還暦夫婦のバイクライフ 60
ジニー&リン、山陰を旅する 2
朝6時、ジニーは目を覚ました。部屋を出て洗面所に行き、顔を洗う。テーブルに置かれていた給水ポットから紙コップにお茶を2個汲んで部屋に戻る。
「お早うリンさん」
「お早う。眠れた?」
「うん。夜中に外で水が隣の家のトタン屋根にぱったぱった落ちる音が気になったけど、気が付いたら朝だった」
手にした紙コップをひとつ卓に置き、もうひとつのお茶を飲む。リンが卓の紙コップを取り、一気に飲んだ。
「朝ごはん7時30分だっけ」
「うん」
「顔洗ってくる」
リンは部屋を出て行った。ジニーは着替えて部屋を片付ける。ほどいていた荷物を、バッグに詰め直す。テレビをつけてニュースを見ながら、今日の道のりを確認する。洗面から帰って来たリンが、化粧を始める。一通り準備を済ませ、時間になったので食堂に向かう。おかず山盛りの朝食を腹いっぱい食べて、部屋に戻る。それから荷物を抱えてフロントに向かった。
「お早うございます」
「今日も良い天気でよかったですね。バイク日和ですね」
叔母ちゃんと話をしながら清算する。追加のビール1本を合わせて、二人で14,400円だった。
「うん。充分満足だ」
二人は荷物を持ち、旅館を出た。駐車場まで歩き、バイクにバッグを装着する。
「さて、行きますか」
「どうぞ~」
8時40分、二人は出発した。
日吉筋から御陵通りに出て、R426との交差点を右折する。その先でR178に乗り換え、さらに進む。少し走った所で北近畿豊岡道左折の標識が現れた。
「あれ?リンさんこの先左折だろうか?」
「ジニーナビ様は直進だって」
「そうか?・・・じゃあ、直進だな」
ジニーは今朝地図アプリを見ながら、どこかで左折して自動車道に乗るというイメージを持っていたため、ここを左折と思い込んだのだ。しかし過去自分の勘違いでさんざんやらかしたのを思い出して、言葉を飲み込んだ。そして、やっぱり勘違いだったことをすぐに知ることとなる。
「うわあ、ジニー見て。このあたりまるでR56の中山町あたりを走っているような感じだ」
「そうだなあ。この山や田畑の感じ、似てるな」
二人はのどかな田園風景を楽しみながら、緩い峠を越える。
「あ!自動車道入り口が出てきた。リンさんあれに乗るよ」
「そうだね。ナビ様もそう言ってる」
やはり自分の勘違いだった。あの時黙っていて良かったとジニーは冷や汗をかいた。
佐野I.Cから山陰近畿自動車道に乗り、余部I.Cまで走る。そこを降りてR178に出る。左折して少し走った所に、道の駅あまるべがあった。道路右側の駐輪スペースにバイクを止める。
「着いた。9時25分か。思ったより早かった」
二人はヘルメットを脱ぎ、ジャケットも脱いでバイクにかぶせる。道の駅は大勢の人達でにぎわっていた。
「まずは慰霊塔にお参りしてからだな」
ジニーとリンは、慰霊塔の前で手を合わせる。
「これは?」
「リンさん知らんかった?昔強風で列車が落ちて、亡くなっとるんよ。僕も詳しくは無いけどね」
「いや、聞いたことはあるよ。ここやったんやね」
「うん。今は新しい橋に架け替わって、エレベーターまである。昔の鉄橋も一部残して管理してるんだな」
二人はエレベーターに乗り、上に上がった。
「こんな上に、駅があるんだ。これ、エレベーターが無い時はみんな歩いて上がってたんだねえ。大変だったろうな」
古い鉄橋は展望台となり、遠くまで見通せる。しばらくうろつき、さらに一段高い撮影スポットに向かう。
「ああ、なるほど。ここからだとやって来る列車と背景がきれいに入るんだ。目の前に金網も無くて、いい景色だ」
暫く写真を撮ったりしてから、二人は歩道を歩いて降りた。降りたところに、大きなリクガメが歩いていた。甲羅の上に、帽子が乗っている。
