ありがとう。

命の期限


ある日、蒼 蓮斗(アオイ レント)という青年は余命宣告を告げられた。
命の期限は1ヶ月だそうだ。
これ以上の命はないだろう、そう告げられた。

青年はその場で大粒の涙を流した。

青年は、両親が暮らす故郷とは離れた学校に通っていた。
野球をするために、寮で生活していたのだ。

「どうしてなんだ。俺はなんでもう死ななければいけないんだ。」

青年は泣き崩れた。
寮に帰ってからも泣き続けた。
次の日も、またその次の日も。
野球も休み、学校も休みずっとずっと。

宣告をうけて3日後か、青年を心配して野球仲間が訪ねてきてくれた。
だが、青年は仲間を追い帰してしまった。

その次の日、野球部の顧問が訪ねてきた。
また追い帰そうとしたが、

「これ以上こもるようでは、親に連絡する」

と言い出した。
その言葉で、青年はドアを開けた。

「どうしたんだ。何かあったか?溜ってるもん吐き出しちゃいな。」

その言葉に青年の口が開いた。

「俺、病気なんです。余命1ヶ月なんです。親にはまだ言いたくない。心配させたくない。
 こんな俺ってわがままですか?悔しくて、親孝行もしてないしまだまだ野球したいです…」

大粒の涙を流しながら言った。
その言葉に先生は、驚いたが優しい笑顔になって

「親には言いたくないんだな。お前がそういうなら俺は何もしない。生きるのをやめるなよ。
 それから後悔の無いように、人に感謝して生きろ。そうすればきっと、報われる。」

そう言い残して、部屋をでて行った。

両親と再び…

その後も青年は泣き続けた。
しかし、次の日からは学校に登校した。

そして、お見舞いに来てくれたみんなに謝った。

体力も落ち、野球を前のようにできなくなったが彼は部活に通い続けた。
みるみる衰弱していく青年は、自分の命に終わりが迎えてる事を実感する。

そして、もう腕に力が入らなくなった頃。
学校をやめた。
友達には事情を伝えず。
勉強のできない体になってしまったからだ。

青年は家に帰ることを決意したのだ。

家に帰ると、両親は驚いていた。

「お帰り。どうしたの?話はゆっくり蓮斗の口から聞くわ。」

優しく微笑み母は言った。

青年は、余命残り2週間のことを話した。
すると両親は泣いていた。

「辛かったね。一人で抱え込んで辛かったね。ごめん…ごめんね…
 蓮斗の病気の事は顧問の先生から聞いてたの。連絡しなくてごめんね。」

母の言葉にびっくりしていた。
その時、母が青年を抱いた。
母の温もりに青年は涙した。
そして青年は、あの日先生の言葉を思い出した。

『人に感謝して生きろ。そしたら報われる。』

青年はおもむろに、言い出した。

「お母さん。お父さん。いつもありがとう。俺は幸せ者だ。
 俺、死ぬ前にさみんなに会いたい。もう一回学校に行っていいかな?」

父は微笑み

「好きにしなさい。蓮斗の好きなように過ごしなさい。
 お金は俺が払うから行ってきなさい。」

黙って父はお金をポケットに入れた。

クラスメイト

青年は再び学校に行った。
遠かったが、父が駅まで車で連れてってくれた。

学校に着くと、まだ11時だからか校庭は体育をしていた。
親が学校に連絡していたのか、先生が迎えてくれた。

「蒼、よく来たな!クラスにいこう。みんなが待ってる。」

青年は意味をよく理解していなかった。
促されるまま、クラスに連れて行かれた。

ガラッ—――

青年は教室に入ると、クラスメイトのみんなが

「おかえり~」

と笑顔で迎えてくれたのだ。
青年はこの時、先生の言葉の意味を知った。

「なんか理由があったんだろ?良ければ俺らに話してくれないか?」

そう言葉を切り出したのは、クラス委員の 田中 祐介(タナカ ユウスケ)だった。
彼は、青年とは野球部で一緒で仲が良かった。
その言葉で青年は、少しずつ語りだした。

 病気だったこと。
 2週間前に余命宣告をうけた事。
 体力が落ちて、学校に通えなくなったこと。

すべて、語った。
すると 田中 祐介が

「お前、一人で抱え込んでて辛かっただろ。ごめんな。何も気づいてやれなくて。」

泣きながら青年に言った。
クラスの子のほとんどが泣いていた。

青年は初めてこんなにも、誰かに想われる嬉しさを知った。
クラスメイトのみんながこんなにも優しい事も。

青年は、少ない体力を使い立ち上がった。

「今までありがとう。俺はすっごく幸せ者だった。みんながこんなにも想ってくれて。
 あまり話したことのない奴も、いっぱいいたけど楽しかった。本当にありがとう。」

頭をさげた。
みんなから拍手をもらった。
その後、青年は最期であろうみんなで食べるご飯を食べ、保健室で休憩をした。

ありがとう。

ありがとう。

ある青年の命の話です。 残り少ない人生をどう過ごすのか。 人に感謝する大切さ。 命の大切さ。 再確認できるようなお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-08

Copyrighted
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  1. 命の期限
  2. 両親と再び…
  3. クラスメイト