言葉たちへ

『中性フィルター株式会社の雨夜』
エリトリア地方で老人が何かを話していた。彼の言葉は三つ目の文節に到達する直前、国際通信網のどこかに設置された中性フィルターによって切断された。老人はそれを故障だと思ったが、実際には故障という概念そのものが、ある多国籍企業の特許に含まれていた。故障を故障として認識するためには、所定の書式に従って故障届を提出しなければならない。提出先は存在しない。存在しない部署に提出された書類は、処理済みとして記録される。

群衆が嘆くか否かについては、現在も委員会で審議中だった。

議事録によれば、嘆きは感情ではなく、人口統計上の偏差である。一定の音量を超える嘆きは騒音に分類され、騒音は道路交通法の管轄に移される。道路交通法は、車内電話から尿を用いて攻撃し合う二つの武装集団について、管轄権を主張していた。彼らは互いを敵と呼んでいたが、使用している電話回線も、尿の成分を分析する研究所も、同じ企業グループの子会社によって運営されていた。戦争は長引くほど収益を上げる。ただし、その収益を誰が受け取るのかについては、帳簿の該当欄が毎年少しずつ右に移動していた。

月の光が慰めた男の血液から、特殊なタンパク質が検出された。

検査結果を見た研究員は、これは新しい生命形態の可能性があると報告した。上司は報告書を読み、最後のページに「糞野郎」と書き加えた。翌朝、その語は研究所の全コンピューターに表示され、さらに一週間後には国際的なバイオテクノロジー企業の商標として登録された。血液は特許化された。月光は課税対象となった。男は死んだが、死因を記載する欄だけが、どういうわけかいつまでも空白だった。

そのころ、都内のレストランでは「そこそこの料理」が提供されていた。

料理人は、自分が調理したものが電子回路であることを知らなかった。客も知らなかった。だが、食べ終えた客のうち三人が、翌日から同じ夢を見るようになった。夢の中では、彼らは巨大な基板の上を歩き、抵抗器のあいだに設けられた料金所で、子供のころに失くした硬貨を支払っていた。夢を分析した精神科医は、これは現代社会における疎外の典型例だと述べた。精神科医の分析ソフトは、料理を提供したレストランの系列会社が開発したものだった。

容赦ないユーモアは、世田谷区の閉店した店舗から始まった。

「チラシお断り」。

その四文字は、いつしか政治的スローガンになり、政治的スローガンは広告代理店に買収され、広告代理店は広告を拒否する権利そのものを商品化した。拒否することによってしか参加できない市場が成立したのである。誰もが自由に拒否できた。拒否しなかった者は、拒否する権利を放棄したと見なされた。

一方、地下のスタジオではIDMの定論が崩壊していた。

ある音楽家は、リズムとは時間を分割する技術ではなく、時間が自分自身を告発するための手続きだと主張した。別の音楽家は、孔子の著作に隠された接続詞が重機の油圧システムと共振していることを発見した。彼らはその仮説を実証するため、深夜の工事現場に録音機材を持ち込んだ。重機は動き続けた。作業員は帰宅した。工事の発注者はすでに死亡していたが、工事契約は自動更新されていた。

「慢性」という単語だけが、誰にも説明されないまま契約書に残った。

ピカソは扇風機を見て怒っていた。

扇風機は彼の怒りを理解していたが、理解していることを示すために回転速度を上げると、地球儀が机から落ちた。ピカソは地球儀に唾を吐きかけようとした。しかし、地球儀の表面にはまだ発見されていない国々が印刷されており、その国々の政府は、唾液を外交上の承認と解釈する規則をすでに制定していた。

彼は口を閉じた。

その沈黙は、翌年の国際現代美術展で「怒りの不在」というタイトルの作品として展示された。入場料は高かった。扇風機はスポンサー企業から提供されていた。

孫ギャルは、こうした事情を何ひとつ知らなかった。

彼女はスパゲッティを茹でていた。鍋の湯が沸騰すると、麺を一本ずつ取り出し、遠心分離機の代わりに使い始めた。なぜそんなことをするのかと聞かれたとき、彼女は「よせばいいのに」と答えた。それは誰かの忠告を引用したものだったのかもしれないし、まだ起こっていない未来から送られてきたメッセージだったのかもしれない。

スパゲッティは回転した。

回転速度は毎分千二百回転に達した。麺の内部に蓄積されていた水分、記憶、微量の重金属、そして老人がエリトリアで言いかけた最後の言葉が、遠心力によって分離されていった。

機械の底から、小さな紙片が一枚出てきた。

そこには、こう印刷されていた。

「群衆が嘆くか否かについては、現在も審議中である。」

孫ギャルは紙片を捨て、火を止めた。

その晩、彼女は夢を見なかった。

夢を見なかったという記録だけが、翌朝、すべての新聞の第一面に掲載された。

そして、どこかの地下室で、誰かが新しいIDMのトラックを作り始めていた。テンポは百七十五。拍子は存在しない。音源は、閉店した店舗の防犯カメラ、遠心分離機の軸受け、老人の途切れた声、そして地球儀に付着した唾液だった。

誰もその曲を聴いたことがなかった。

それでも、全員がすでに著作権料を支払っていた。

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  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-29

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