、祈りは鬱になり、鬱は家庭の取り組みとしてゴミの分別を始める。
「日本は祈り」
誰かが言った。
「俺は職安で眺めたそれを」
誰かが答えた。
そのとき神患者Iが現れる。神患者Iは患者を愛している。患者は地球を愛している。地球はインタビューを掲載している。地獄の釜よ起きて聞け。もう時間がない。医師の患者の手術室。宇宙の書き言葉。沈黙の書き言葉。
最終撃 面接受かってた高校
高校の面接に受かった。
その事実だけが、すべての情報網を切断した。
核弾頭は停止した。サウナの換気扇は止まり、金魚は二百グラムの重さを取り戻し、アマゾン部族は一時帰宅した。大統領はミドルネームを失い、労働者は三万円の賃金を百万に換算することをやめた。
だが、誰も帰ってこなかった。
高校の廊下に夕暮れがあった。面接官の顔は思い出せない。自分が何を答えたのかも思い出せない。記憶は電気ショックを受けた伝記のように白く、白いものは正しい解答であると教えられていた。
「もう時間が無い」
「これが最後だ」
「最後だ」
誰も話していない。
発祥の地