夕焼け。こやけ。 第一話

おはようございます。新作第一話のお届けです。主人公岸井明日を取り巻く、優しくて少し残酷な世界。お楽しみに。

第一話


 「夕焼け。こやけ。」
       (第一話)

         堀川士朗


☆登場人物

岸井明日(きしい・あした)。
主人公の女性。北区十条のアパート、十面荘104号室に住んでいる社会人。29歳。

大場いろは(おおば・いろは)
岸井の学生時代からの友達。無職。妄想狂。自称、『地球連邦同盟総司令官』。

千代鳥さちか(ちよどり・さちか)
岸井の住む十面荘の大家さん。103号室に住んでいる。面倒見が良い。アパートに併設している居酒屋『さちか』の女将もやっている。

ヤング・可進(やんぐ・かしん)
十面荘204号室に住んでいる若い男。猫国人。生活音が非常にうるさい。部屋で絶えずオブジェを作っている。

南条栄子(なんじょう・えいこ)
居酒屋『さちか』の常連。弾き語りをする。

飛石ヤスヲ(とびいし・やすを)
昔はパンクスだった。孤独な独居老人。十面荘101号室の住人。

芦塚誠(あしづか・まこと)
十条駅前の美味しい煮干しラーメン屋『日々流転。』の店主。
中野の有名ラーメン屋で修行して十条に人気店を構えた。


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この国ではスクラップ&ビルドが世の常で、絶えず変容し、絶えず変貌する街並みに人々の顔色も肩書きもまた確かではない。
古き街並みとの惜別を私は悲しんでいた。
その変容から除外されたモチーフが東京のあちこちに点在している。
スクラップ&ビルドから、遠く離れて。


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北区十条。
十面荘。二階建て木造アパート。築年数四十年以上。畳の部屋は六畳と四畳半の二間。
十面荘は十部屋ある。

一階の104号室。
私の部屋だ。
家賃は月五万四千円プラス共益費三千。
十条の相場としては、まっとうだ。
家具やものや服の数も少ない。
去年の夏、抜本的な断捨離をして段ボール六箱分の不要品を処分した。
ベッドも捨てた。
常に、例えば明日にでも引っ越せる状態にまでもっていく事をテーマとした断捨離を行ったのだった。
それでも捨てられなかったものがある。
私のトランジスタラジオは、音を、局を拾わない。
無用の長物だが、手放す事は出来ない。
母からもらったもので、もう十年以上使っている。
母はもうこの世にはいない。
母と私とを繋ぐトランジスタラジオ。
いつか母からのメッセージが届くような気がして捨てられない。


友達の大場いろはと話している。
今日はいろはが家に来る日だ。

「あの時ああしてればなあーって思う事あるよね」
「ある。いっぱいあるよ、いろは」
「まあ、人生は後からだったら何でもかんでも言えるからね。あったかいスープ飲む?」
「うん」
「買ってきて」
「どんな神経だよ」


昼。
上の階の204号室には猫国人のヤンだかヤングだかいう名前の奴(白髪で頭頂部がはげているがまだ若い男だ)が住んでいて、日中特に夜、まるで歌舞伎役者が住んでいるのかよってぐらいズタンバシン足音や物音を立ててうるさかった。
私が休みの土日でこうなのだから、平日もきっと変わらずにいるのだろうな。
何かを作っているのかもしれない。
オブジェ的な何かを。
室内に。
サグラダ・ファミリアのように作製に時間がかかっているのか?
毎日ズタンバシン作っているという事は。
生活の基盤は?とかそんな事を考えるのも無駄な事だと思ってやめた。
もう騒音には慣れてしまったし、204が越してきた去年に二回ほど大家さんのさちかさんを介して苦情を伝えているが、全然改善されないのでもう諦めた。
諦めた事にするしかない。
三回はピンポンダッシュとドア蹴りダッシュはしたが効果はなかった。
ゴーホーム国帰れ貼り紙も三回貼ったけど効果はなかった。
諦めるしかなかった。
そういう人間なんだと。
腹を立てるだけ無駄なんだと。


夕方。
十条駅前も変わってしまった。
商店街の馴染みの店は立ち退いて数年前から工事が始まり大きな駅ビルが建った。

スクラップ&ビルド。

日本は災害が多すぎるよ。
もし今、南海トラフ巨大地震が来たらどうなるのだろう。
この、出来上がったばかりの十条駅ビルも倒壊するだろう。
十面荘も高台にあるけど津波でおしまいだろう。
日本中がスクラップ&ビルドする事になる。
滅びの序曲はもう流れているのだ。
変化変容窯変。
変わらないのはこの夕焼け空くらいのものだ。
秋の空は空の色合いでだいたい何時か分かるわね。
私は空のグラデーションが愛しいこの季節が好きだ。
十七時の夕方チャイムが鳴る。
それぞれの十七時たちが居て。
おのおのの十七時たちが集まって心寄せあって。

ほら、見て。今日もこのしょっぱい世の中を夕焼けが包むよ。
夕焼けさん、また会いましたね。


やがて、夜が来る。
夜が降る。
今夜は緑色の星が、瞬いている。


           続く

夕焼け。こやけ。 第一話

ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう。

夕焼け。こやけ。 第一話

「夕焼け。こやけ。」あらすじ ほら、見て。今日もこのしょっぱい世の中を夕焼けが包むよ。 夕焼けさん、また会いましたね。 (本文より) 主人公、岸井明日は北区十条の 十面荘に住んでいる。 新宿の会社に通う会社員だが、 あまり働いていない。 親友の大場いろはは今日も妄想を膨らます。 疲れたアラサー世代に贈る、 ちょっと切ない、 ちょっと不思議な、 地域密着型の生活の物語。 夕焼け。こやけ。 全七話。 (この小説は、小説家になろう、星空文庫、カクヨム、ノベルアッププラスにて掲載しております)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-24

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