ぼくにもできたよ

僕は、はっきり言って体が弱い

だから、ちょっとでも走るとすぐに息が切れて

お母さんが心配して駆け寄って


やめなさい!


ちぇっ、走りたいお年頃なんだよっ


だから

友達が考えた

高い高い、向こうにあるの丘の上まで冒険して

ピクニックをしようっていう

すばらしき提案にも

もちろん乗れなかったわけだ


その日の朝、友達がやってきて


お土産持ってくるぜ

まってろよな


って言ってくれたけど

別に僕はお土産が欲しいんじゃなくて

君たちとしんどくなりながら登って

それから頂上にたどり着いて

一緒にご飯を食べるって

そういうキラキラした時間を一緒に過ごしたかったわけなんだよ

わかってくれるかい?

まあそんなこと言ったって

僕が冒険できないという事実は

変わりなんかしないんだがね



あいつらは

道に迷ってしまったのか

帰ってこなかった

みんなおやつの時間までは気にしなかった

けどそれが

空が真っ赤になって

それから

真っ黒になっちゃって

大人の人がとうとう慌てだして大勢出ていって

あいつらを探し始めた

まったく

ばかだなぁ

どうせ地図も持って行かなかったに違いない

方位磁針も

ライトも

しかたないなぁ

僕は

部屋の隅っこに

いざという時のために

いざという時のためだよ?

に準備していたリュックを背負って

キッチンにいるお母さんの目をかいくぐって

裏庭に出て


よし、脱出成功

向こうの丘に行くって言ってたな

あいつらバカだから

反対側に行くことも…

まぁないか

とりま登ってみよう

お父さんたちに見つかったら連れ戻されるし

お父さんたちとは反対側を探すか


はぁ

はぁ

いい運動だな

あいつらどこまで行ったんだろう

すごいな、てっぺんまで行けたなら

ライトは…よし、ついた

街から離れると暗いなぁ

はぁ

はぁ

あっ、こけちゃう


いったぁ…

僕が転んでどうするんだ

あいつらだって迷って怖いんだから

僕がヒーローになって

助けに行ってやるんだから

はぁ

はぁ

はぁ……

息ができない

しんどっ

よくこんなの、みんなできるよな

はやく大人になりたいなぁ

大人になったら

もっとたくましくなって

走り回っても

ちょっとやそこらじゃ疲れなくなって

あ〜ぁ

疲れた…

ちょっと、寝ようかな……

まぶたが閉じちゃう……



うわぁっ

まずいっ

どれくらい寝てたんだろ

早く探しに行かなきゃ

寝たからかな

休憩したからかな

体が軽いぜっ

ほっ

ほっ

うぉ〜っ

てっぺんまできちゃったよっ

空が近いや

空って広いんだなぁ

近くで見ると、全然ちがう

あいつらは、この景色、見れたかなぁ

お昼もいいだろうけど

夜の丘の上もいいから

あいつらと一緒に見たかったなぁ

あれはお月様で、

あれはお星様か

あれはいつも行く教会で

あれはもしかして僕の家?

家がちっちゃくて

小人さんの家みたいだ

あ

今日

夕ご飯食べてないなぁ

あれっ

お母さんのオニオンスープの匂いかな

帰らなきゃ

あいつらも、帰り道で見つけて

一緒に帰ろ

きっと

お父さんたちが見つけてくれるだろーし

大丈夫だろっ

だって

今日は

こんなに星が明るいんだから

ぼくにもできたよ

ぼくにもできたよ

フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-22

Copyrighted
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