「ああ、亀駅長だ」
暫く歩くさまを見学してから売店に向かう。中の展示館で、新しい橋の架け替え作業の映像を見る。
「すごいなあ。技術力半端ない。よく思いつくもんだ、この工程」
「ほんとだねえ」
二人でひとしきり感心してから、店内に入る。
「リンさんトイレ行ってくる」
「どうぞ」
ジニーがトイレに行って戻ってくると、リンが嬉々としてテイクアウトコーナーに立っていた。
「ジニー、11時から販売と思ってあきらめていたかにバーガー、買えたよ。おまけにほら、カニ寿司」
「おお、旨そう。バーガーは?」
「今作ってる」
少し待って、出来上がったかにバーガーを受け取る。それを持って、飲食コーナーの席に着いた。
「ああ、なるほど。カニクリームコロッケの上にカニの身が乗っていて、それをパンにはさんでいるのか」
「ジニー、白バラフルーツ牛乳買ってきて」
「おう」
ジニーは売店で、白バラフルーツ牛乳500mlパックを買ってきた。お水用カップを2個調達して、それに注いで飲む。うまい。
「では早速、いただきます」
かにバーガーを食べる。
「うまい!」
次にカニ寿司をほおばる。
「う~ま~い~」
リンが破顔する。二人は夢中で食べて、あっという間になくなった。500mlのフルーツ牛乳もすぐになくなった。
「これで昼飯は済みそうだ」
思わぬごちそうに、二人は満足した。
「さあ、次行こう。次は砂丘だ」
二人はバイクに戻った。
11時10分、余部を出発する。来た道を戻り、余部I.Cから山陰近畿自動車道に乗り、終点の新温泉浜坂I.Cで降りる。そこからR178を走ってゆく。海岸沿いの道の途中に、展望台があった。
「リンさん、あれって昨日ちらっと言ってたところじゃない?」
「あ、そうだ、寄ってく!」
二人は道の右側にある展望台の駐車場にバイクを止めた。邪魔にならないように隅に縦列する。
「穴見海岸展望台だって。山陰海岸ジオパークの一つみたいだな」
「へえー、いい景色。水平線まで見えるよ」
二人は写真を撮りまくる。
展望台に10分ほど滞在して、出発する。R178から居相I.Cで東浜居相道路に乗る。福部I.Cまで走って県道265号に乗り換え、すぐに鳥取砂丘の入り口交差点に到着した。
「リンさん、これってもしかして渋滞してる?」
交叉点を右折したとたん、車列がずらっと並んでいる。
「すごいな鳥取砂丘。僕は見誤っていたよ。どうせ寂れた観光地で、人もまばらだと勝手に思ってた」
「ジニー甘い!」
「恐るべし鳥取砂丘!さてどこに止めるかな」
「ジニー砂の美術館の駐輪場に、空きが見える」
「あ、あそこだな。警備の人に聞いてみよう」
ジニーは満車の立て札を持って入り口に立っている警備員に、ジェスチャーで入れるか聞いてみた。すると、理解した警備員が手招きしてくれた。
「よし、リンさん入ります」
「ラッキー」
2台のバイクは、無事砂の美術館の駐輪場に止めることができた。ヘルメットとジャケットを脱いで、バイクにかぶせる。
「リンさんどうする?先に美術館行こうか?それとも砂丘が先かな」
「そうねえ。砂丘行きましょう」
二人は歩道を歩いて行き、砂丘の南側から入る。
「砂が細かいな」
「靴の中にいっぱい入ると思うよ」
「それは嫌だな」
ジニーは靴が砂に埋まらないようゆっくりと踏みしめて歩く。砂丘は入り口から馬の背のふもとまでずっと下っていて、そこから丘へと登ってゆく。
「距離感がバグる。丘はすぐそこに見えるのに、丘を登っている人たちがすごく小さく見える」
「あそこを登るのはしんどそうね。ジニー左から尾根沿いに登ろう」
二人は馬の背の左側へと斜面を下ってゆく。下まで降りて尾根筋にとりつき、ゆっくりと登ってゆく。足元がずれて歩きにくい。息を切らしながら歩き、ようやく丘の上に辿り着いた。日本海を眺める。沖に小島が見える。風が吹き抜けて気持ちいい。反対側の波打ち際まで降りている人たちもいた。
「この砂の斜面を登るの、大変そうだな」
ジニーがつぶやく。
「ラクダ乗りたいなあ」
リンが言った。丘の上から入り口側を見ると、ラクダが居た。でも、人が乗っている様子はない。
「さて、戻ろう」
二人は砂丘を下ってゆく。ふもとまで降りると、次は登りだ。地味にきつい。息を弾ませながら歩き、やっとラクダの所までたどりついた。長い行列ができている。
「リンさん残念。今日は写真撮影だけみたいだ」
「え~。乗りたかったなあ」
リンががっかりする。
「リフト乗って、上まで行こう」
リフト乗場に向かい、片道料金を支払ってリフトに乗る。途中で観光写真を撮られる。
「何?今の何?」
「あれは、記念写真さ。出口で、欲しい人が買うんだ。今はパソコンでデータ取り込んで、すぐに印刷できるからねえ」
終点で降りると、写真が出来上がっていた。
「ジニー買っていこう」
「いいよ」
お金を支払い、写真をもらう。それから砂丘センターに行き、展望台に上がる。
「良く見える。雲一つない良い天気だ」
暫く二人で砂丘を眺めて、展望台から降りる。
「ジニーここから砂の美術館に入れるみたいよ」
リンが案内を見つけて指さした。案内通りに歩いてゆくと、サブゲートがあった。カード払いのみだったので、カードを取り出して決済する。ゲートをくぐると、広場になっていた。幸せの鐘まで行って鐘を鳴らす。ここにも展望台があって、違う角度で砂丘を見ることができた。遊歩道を下っていき、砂の美術館内部に入る。今年はスペインがテーマになっていて、正面にはガウディのサグラダファミリアの造形があった。他にも歴史的な場面や闘牛、ドン,キホーテなど、スペインを象徴する作品が砂で作られていた。
「思ったより作りこまれてる。圧倒されるなあ」
「うん。何の場面かとか説明読んでも良く分からないけど。そもそもスペインの歴史知らないもん」
「だよな。ガウディはテレビやネットで見るから知ってるけど」
巨大な砂の彫刻をゆっくりと見て回り、その後ショップに向かう。
「ジニーお土産買い込むけど、バッグに入るよね」
「多分大丈夫」
リンは友人に配るお菓子や小物を8点ほど買い込む。
「リンさんそろそろ次行こう」
「了解」
二人は砂の美術館を出てバイクに戻る。ジニーはバッグの中をあれこれ動かして、買ったお土産をどうにか収めた。
「リンさん、もう午後3時なのに、車の渋滞が収まってないよ。この人達明るいうちに砂丘に行けるんだろうか」
「どうかな」
全く動かない車列を横目に、二人は鳥取砂丘を後にした。
県道265号からR9に出て、白兎神社に向かう。
「リンさん、スタンドが有ったら給油するよ」
「了解」
暫く走った所にスタンドを見つけて、二人は立ち寄る。
「いらっしゃいませ」
「ハイオク満タン、一度に清算できますか?」
「出来ますよ」
店員さんは、2台一度に給油を済ませる。全部で16.4L入った。カードで精算してスタンドを出る。
「愛想のいい店員さんだったね」
「うん」
R9をさらに走り、15時40分、道の駅白兎神社に到着した。ここも人気で、入り口手前1Kmくらいから渋滞していた。何とかたどりつき、駐輪場にバイクを止める。
「さすが連休、すごい混雑だ」
「多いねえ。これ皆白兎神社行きでしょ?」
「たぶんね」
二人はヘルメットとジャケットをバイクに置き、神社へと歩いてゆく。白兎神社はこじんまりとしていて質素だが、趣がある。社務所前には御札やお守りを購入する人達が、長い行列を作っていた。
「う~ん、これはどうするか」
リンが悩む。
「多分もう来ることはないと思うよ。御朱印もらったら?」
「そうだね。そうしよう」
二人は列に並んだ。
思ったより早く列は進み、10分ほどでお守りと御朱印を手に入れた。神社を出て参道を戻る。バイクのバッグに収めてから浜辺へ向かう。歩道橋を渡り、歩道を歩いてから浜に降りる。浜にも大勢の人たちが居て、にぎわっていた。リンは波打ち際まで行き、波と戯れる。
「大きい波来たぞ」
「わあ」
リンが楽しそうに波を避ける。
「日本海に触ったよ」
「それは良かった」
暫く浜で過ごして、バイクに戻る。
「さて、後は今日の宿に行くだけだ。僕もナビ様召喚するよ」
「よろしく」
準備を整え、16時30分道の駅を出発した。
R9を西に走り、青谷I.Cから山陰自動車道に乗る。大山が遠くに見える。
「あれ、大山だよな」
「あの前の方の山?あれは大山だね」
「あれの向こうまで行かないとか。遠いなあ」
「あと1時間くらいだって」
山陰自動車道ははわいI.Cで終わり、そのままバイパスになる。
「なんだか混んできたと思ったら、信号だ。自動車道じゃないんだ」
のろのろと動く車列の一部となって、大人しくついてゆく。しばらく行くと、山陰自動車道が再び現れた。車列のまま高速道に乗る。スピードが上がり、大山が近くなってきた。すそ野を横切り、淀江I.Cで山陰道を降りる。県道279号からR9に入り、先に進む。
「リンさん。ナビ様海岸沿いの道を案内している」
「私のも同じね」
「じゃあ、ナビ様のいう通り」
おそらく渋滞回避のための案内だろう。畑の真ん中をまっすぐ走り、川に突き当たって左折し、R431に合流した。その先労災病院入り口交差点を右折する。そこからはナビの案内通りに走る。
「なんだかえらい路地を走らされるなあ。あ、いかついお兄さんたちが立ってる店が何軒かあるなあ。あ!ここソープ街だ。皆生にも有るんだ」
「温泉街にはどこでもあるんじゃない?道後にも有るし」
「そうだな」
路地を抜けて広い道に出て、18時10分今夜の宿に到着した。玄関前にいた係の人がやってきて、駐輪場の場所を教えてくれた。案内に従ってバイクを廻し、駐輪場に止めた。
「先客のバイクがやたらだ。もう少し考えて止めろよ」
ジニーがぶつぶつとつぶやく。荷物を外して肩に担ぎ、フロントに向かう。玄関で台車を構えて仲居さんがいる。担いできたバッグを台車に乗せる。それからチェックインを済ませる。仲居さんに部屋まで案内してもらい、部屋で夕食と朝食の時間を決める。一通り説明して仲居さんは下がる。
「リンさんこの汗を流そう」
「お風呂行こう」
夕方まで50分ほどある。二人は温泉に行った。カラスの行水のジニーは30分もしないうちに部屋に戻って来た。しばらくしてリンも戻って来た。
「さあ、時間だ。ご飯行こう」
二人は宴会場に向かう。入り口で係の人が案内してくれて、個室に座る。すでに料理がずらりと並んでいた。
「うまそうだ」
「さすが観光ホテルね」
予約時に料理のコースは割安なコースだったのだが、充分満足のいく料理だ。地ビールを2本追加で取り、二人で乾杯する。ビールを飲みながら料理を堪能する。
「鳥取砂丘は永遠の観光地だな。あの手の観光地って廃れてる所が多いのに、今でも大人気だ。何でだ?」
「唯一無二だからじゃない?」
「ああ、そうだな」
ジニーは納得した。
食事が終わり、売店に寄る。宅配用の段ボールをもらい、部屋に戻る。箱の中に着替えやお土産を詰めると、バッグが軽くなった。
「よし、まだまだ入るぞ」
「もうそんなには入れないよ」
「明日は井倉洞か。どんなところかな?そう言えばリンさん、明日時間が有ったら倉敷に寄ってみる?」
「多分時間無いけどね」
こうして2日目も無事終了した。
還暦夫婦のバイクライフ 60